グスタフ・レオンハルト チェンバロ・リサイタル 第2夜
報告:三木 隆二郎 (2階 R2列 36番)
投稿日:2007.07.3
今晩の演奏プログラムの第1部の最初は素朴でありながら、どことなく哀しさのある響きの曲から始められた。
プログラム・ノートを執筆された矢澤孝樹氏によれば、本日のプログラムはあまり有名ではないJ.S.バッハの曲で始まるが、それは「ヒマラヤの高峰のような傑作群ではなく、他の作曲家の山脈と稜線でつながる隠れた山々を愛でてこそ、『ドイツ・バロックの一人の作曲家』としてのバッハの姿が見える、とレオンハルトは言いたいかのよう。」とのことである。
その後も、ヨーロッパの邸を巡るような様式美を味わう曲や、川の流れに逆らって魚が尾ひれを動かしながら遡っていくかのような写実的な和音の進行が楽しめる曲などがあり、チェンバロという楽器の持つ多様性を充分味わって休憩となった。
休憩時間にはレオンハルトが自ら調律する際に静寂を保つ必要があるため、聴衆は会場の後方の席に残って遠くからその様子を眺めるか、ホワイエに降りてグラスを片手に外の眺めを楽しむか、二者択一を迫られる。
実は初夏の第一生命ホールの楽しみの一つは、ホワイエでの休憩時間の過ごし方にある。というのもホールの所在地が隅田川の最下流が三又に分かれたうちの二つの流れに挟まれた晴海にある為に、ホワイエからホールの外に出て眺める景色が、実に良い気分転換となるからである。
ホールを背にして右には海に流れ込もうとしている水面が見え、真正面には高層マンション、左前方には大川端リバーシティの高層マンション群、そして左遠方に聖路加タワーや丸の内の高層ビル群まで見渡せるのだ。
こうした眺めを楽しむと休憩時間はすぐ過ぎて、第二部はフォルクレの組曲だけを聴くことになるのだが、この曲は最初の曲から低音域をふんだんに使い、重厚で格調の高い宮殿を連想させるような曲や大きな木のある広大な庭園を連想させるような曲が続き、最後のクープランは圧倒的な音楽による「威厳」をチェンバロで築き上げる、という実に多様な響きを味わうプログラムとなっていた。
そしてアンコールとしてJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番ト短調を原典としたシチリアーノ、さらに大きな拍手に応えてのアンコール二曲目はフィッシャーのシャコンヌ ト長調で締めくくられた。
昨年キャンセルされた日本公演のため、今回の来日も危ぶまれたが、舞台の演奏を見聞きする限り、80歳を目前としているとは信じられない程の健在振りであった。第一生命ホールの座席数767席の中で空席になっているところが全く見つけられないほどの超満員の聴衆に丁寧に挨拶するレオンハルトを見ると、更なる来日を切に期待したい。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
グスタフ・レオンハルト
日時: 2007年6月26日(火)19:15開演
出演者:グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)
演奏曲:
J.S.バッハ:ソナタ イ短調BWV.967(1703?)/組曲ホ短調“ラウテンヴェルクのための
”BWV.996(プレリュード/アルマンド/クーラント/サラバンド/ブーレ/ジグ)/
4つの小さなプレリュード
パッヘルベル:4つのアリアと変奏曲(1699)
ベーム:組曲 変ホ長調(アルマンド/クーラント/サラバンド/ジグ)/シャコンヌ ト長調/
コラール・パルティータ“おおわが魂よ、大いに喜べ”と変奏曲
フォルクレ:組曲第1番 ラボルド/フォルクレ/コタン/ベルモント/ポルテュゲーズ/
クープラン