TAN's Amici Concert > 2010.3
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
このコンサートは、昨年行われたビバホールチェロコンクール第1位受賞記念コンサートである。
このコンサート当日、朝から雨が降り、大都市東京を多くのマラソンランナーが走っていた。そればかりか、前日、チリで大地震があり津波がくるとかで「川や海の近くに行かないで」という広報車までホールの周りを走っているという周りが慌ただしい日であった。
このコンサートは過去何回か聞いているが、個人的に楽しみにしているコンサートである。前回と今回は女流チェリストが優勝した。毎回違ったタイプのチェリストが出てきてとても面白い。
このコンサートは、普段のコンサートとはちょっと雰囲気が違う。開場する前も後もロビーのところどころに人盛りがある。何だか、同窓会や成人式場みたいだ。
開演の頃には、太陽が顔を出し始めた。
曲目は、ドビュッシーの「チェロソナタ」、デュティユー:ザッハーの名による3つのストローフェ」(無伴奏)、今年生誕200年のシューマン「幻想小曲集」、休憩を挟み養父市長の挨拶、そしてラフマニノフ「チェロソナタ」聞いてみて、加藤さんにぴったりのプログラムであると思った。加藤さんのチェロは、とてもよく歌い、あまり技術を感じさせない。
ドビュッシーは、明るい音色でとてもすがすがしい感じを受けました。
デュティユーは、チェロの音がすーっと客席に聞こえてくる感じでとても美しかった。
シューマンの幻想小曲集とアンコールで弾かれた「詩人の恋」から「あかりさす夏の前に」は、ピアノとチェロの対話が美しい。特にピアノの音色が少し輝いて聞こえた(ちょっと「のだめカンタービレ」ののだめが宮廷でコンサートをしたときみたいに)。
ラフマニノフは、ピアノが張り切り、チェロがとても美しく歌いとても楽しめた。
アンコールは、最初チェロの名曲サンサーンスの「白鳥」ピアノは少しクールに聞こえたがそれがかえってチェロのたっぷりとした歌心を引き立てた。
「白鳥」を聞くと、なぜか私は、山本直純さんのなぞかけを思い出す。白鳥とかけて禁煙ととく。そのこころは?というものだ。
とても楽しめた演奏会であったし、もし、機会があったらコンクールにも足を運んで見たくなった。
加藤文枝さんのチェロで今度は、バッハやベートーヴェンの作品を聞いてみたいと思った。
最後に、コンサート終了後の客席からの退席について、日頃何気なくやっていることであるが、そのタイミングは、なかなか難しいなぁと感じた。完全に終わりまでいられるなら問題はないけれど、予定が詰まっていたりするとどうしても早く出なければならない。たまたま演奏者の出るタイミングと自分が立つタイミングが合ってしまうと何となくばつがが悪い。コンサート終了後、余裕を持って帰れるようにしようと思った。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
日時: 2010年2月28日(日)14:00開演
出演者:加藤文枝(チェロ)、入川舜(ピアノ)
演奏曲:
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
デュティユー:ザッハーの名による3つのストローフェ
シューマン:幻想小曲集op.73
ラフマニノフ:チェロ・ソナタト短調op.19
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
本公演は兵庫県養父市で二年に一度行われる第8回ビバホール・チェロコンクール第一位受賞記念として行われた共催公演です。
このビバホールコンクールは1994年にスタートされた地方の小さな町が行うものでご多分にもれず財政難で厳しい状況にも拘らず堤剛氏をはじめとする審査員や毎回、100人を超える住民ボランティアの支援により立派に運営され続けられ、今や「若手チェリストの登竜門」と呼ばれるまでになっています。
この日のプログラムと共に挟み込まれたチラシの中には「第9回ビバホール・チェロコンクール」「元気な養父づくり応援寄付金」に加えて「一円電車募金」趣意書が含まれていました。「一円電車募金」とはかつて明延鉱山で走っていた乗車賃"1円"の鉱山鉄道の保存・活用活動としての募金への協力お願いです。
さて加藤文枝さんは同志社高校を卒業し東京藝術大学から今春、同大学院に進学予定の若き俊英でこれまでに、日本クラシック音楽コンクール全国大会第3位、札幌ジュニアチェロコンクール優秀賞、泉の森ジュニアチェロコンクール高校生以上部門金賞、京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家たち」奨励賞を受賞し、既に大阪センチュリー交響楽団とも共演し、2006年よりパリのエコールノルマル音楽院に給付生として入学、という綺羅星のような経歴を築いた上で2008年のビバホール・チェロコンクールに第1位となっておられます。
その後も2009年には東京藝術大学内にて安宅賞を受賞され、東京音楽コンクール弦楽部門第2位となり、今、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを持ったチェリストと言えるでしょう。
ステージが舞台明りになると純白ドレスで堂々と登場し、一曲目はドビュッシーのチェロソナタです。この曲は作曲家最晩年の様々な楽器の為の6つのソナタの一つですが、チェロ奏者にとってドイツロマン主義とは正反対の極めて繊細な演奏を求められるレパートリーです。冒頭の低音部から上向する音型からピアノと精密なアンサンブルが要求されます。 加藤さんの演奏は実に磨き抜かれたもので、特に親指によるピチカートはホールに良く響き渡り演奏効果を上げていました。
二曲目のデュティユーの「ザッハーの名による3つのストローフェ」と言う曲はスイスの指揮者パウル・ザッハーの功績を讃える為にロストロポーヴィチが世界の12人の作曲家に委嘱した作品の一つだそうです。
最弱音のハーモニクスもよく響かせて巧みな弓さばきで難曲を聴かせるのに成功していました。
三曲目はシューマンの幻想小曲集(Op73) です。弾き出しから万感迫るロマンチシズムのほとばしりが感じられ、卓越した技巧の持ち主であることが証明されていました。
四曲目はラフマニノフのチェロソナタト短調(Op19)です。この曲はシューマンから始まったロマン主義の行き着く姿があるともいわれますが、ロシア的な叙情をたっぷりたたえた名曲です。ただその為に、チェロとピアノのアンサンブルによってはチェロが隠れてしまって聴きとれないという危険性も出てくる難曲でもあります。
加藤さんの奏する1楽章は堂々とした風格を持ったもので、2楽章はアンサンブルピアノが水際立った演奏で、良くチェロを支えていました。3楽章は濃厚なロマンチシズムの一番の聴かせどころをたっぷりと歌ってくれました。4楽章はだんだん興奮してくるとピアノの分厚い響きにややチェロのメロディが隠れがちだったのが惜しいように思われました。
全体を通して才能豊かなチェリストをしっかりと支えていたアンサンブルピアニストは入川舜です。
アンコールの1曲目は白鳥をしっとりと、2曲目はプーランク作曲『ルイ・アラゴンによる2つのポエム』より「C」、3曲目はシューマン『詩人の意』より「明りさす夏の朝に」でした。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第8回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
加藤文枝 チェロリサイタル
日時: 2010年2月28日(日)14:00開演
出演者:加藤文枝(チェロ)、入川舜(ピアノ)
演奏曲:
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
デュティユー:ザッハーの名による3つのストローフェ
シューマン:幻想小曲集op.73
ラフマニノフ:チェロ・ソナタト短調op.19