
三澤響果・菊野凜太郎(ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)で構成されるクァルテット・インテグラは、国内外で数々のコンクール受賞歴を誇る、注目の若手アンサンブルです。現在はアメリカに籍を置きながら、世界中で演奏しています。
3年がかりでベートーヴェン、ブラームス、バルトークという「3大B」の弦楽四重奏曲第1~3番を演奏する本シリーズは、早くも今回が最終回。3人の弦楽四重奏曲のそれぞれ第3番が演奏される公演を前に、三澤さん、菊野さん、山本さんにお話を伺いました。
[聞き手/文:越懸澤麻衣(音楽学)]
第1回に続き、第2回も大好評でしたね。いよいよ第3回、最終回となりますが、どういうところが聴きどころでしょうか。(*全3回の演奏プログラムはこちら)三澤:第1番のときも第2番のときも、このプログラムは演奏者にとってけっこうなチャレンジだなと思いました。第3番は、バルトークはこれまでと比べると曲が短いですし、ベートーヴェンも私としては、最初に書かれたからかもしれませんが、1番ピュアな感じ。ブラームスもこれまでの2曲と異なり長調ですから、全体的に私たちもお客さんも緊張しすぎず、ちょっと力を抜いた状態で楽しめるかなと思っています。
菊野:個人的には、第3番はどの曲もちょっと掴みどころがない、というか......。これからリハーサルをして第一生命ホールで本番を迎えるのは、ワクワクひやひやな感じですね(笑)
山本:第3回の第3番になって、各作品のスタイルが徐々に明確になっていくような面白さがあるような気がします。第1番は、3曲ともすごくやる気を感じる作品で、第2番はちょっと第1番とは別の視点でクァルテットを捉えてみようというような雰囲気があります。そして今回の第3番は、ベートーヴェンの曲は最初に書かれたものではありますけれども、それぞれの作曲家が何かを見つけて新たな表現に向かっていくような感じがあると思います。
3人のなかでは、とくにバルトークの第3番が、第1・2番と作曲時期が異なりますし、作風も大きな変化が感じられるように思います。
三澤:バルトークの第3番は、第1・2番よりも聴きやすいかなと思います。よりキャラクターがはっきりしている感じですし。第2番と少し似ているところもあるので、前回も聴いてくださった方は、バルトークのなかのつながりも感じていただけるかと思います。
去年のインタヴューでは、この3人のなかではブラームスが一番難しい、とおっしゃっていましたよね。山本:それは今でも変わらないですね。ブラームスにとっては、「クァルテット」という形態が小さすぎたのではないかと思います。ヴィオラがもう一人いた方が良いんじゃないかと思う箇所がたくさんあって、音楽の分厚さに対して書かれている音が足りていない気がするんです。もちろん、それが素敵なところなんです。書きたい音はもっともっとあるけど、それを4人で弾けるものにまとめている、それがブラームスの難しさの一つかと思います。
三澤:ブラームスが難しい理由は、今の私たちの年齢と離れているからで、もし若いときにも書いていたらもう少し難しくなかった可能性もあると思います。どっしりとした重厚感にどうしても堪えれなくて、先に行きそうになってしまうときがあります。私たちがもう少し歳を取ってから弾いたら、また違ってくるかなと思います。
この1年間での新たな活動の展開といえば、CDデビューがありましたね。今年に入ってすでに2枚のCDが発売されています。
菊野:CDは自分たちが死んだ後も残るものだと思うと、ロマンがあるというか。レコーディング自体は精神的にも肉体的にも消耗して、終わったときにはヘロヘロになりましたけど、今の僕らの演奏が残るというのは大事だと思います。
山本:薄々気付いてはいたんですけど、自分たちの演奏はライブ感というのも大事な要素だなと、改めてCD録音をやってみて思いました。セッションで録音したときも、2回通して演奏して、その後数箇所、念の為もう1度弾いておくという感じで、テイクはかなり少なかったと思います。そういう意味ではCD作りにはあまり向いていないグループかもしれません、というのは宣伝になりませんが(笑)
2015年、桐朋学園に在籍中に結成されたということですから、まもなく10周年を迎えますね。振り返っていかがですか?三澤:クァルテットは人間関係を密に築いていくジャンルで、普通の社会では味わえないような関係ではないかと思います。長く一緒にやっていて、こういうときにはこう弾くだろうな、というのがお互いにわかってきました。ずっと一緒に合わせや本番をやっているので、他人だけれども家族のようなところもあります。
菊野:もう10年経ったのか、という感じです。学生時代は6~7時間もリハーサルをしていましたが、今は前より効率的に練習を進められるようになっています。この先10年、20年と積み重ねていくと、いろいろと良い変化につながるのではないかと思っています。
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「3大Bプログラム」(全3回)
3人の作曲家(ベートーヴェン、バルトーク、ブラームス)の弦楽四重奏曲第1番から第3番までを取り上げるプログラム
【第1回】
2023年1月28日(土)14:00開演
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 Op.18-1
バルトーク:弦楽四重奏曲 第1番 Sz.40 BB52
ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調 Op.51-1
【第2回】
2024年1月27日(土)14:00開演
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 Op.18-2
バルトーク:弦楽四重奏曲 第2番 Sz.67 BB75
ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op.51-2
【第3回】
2025年1月11日(土)14:00開演
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 Op.18-3
バルトーク:弦楽四重奏曲 第3番 Sz.85 BB93
ブラームス:弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 Op.67