トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット
(サックス四重奏)

雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第25回
ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット
サックス四重奏

 厳しい時期にも(しっかり対策をとりつつ!)7シーズン目を迎える《雄大とゆく 昼の音楽さんぽ》、2021年は初の趣向として、さまざまなアンサンブルをお招きいたします。優れた個性たちが、同じ方向を見つめて融け合うときにこそ生まれる、室内楽の深さと力と‥‥。
 まずはクラシックやジャズ、現代音楽など幅広く活躍する楽器・サクソフォン。それが大小4種類の四重奏ともなれば、豊かな色彩が溢れ出すのはもちろん、壮大なまでの迫力でホールを満たし、聴き手を包みます。

 フランスの洒落た名品から、ジャズの人気者たちもカヴァーしてきたヒットチューン、彼らのために書かれたオリジナル曲の衝撃‥‥そしてなんと、オーケストラ曲の傑作として知られるブラームス〈ハイドンの主題による変奏曲〉を、サックス四重奏版で!

 聴き逃せないコンサートを前に、メンバーの皆さん‥‥上野耕平さん[ソプラノ・サクソフォン]、宮越悠貴さん[アルト・サクソフォン]、都築惇[テナー・サクソフォン]さん、田中奏一朗[バリトン・サクソフォン]さんの4人にお話を伺いましたので、ここにお届けいたします。

[聞き手/構成:山野雄大(音楽ライター)]

(C)Ohsugi

◆注目! サックス四重奏による〈ハイドンの主題による変奏曲〉見参!

この《昼の音楽さんぽ》には以前、上野耕平さんにご登場いただいて大変な好評だったのですが[第10回/2017年7月]、今回は〈ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット〉として4人をお迎えできること、とても嬉しく存じます。
 まず、今回のプログラムについてお伺いできればと思います。

上野耕平[ソプラノ・サクソフォン]:今回の大きな目玉として、ブラームス〈ハイドンの主題による変奏曲〉にレヴとして初挑戦します。他には、アンサンブル初心者の皆さんにも愉しんでいただけるような作品として、我々の今までのレパートリーの中から、たとえばフランセの〈小四重奏曲〉という可愛らしい作品を取り上げようと思っています。

ブラームス〈ハイドンの主題による変奏曲〉は、オーケストラのために書かれた、かなり重量級とも言える名作ですね。サックス四重奏で聴けるとは驚きですが‥‥どういう編曲なのでしょう?

上野:アレンジは今お願いしているところで‥‥今回のコンサートで初のお披露目ということになります。

この《昼さんぽ》シリーズは、プログラムを組んでいただくときに、アーティストの皆さんが〈今いちばん演りたいこと〉をぜひ積極的に‥‥とお願いしてきました。その〈演りたいこと〉に賭ける熱情は必ず伝わりますし、古典の名作はもちろん、現代の新作や新しいチャレンジでも、そこにアーティストの皆さんが込めてくださる心意気がみなぎった演奏であればこそ、初めてその作品に出逢われるお客様にも、必ず何かが伝わる。ですから、レヴの皆さんがこの《昼さんぽ》で、ブラームスという新しい挑戦を聴かせて下さることは、とても嬉しく思います。

上野:ありがとうございます。サクソフォン四重奏での演奏は、幾つか前例があるとは思いますが、あまり一般的ではないかと思います。

ところで、なぜ今この〈ハイドンの主題による変奏曲〉をお選びになったのでしょうか。

上野:レヴは今まで、まず最初にサックス四重奏のためのオリジナル作品を演って[1st アルバム『ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット デビューコンサート』2017年8月発売]、次に2枚目のアルバムで聴きやすいアレンジ作品などにも取り組んできました[2nd アルバム『FUN!』2018年11月発売]。
 次に何を演ろう‥‥と考えたとき、クラシカルな作品のなかでも、オリジナルではなく他の曲‥‥たとえばベートーヴェンのピアノ・ソナタをサックス四重奏で演る、といった取り組みをしていこう、という話をしていたんです。
 その方針の第1弾として、今度のブラームス〈ハイドンの主題による変奏曲〉を選びました。

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◆サクソフォンとブラームス

次々に生まれてくるヴァリエーション(変奏)の数々も、とても豊かで気持ちいい音楽ですし‥‥大きなチャレンジではありますが、素敵な選曲ですね。変奏曲をプログラミングしていただくと、そこにもアンサンブルのいろいろな持ち味や表現力、細やかな魅力が掴みやすく表れたりして、愉しいとつねづね思っています。
 ところで、ブラームスという作曲家は、自作のなかでサクソフォンという楽器を使うことはなかったわけですが。

上野:ブラームスはクラリネット・ソナタなどを書いていますけど、サクソフォンを使った作品も書いてほしかったな‥‥というのが僕個人の思いとしてあるんです。
 でも、サクソフォンとブラームスって、そう遠くないと思うんです。遠そうには見えますけど。この〈ハイドンの主題による変奏曲〉も、サックス四重奏に絶対合うだろうな、という思いもありつつ‥‥去年くらいから4人で〈この曲を演ろう〉と言っていました。誰が言い出したんだっけ?[他のメンバーが首をかしげる]僕が言ったような気もするんですけど。

田中奏一朗[バリトン・サクソフォン]:サクソフォン奏者は、ブラームスの作品でも、今お話にでたクラリネット・ソナタはよく演奏しますし、アンサンブルの作品では、ピアノ四重奏曲を[ピアノとサックス三重奏で]演ったことがあります。ふだんの活動のなかで自然といえるほど近い存在ではありませんが、そういう機会で学んできたことを今回も生かせると思います。

都築惇[テナー・サクソフォン]:僕は昔ピアノを演っていて、最近になってようやくサックスのほうが歴が長くなったくらいなんですが(笑)、ブラームスはピアノ・ソナタなどは好きだったものの、どちらかというと大好きな作曲家ではなかった。
 ただ、大学1年のときに、習っていた原博巳先生[アドルフ・サックス国際コンクールで日本人初の優勝、2019年に44歳で急逝]が吹かれたクラリネット・ソナタ‥‥第1番も第2番もですが、衝撃的な演奏だったんです。サクソフォンという楽器はヴィブラートが強みのひとつだと思うんですが、そのブラームスではノン・ヴィブラートで演奏されていた。サクソフォンなのにクラリネットを聴いているようなその演奏を聴いて、第1番をレッスンに持っていったこともあります。

サクソフォンのためのオリジナル作品はないけれど、ブラームスの世界に迫る機会はあれこれあるわけですね。

都築:サクソフォンって割に短い作品が多いので、ブラームスのクラリネット・ソナタのような長めの作品を吹くことは少なくて、そういう点でも貴重ではあります。
 サックスは音自体がロマンティックですから、ドイツ音楽でもロマン派は合う気がしますね。個人的にはシューマンとか好きなんで、ソロのコンサートでは彼の《献呈》は必ず入れたいと思っているくらいです。古典になるとハードルが高いかなと思いますが‥‥。

宮越悠貴[アルト・サクソフォン]:僕らの世代ですと、《のだめカンタービレ》の影響でブラームス‥‥特に交響曲第1番に初めて出逢ったという人も多いかも知れませんが、僕自身は、藝高[東京藝大附属音楽高校]の授業で、ヴァリエーションを学ぶときにブラームスの〈ハイドンの主題による変奏曲〉が出てきたので、個人的には〈懐メロ〉です(笑)。

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◆〈サックス四重奏〉ならではのサウンド

〈ハイドンの主題による変奏曲〉の冒頭、主題の部分って、全オーケストラの総奏ではなく、昔のハルモニームジーク[管楽合奏]のサウンドを彷彿させるようなところもちょっとありますから、サクソフォン四重奏でも自然に入っていけるイメージがありますし‥‥アレンジが愉しみです。
 オーケストラ曲をサクソフォン四重奏で演奏するとき、この編成ならではの面白さというものも表れてくると思いますね。

田中:意外に、ピアノ曲はサクソフォン四重奏と合うんです。同属楽器による、音色の均一なアンサンブルということで、ピアノ作品とも調和するのかなと思うんです。
 さらに、レヴは今までオーケストラ作品の編曲を数曲演っているんですけど、サクソフォンという楽器自体ポテンシャルが高くて、上[の方の音域]から下までいろんな音色が出せて、ダイナミックな表現もできますし、四重奏という少人数のアンサンブルならではの細やかな、オーケストラには出せない魅力も表せると思います。

いま〈同属楽器による均一な音色〉というお話をいただいたところで、少し話が逸れますが‥‥。
 同じ4人編成ということで、〈弦楽四重奏〉と〈サクソフォン四重奏〉を比べられることも多いかと思います。しかし考えてみると、弦楽器と管楽器という違いだけではありませんね。サクソフォン四重奏は、音域の高いほうからソプラノ、アルト、テナー、バリトン、と大きさの異なる4種の楽器を使いますが、弦楽四重奏の場合は、ヴァイオリン2挺とヴィオラ、チェロ、と楽器は3種です。

宮越:僕自身、弦楽四重奏曲をサックス四重奏用にアレンジしたことは何回かあるんですけど、そのなかで〈けっこう違うな〉と感じたことがあります。
 まず、弦楽四重奏の場合、それぞれのパートがメロディを担当する割合が多いんですが、サックス四重奏の場合、メロディを担当するのはソプラノ・サクソフォンが断トツで多くて、あとはアルトとテナーがちょっとずつ‥‥という。これは、弦に比べると音域が狭いので、どうしてもアルトはソプラノと同じ音域でメロディを吹くことが難しくて、バランスは崩れますよね。
 その代わり、サックス四重奏になにが出来るかというと‥‥。サックス四重奏で、倍音が多分に含まれた豊かな響きを出せるというのは、弦楽四重奏でいう第2ヴァイオリンにあたるアルト・サクソフォンの音域が低いので、密集で和音が重なったときにより良く響く。これは大きな強みのひとつだと僕は思いますね。

弦楽四重奏曲から編曲する場合ですと、その〈サックス四重奏ならではの強み〉の生かしかたが難しくなるわけですか。

宮越:どうしてもオリジナルの弦楽四重奏のための音域のままでは難しいので、和音を分析した上で敢えて書き換えたりといったことは必要になりますね。

◆フランス音楽、そして現代日本の鬼才たち

今回の《昼さんぽ》では、ブラームスのほかにも、先ほどご紹介のあったように、フランスの作曲家からジャン・フランセの〈小四重奏曲〉を演奏していただきますし、ジャズの人気者たちも多くカヴァーしてきたシャーウィン《バークリースクエアのナイチンゲール》と、洒落た選曲も愉しみです。
 ところで、〈フランス音楽〉とか〈ドイツ音楽〉とか、おおざっぱに分けてしまうのも乱暴ですけれど、演奏するときに違いを意識されることはありますか?

都築:フランス音楽の場合、あまりはっきり発音しないように僕はしています。というのは、音の立ち上がりが見えすぎてしまうと、エスプリが感じられなくなってしまうのかな‥‥と思うので。もちろん、フランスものでもしっかり重厚な曲のときはそのように吹きますけど、ちょっと濁したり、温度や色が移り変わってゆく曖昧なものが魅力としてあるかなと思います。
 ドビュッシー《ベルガマスク組曲》を取り上げたことがあるんですが、あの中に入っている《月の光》などまさに、ホールの響きを意識しながら、特に〈どう移ろってゆくのか〉を意識して演奏します。

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フランセ作品ですと、愉しく躍動的なリズムとか、ユーモラスな表情といったものが炸裂するなかにも、とても歌心美しい緩徐楽章など、そうした〈うつろい〉の繊細な色を感じていただけるかと思います。
 かたや、皆さんのために書かれた若き鬼才作曲家たちの作品も2つ、今回の《昼さんぽ》で披露していただくのも嬉しい限りです。坂東祐大さんの《Mutations : A.B.C.》とか、2枚目のアルバムに収録されてましたが、本当に素晴らしいなと。

上野:あれ最高ですよね!(笑)

まさに。稲森安太己さん《ふるさと狂詩曲》も、レヴのメンバーの皆さんの出身地をはじめ、日本各地の民謡をらラプソディックにちりばめて、しかもこんな目覚ましいサウンドが生まれるのか‥‥と愉しく聴かせていただきましたので、今回の《昼さんぽ》でも実際に体感できるのを楽しみにしています。

◆〈サックス四重奏〉に出逢う----憧れと理想と

初めてザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテットの音楽をお聴きになるかたは、1st アルバム『ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット デビューコンサート』をお聴きになると、サクソフォン四重奏のために書かれた古典的な傑作たち‥‥グラズノフやデザンクロ、フランツ・シュミットといった作曲家による〈定番〉を知ることができますが、こういった〈定番〉から入るもよし、今度の《昼さんぽ》のようなダイナミックな選曲から入っていただくのも絶対に愉しいと思います。
 ところで、サクソフォンという楽器で音楽家になられると、サクソフォン四重奏というジャンルは必ず通る道でもあると思うのですが、皆さんはこの〈サクソフォン四重奏〉にどんな作品で出逢われましたか?

都築:何だろうなぁ‥‥。一番最初に演奏したのは中学生のとき、フランスのジャンジャンが書いた〈サクソフォン四重奏曲〉でした[フォースタン&モーリス・ジャンジャン兄弟の共作で、アンサンブル・コンクールなどでもよく演奏される]。その時からクヮルテット編成のために書かれた曲を聴くようになって、自分のなかでは、王道ではありますがデザンクロの〈サクソフォン四重奏曲〉が一番演ってみたい曲としてずっとありました。

デザンクロは、皆さんのデビュー・コンサートのライブ演奏が1st アルバムに収録されて、とても瑞々しくていい演奏だと思いました。宮越さんにもお伺いしたいんですが、〈サックス四重奏〉というジャンルとの出逢いについてお話いただけますか?

宮越:はい。僕らの世代だと、完全にトルヴェール・クヮルテット[須川展也、彦坂眞一郎、新井靖志、田中靖人により1987年に結成]でした。師匠でもありますし[彦坂、須川両氏にも師事]小学校の頃から聴いていたのですが、その中でもなぜか、アルトの旋律をずっと追いかけていたんです。ソプラノではなくアルトというのは変わっていると思いますが(笑)、〈メロディではなく内声の動きが好き〉というのがずっとあって、それで僕は昔からアルトをやりたかったんです。

その感性が、宮越さんがいま奏者としてはもちろん、作曲・編曲も手がけられるという活動にも繫がっているように感じますね‥‥。ちなみに、今、プロとして活躍している立場からあらためてご覧になって、大先達であるトルヴェールの凄さ、というのは何だとお感じになりますか?

宮越:活動を始めてから思ったのは、あれだけ長く続けていらっしゃるということがもの凄いことだと思いますし、新しいアレンジを頻繁に演ってらっしゃるというのは、モチベーションが高くないと出来ないことです。良い作曲家に巡りあっているということでもありますね‥‥。

◆目指すこと、価値観の変化

いまお話も出ましたが、皆さんの世代にとって、やはりトルヴェールの存在は大きいでしょうし、もちろんそれ以外にも素晴らしい四重奏団がたくさん活躍してきました。

都築:僕の場合はフランスのハバネラ・サクソフォン・カルテット[1993年、パリ国立高等音楽院のドゥラングル門下生たちによって結成]が凄く好きでして、正直いまでも影響を受け続けていると思います。音の理想というのは作りづらいと思うんですけど、ハバネラの存在は大きかった。
 ただ、その音を目指す、ということとはちょっと違うかなと思います。〈アンサンブルとして皆でどう交わっているか〉という点ですごく勉強になっているんですが、レヴとして活動していくなかで、やはり〈変化してゆく〉ということが今の大きな理想になっていると思います。憧れのクヮルテットの音を目指すというより、レヴとしての音を、できるだけ軸をぶれずに作り続けるか、ということが演奏の核となっていると思います。

田中さんにも重ねてお伺いしたいと思います。

田中:僕ら世代はやはりトルヴェール・クヮルテットで、特に中高生の頃は聴きびたっていた憧れの存在としてありました。ただ、皆さん仰るように、自分たちが演り始めてからは理想のようなものはなくて、僕らの魅力を作り出す、というところに重きをおいています。そしてこれからは、僕らがそうであったように、僕らの下の世代が同じように思ってくれるようなクヮルテットになれれば‥‥と思っています。

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若き俊英の皆さんが集まるレヴ・サクソフォン・クヮルテットとして、先輩四重奏団たちの存在、あるいはその潮流といったものを、どのように意識されているのか、上野さんにもお伺いしたいと思います。

上野:はじめは当然、憧れとしてありましたからね‥‥。僕の場合は、トルヴェール・クヮルテットはもちろん、アルモ・サクソフォン・クァルテット[中村均一、遠藤朱美、松雪明、栃尾克樹により1982年に結成]など日本の四重奏団をはじめ、ダニエル・デファイエ[1922~2002、フランスの名匠]や、古くはマルセル・ミュール[1901~2001、20世紀サクソフォンの歴史を拓いた巨匠、デファイエほか門下生多数]の四重奏団など、いろんなものを聴いて育ちました。
 もちろんその歴史を自分たちなりに意識はしていましたが‥‥レヴを始めたときは、その時の価値観で始めているわけです。でも、やってみると、メンバーそれぞれの特長をどんどん感じて、持ち味が見えてくるにつれ、サクソフォン四重奏の流れといったことを考えなくなりました。
 サクソフォン四重奏としてというより、このメンバーでどういう音楽を演るか‥‥と価値観が変わってきたんです。極端な話、サクソフォンから楽器が変わったっていいと思ってるくらいで(笑)、ソプラノ・アルト・テナー・バリトンというくくりじゃなくてもいい。以前、バリトン四重奏をやってみたこともあったんですが、サクソフォン四重奏というより〈レヴ〉というひとつの音楽集団として、これから何をやっていくのか‥‥ということを皆で話しあっているんです。

◆音楽の幅広いジャンルへ、大きな視野を

4人それぞれが非常に強い個性を持ちながら、クヮルテットとして新しいものを作り続けているレヴの皆さんですが、アルバムのほうでは、宮越さんがハービー・ハンコック《Watermelon Man》の素晴らしく斬新なアレンジを披露されています。メンバー自身も作・編曲を手がけられているというのも、強みですね。

宮越:最近はDJものが好きで‥‥自分自身で演奏してミックスする、という自身で完結するかたちのミュージシャンも増えているんですけど、そういう人たちへの憧れもありますし、影響を受けて自分のアレンジに生かしたりもしています。
 有名になってしまいましたが、ジェイコブ・コリアー[1994~、全ての歌・楽器をひとりで演奏したYouTube動画で話題となり、そのアカペラ・多重録音をステージで再現する独特のパフォーマンスが世界的に衝撃を与えた鬼才マルチ・ミュージシャン]とか昔からよく聴いていましたし、ジャズ系でいうとロバート・グラスパー[1978~、その鮮烈な個性にヒップホップやロックなども融和させジャズのイメージを一新したと賞される、現代を代表するジャズ・ピアニスト]など、実験的なミュージシャンをよく聴いています。
 高校・大学時代はクラシックをよく聴いていたんですけど、卒業してからは日常的に聴くことはなくなって、他ジャンルの新しいものを追いかけるようになったんです。

広いジャンルから刺激を受け続けることで、斬新なアレンジが生まれるわけですね‥‥。いま宮越さんの最近の興味、というお話を伺いましたが、もともとサクソフォンは広いジャンルで活躍している楽器でもありますし、他の皆さんもクラシック以外の音楽と自在に行き来されているのではないでしょうか。

都築:つねに演奏しているクラシック音楽は、勉強のような感じで聴いてしまうので(笑)。個人的には昔から大貫妙子さん[山下達郎とのシュガー・ベイブを経て1976年ソロデビュー、多数のアルバムをはじめ提供曲も多い人気シンガーソングライター]が好きで、大貫さんと坂本龍一さんの《UTAU》というアルバム[2010年]は最近また聴いてますねぇ。
 クラシックでいうと‥‥去年我々はバッハの〈シャコンヌ〉を取り上げたんですが、たまたま北海道でギタリストの荘村清志さんがリサイタルでこの曲を弾かれるのを聴けたことがあって、その繊細だけど熱い演奏に触れてから、荘村さんのアルバムは良く聴いています。

年輪を重ねてますます瑞々しい、素晴らしいギタリストですよね。田中さんはいかがですか?

田中:僕も宮越さんに紹介してもらって、ジェイコブ・コリアーの来日ライヴに行きましたし、ジャジィな曲やファンキーな曲を演ることも多いので、ヒップホップのケンドリック・ラマー[1987~、現代を代表するラッパーとして爆発的な支持を得て、〈生きて本物の言葉、力強いリズムと共に現代のアフリカ系アメリカ人の複雑さを切り取った〉とクラシック・ジャズ以外で初のピュリッツァー賞を受賞]とか、スウィング・ジャズをはじめジャズ系をいろいろ聴いたりもします。
 自分のコンサートも演ろうと思っているんですけど、いろいろ聴いていることも生かしながら、そちらもクロスオーバーなテイストに寄ったコンサートになるかと思います。

それぞれ本当に豊かなものをお持ちになりながら、その個性を磨き続けていらっしゃるレヴの皆さんですが、四重奏団としても積極的に新しい編曲や作曲を委嘱されてきたわけで‥‥その延長線上に、今回またブラームスという新しいチャレンジも生まれるわけです。今後もそうした委嘱は積極的に続けられるのでしょうか。

上野:いやぁ、もちろんやりたいですし、先ほど〈レヴ〉として価値観が変わってきた‥‥というお話をしましたが、それが、サクソフォン四重奏の価値にもなっていくのかな、という風にも思います。
 〈我々4人だから、こういうことが出来る〉、あるいは〈ひとつの音楽集団としてこういうことをやっていきたい〉と思っている‥‥。それがゆくゆくは〈サクソフォン四重奏にはこんなことも出来る〉という新しい価値になっていってほしい、という思いもあります。
 なので、新曲委嘱であったり、今回の〈ハイドンの主題による変奏曲〉編曲であったりといったことも、サクソフォン四重奏の新たな価値になってくれたらいいし、それを続けていきたいと思っています。

都築:オリジナルの作品で『FUN!』みたいなアルバムを作ったり、古典の作品も取り上げているなかで、僕はやはり個人的にコンテンポラリーの作品も凄く好きなんです。新しい技術が当たり前になってゆく、ということも大事だと思いますし、コンテンポラリーの中にもいい作品がたくさんあるので、それらを知っていただく機会になればいいなとも思います。ですから、新作の委嘱をしたいとはいつも考えています。

宮越:ただ、新しい作品や編曲をお願いするときも、何かヴィジョンがあるわけではなく、そのときに自分たちが一番愉しめるものややりたいことが、たまたまそういう流れになっているだけで(笑)、いやメンバーの誰かは計算していたのかも知れませんけど(笑)。

偶然が必然になる、って素晴らしいじゃないですか(笑)。今回のコンサートで〈ハイドンの主題による変奏曲〉の新しいアレンジが世におくられるわけですが、そこからさらに広がってゆくレヴの新世界が、また更に新しい実りを生むでしょうし‥‥さらに新しいアルバムにも繫がっていけば、と聴き手としては期待しております。

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◆変化し続けてゆく、ということ

ところで、メンバー4人の皆さんそれぞれ、この四重奏団以外にもソロや室内楽、大編成アンサンブルなどさまざまな活動を展開されて活躍されているわけですが、各個人の演奏活動において、レヴ・サクソフォン・クヮルテットという存在がどのような力になっていますか?

田中:もう全て‥‥クヮルテット以外のソロや吹奏楽、アンサンブルにおいても、レヴで身につけてきたものが絶対に意識せずともはたらいていると思いますし、逆に外で気づいたことも、無意識のうちにクヮルテットでの演奏に出ていることもありますから‥‥自分の活動の中心であり拠りどころ、という気はしますね。

上野:僕以外のメンバー3人は皆、僕に無いものを持っているので、そこから影響を受けているということはかなりあると思います。〈これは誰から影響を受けた‥‥〉という明確な意識があるわけではなく、〈これってもしかして‥‥〉と思うような感じですね。皆から盗んでいるもの、というのはかなりあるなぁと思います。これは、間近で吹いているからこそ、です。

影響を深く与え合っていると。

上野:そうです。そして、クヮルテットの音は刻一刻と変わっていく。これが本当に面白くて‥‥。たとえば、あの時[デビュー・アルバム]のデザンクロと、今のデザンクロは全く違いますし、この先もどんどん変化していく。その変化も僕はとても楽しみです。

クヮルテットとして〈変化し続けてゆくこと〉を志しておられる場合、〈めざしてゆく目標〉のようなものは、敢えて置かずにいるのですか?

上野:そうですねぇ。なんとなくこういうパフォーマンス‥‥というのはありますが、〈4人だけど4人とは思えない演奏〉をしたいですね。果たしてどこまで行けるのか、まだ見たことのないところではありますが‥‥とにかく、驚かせたいんですよね(笑)、僕としては。今度の〈ハイドンの主題による変奏曲〉にしても、〈あれっ、こんな曲だったの!?〉みたいに思ってもらえたらいいなぁと。そこにハイドンやブラームスがいるかのような、そういう演奏をこの4人で演っていければいいな、それが理想かなと思います。

コンサートも心から楽しみにしております。

田中:レヴとしてさまざまな大きさのホールで演奏してきたなかで、4人でパイプオルガンのような壮大な響きに聴こえることもありますし、小さめのホールならステージと客席との距離感が伝わりやすくて愉しかったですし、そんな中で第一生命ホールは、やはりとても室内楽向けのホールだと思いますので‥‥とぜひ僕らの響きを楽しんでいただければと思っています。

長時間にわたって、皆さんとても豊かなお話をいただきまして、本当にありがとうございました。

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【付 記】
 ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテットの皆さんにお話を伺いました。
 こんなご時世ですので、直接お会いすることは避けて、リモートで同時中継というかたちで4人にお話を伺ったのですが、ご協力いただいたメンバー・関係者の皆さんに深く感謝申し上げます。
 この《昼の音楽さんぽ》シリーズでは、インタビューの中でも話題にあがりました、トルヴェール・クヮルテットでも活躍される巨匠・須川展也さんをはじめ、サクソフォン奏者の皆さんにたびたびご出演をいただいて、そのたびにお客さまからも熱い反応を頂戴いたしました。
 ジャズや吹奏楽などでおなじみのサクソフォンが、クラシック音楽の現在をになう輝かしい存在であるとともに、ジャンルを超えた新しい音楽への扉を、もっとも力強く開き続けている楽器であること‥‥、色彩とパワーと情感に溢れ、繊細から壮大まで幅広い表現力をもった楽器であること‥‥。その素晴らしさを、お届けできたと感じています。
 これまでの《昼の音楽さんぽ》公演でサクソフォンの魅力にぐっとつかまれた皆さまは、サクソフォン&ピアノのデュオではなく、サクソフォン四重奏という違ったサウンドを満喫していただける今回のコンサートも、きっと楽しんでいただけるはずです。
 そしてもちろん、今回初めてお聴きになるかたも!
 ひきつづき、くれぐれもご自愛くださいますよう。

【付記の追記】
 《昼の音楽さんぽ》第7回《須川展也 サクソフォンの明日へ》[2016年10月15日]では、須川さんがジャズの巨匠チック・コリアさんに委嘱した〈アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ《Florida to Tokyo》〉が世界初演され、大好評を博しました。
 この《昼さんぽ》シリーズを世界初演の場としていただいたことにあらためて感謝するとともに、去る2021年2月9日、79歳で亡くなられたチック・コリアさんに、心からの弔意と尽きぬ深い敬意とを捧げたいと思います。その音楽はこれからも生き続けます。

 [山野記]