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アーティスト・インタビュー

エルデーディ弦楽四重奏団(c)成澤稔

エルデーディ弦楽四重奏団

エルデーディ弦楽四重奏団
~ベートーヴェン充実の中期とモーツァルト純化の晩年II

今年結成30周年を迎えたエルデーディ弦楽四重奏団。昨年から始めたシリーズについてや、クァルテットを続ける秘話など、ヴァイオリンの蒲生克郷さんと花崎淳生さんにお伺いしました。

エルデーディ弦楽四重奏団によるベートーヴェン充実の中期とモーツァルト純化の晩年

まず、最初の曲はドホナーニの弦楽四重奏曲第3番ですね。
蒲生:このシリーズは、ベートーヴェンの中期の作品とモーツァルトの後期の作品をメインとし、そこに近代の、できればドイツもの以外の作品を組み合わせています。
ドホナーニ第3番は、ベートーヴェンとモーツァルトの間に演奏するには規模も大きいので、1曲目に演奏することにしました。

なぜドホナーニは第3番を選ばれたのですか?
蒲生:やはり良い曲だという事に尽きます。過去に演奏会で弾いた事もありましたし。
おおらかな感じの第2番に対し、第3番はちょっと深刻な感じがします。技術的には、かなり難しい曲です。
花崎:結構、技巧的な感じです。
蒲生:どこのパートもみんな難しいかもしれない。
花崎:混み入っている印象です。シャープなど多用していて、ちょっと曇った響きというか、混んでいる感じがします。

ベートーヴェンは「セリオーソ」です。
蒲生:セリオーソはベートーヴェンのクァルテットの中で一番短く、楽章は4つありますが、全てが凝縮されていて、そういう意味では、演奏するのは易しくはない。
花崎:相当、変わっているタイプの作品かなって感じがします。簡潔さの中にすごいものが詰まっているような感じがします。

「セリオーソ」は中期の作品ですが、中期というのは、どのような特徴がありますか?
蒲生:一般の方にすごく分かりやすいのではないでしょうか。ベートーヴェンの中期というのは、弦楽四重奏に限らず、一般受けする曲が多いですよね。そういう意味では、中期のクァルテットは、すごく充実していて、ベートーヴェンらしさも感じられて、分かりやすさもあると思うんですね。
後期になると、書法的には難解になってくるわけです。そのような後期を演奏するという事は、弦楽四重奏としては、ひとつ大きな課題みたいなものがありますが。
中期までは、そこまでは崩れていないと思います。曲が自然にやってくれるようなところもあるんですよ。こちらが特別な事をしなくても、曲が連れていってくれるようなところがね。

やはりベートーヴェンはクァルテットにとって特別な存在ですか?
蒲生:それは、そうですね。弦楽四重奏と言えば、というところはあります。
それぞれの声部の多様性がある事が、それまでのハイドンやモーツァルトと異なります。ある意味、一番頂上を築いたのはベートーヴェンで、それ以後の作曲家というのは、ベートーヴェンを越えようとして、結局、越えられなかったという事実がありますよね。
それに、ベートーヴェンの後期を弾けるのはクァルテットだけです。16曲ある弦楽四重奏曲の内、第12番以降は弦楽四重奏曲しか作曲していないのです。第12番ができあがった時、「第九」も「ミサ・ソレムニス」ももうすでに出来上がったあとでしたから。

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モーツァルトは、「プロイセン王」の第2番です。
蒲生:何回か演奏した事がある曲です。
花崎:有名なハイドンセットのように、モーツァルトがものすごく力をいれて、ものすごく複雑に作りあげたというのとは全く異なるタイプの作品です。
割とモーツァルトの作品は、ハイドンセットが一番重要みたいな印象がありますし、確かに重要なのですが、その後の後期の作品を演奏してみると、ものすごく素晴らしいなと感じました。それでシリーズに入れたいなと思って。「プロイセン王」は3曲とも素晴らしいです。
蒲生:ハイドンセットまでの世界と全然違う世界が見えてくるんですよ。モーツァルトのクァルテットの場合は、ハイドンセットに代表されてしまって、その後のクァルテットをあまり見ないんですね。そこにまだ全然違うものがあるという事がすごく重要ではないかと思います。
花崎:軽くみられがちな感じがありますが、でもそこはモーツアルトのすごいところであって。
蒲生:軽くはないです。
花崎:全然。その内容もすごく深いものがある。弾いてみて気が付きます。
チェロが好きな王様のために、書かれた曲です。
蒲生:この「プロイセン王」というのは、チェロが高い音域を弾くのです。だから和音が高いところに寄っていて、密集している訳です。そういう意味では、ハイドンセットなどと比べると派手さはありません。
花崎:チェロが旋律を弾くこともあり、いつもチェロがバスラインを弾いている曲とは響きの具合が違いますね。
蒲生:チェロのあとにヴァイオリンが旋律を弾く事もあります。だから、特に音量を抑えるという事をしなくてもいいんです。
和音が密集しているって事は、それだけ上の方に偏った音が鳴るという事で、チェリストにとってみれば、結構、難技巧というか、大変だと思います。
花崎:チェロにソロがあるなど、普段のクァルテットとは少し違った役割を担ったりします。それまでの曲とそのようなところがだいぶ異なります。
蒲生:この第2番というのは、チェロの活躍がものすごく大きいのです。

今年結成30周年です。
花崎:20周年の時は、前の年から色々と考えましたが、30周年の時は、誰も何も言わなかったんです(笑)
蒲生:特別なことはありませんね。

クァルテットを長く続けるコツのようなものはございますか?
花崎:結構、みんなタイプが違うんですよ。
蒲生:(30年もやっていると)合わないところはもちろんあります。でも、合い過ぎても早くダメになってしまうんですよ。過去に1年半ぐらいで、ダメになってしまった経験があります。みんな同じ方向を向いていても、ある日突然、違う方向を見せられると終わってしまうという。
花崎:若い人がそうかも知れません。だから、最初から違うという事を前提でやるというのが。
蒲生:そういう所に社会的な要素が入ってきます、クァルテットは。

今後どのような曲に取り組みたいですか?
蒲生:しばらくは、ベートーヴェンとモーツァルトの組み合わせで、さらに、近代でみなさんにお聴かせしたい作品があったら、取り組んでみたいです。まだ具体的には今後の構想はないのですが。
個人的には、今後演奏したいという曲はありますが、メンバーのみんなが演奏したいと思うかどうか。それぞれが、弾きたいと思えない曲もありますから。曲が理解しにくい場合もありますし。
花崎:最低3人が同意すれば可能性は高いですね(笑)

4名が、個性がありながらも、絶妙な距離感を保ちつつ、弦楽四重奏で繋がるエルデーディ弦楽四重奏団のみなさん。来年2月の公演では、どんな個性と調和を聴かせてもらえるのか、今から楽しみです。