トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

ウェールズ弦楽四重奏団

ウェールズ弦楽四重奏団
ベートーヴェン・チクルスI&II

ウェールズ弦楽四重奏団(﨑谷直人、三原久遠、横溝耕一、富岡廉太郎)が、第一生命ホールでの3年間にわたるシューベルトの後期弦楽四重奏曲のシリーズを終え、今年9月からベートーヴェン・チクルス(全6回)を開始する。

いよいよ始動!! ウェールズ弦楽四重奏団によるベートーヴェン・チクルス

ウェールズ弦楽四重奏団(c)Satoshi Oono

まず、今回のベートーヴェン・チクルスの企画を聞いたとき、どう思いましたか?

三原「最初iichiko総合文化センターからベートーヴェン・チクルスの話をいただいた際、僕たちはまだ、ベートーヴェンを全部レパートリーとしていたわけではありませんでしたので、メンバー全員で受けるか悩みました。しかし、この年齢で、やりたいと思っても簡単にできるものでもありませんし、是非挑戦したいと思い立ちました。そのあとフォンテックでCD録音もしました(現在、第2番、第3番、第8番、第9番、第12番、第16番をリリース)。そして、今回、第一生命ホールでもベートーヴェン・チクルスを始めることになりました。16曲全部取り上げることに関して、もちろんプレッシャーはあります」

﨑谷「ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲にはまだ早いとか、初期からやるべきとか、あるいは、弦楽四重奏はハイドンからやるべきとか、よく聞きますが、実際に専門的に取り組んでみると、どれも難しいことがわかります。ですから、積極的に挑戦していきたいと思いました」

富岡「師匠の原田幸一郎先生が『35歳になるまでにベートーヴェン全曲弾きなさい』と言われていました。機会があれば是非やりたいと思っていました」

VerusStringQuartet2018_DSCF0486.JPGどんなベートーヴェンにしようと考えていますか?

﨑谷「どの作曲家でも共通しているものがあると思います。特に演奏する際にベートーヴェンだからとか、モーツァルトだからとかという意識することはありません。ベートーヴェンの作品でも、この4人で弾くときと、僕がヴァイオリンの作品を弾くときとではアプローチが当然違いますし、いろんな可能性があっていいと思います。僕たちは一緒に留学をし、この4人には和声やフレーズのベースとなる共通言語がありますので、それを持ち寄って、それぞれの作品に向き合います

横溝「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、僕の中では聖書みたいなものです。常にそばにあるべきものでありながら、そう簡単には触れられないもの。クァルテットを続ける以上、死ぬまでこの作曲家とは向き合い続けなければならないと思いますし、すべての弦楽四重奏奏者の宿命だと思います。
今はCDやインターネットで世界中の演奏が手に入る世の中ですが、僕らは流されるつもりは一切ありません。今、自分たちのやりたい音楽を、自信をもって出す。他の団体の演奏と比べてどうだったかではなく、僕らがどうしてこういうアプローチをするのか、お客さんに発見していただければと思います。ベートーヴェンの音楽のメッセージ性の強さやパワーを表現できるように努め、それを感じ取っていただきたいですね」

9月の第1回は第6番と第13番「大フーガ付き」、11月の第2回は第9番「ラズモフスキー第3番」と第15番を演奏されますね。

三原「第6番と第13番はともに変ロ長調で書かれています。第6番の第4楽章にはアダージョの序奏がつけられていて、中期の作品を予見しているようです。『大フーガ』は今の時代になっても、鮮烈な印象を与える作品だと思います。この2曲は初めてのレパートリーなので、今からリハーサルが楽しみです。ウェールズのリハーサルでは予想もしないアイディアや表現がいつも生まれます。第9番はハ長調、第15番はイ短調という近い調性ですが、性格は正反対で、第9番が外へのエネルギーが強いのに対し、『神への感謝』と書かれた第3楽章を持つ第15番は心の中へ中へと向かう音楽です。
 ベートーヴェンは、初期、中期、後期、でタイプが違うので、プログラムに際しては、一つひとつのコンサートでベートーヴェンのいろんな時代の作品が聴けるように組み合わせています」

富岡「ベートーヴェンの場合、バランスの取り方にも特に注意して演奏します。例えば室内楽作品のチェロパートにおける、一見単なる伴奏に思える八分音符の刻みが背景にとどまらず、後に一つのモチーフとなったりします。ベートーヴェンはメロディの裏にある全てのパートに理想があるので、それがどうであったのかを考えながら弾くのが楽しいですね。そしてベートーヴェンによるロマン派の始まりはレガートの始まりとも考えています。レガート奏法によって、人の感情をより深く表現出来る可能性が大きく広がりました。それもベートーヴェンの大きな魅力の一つだと思います。全ての音に意思と表現力を持って、曲に起きていることを1つも見逃さず、素通りしないように心掛けています。私たちが今考える"曲の本来の姿"を、素晴らしい音響の第一生命ホールの舞台を通してお客様へ伝えていきたいと思っています。」

﨑谷「ウェールズ弦楽四重奏団は、すべてが緻密。客席に届けるという意識を持つよりも、むしろ、そういう雑念をなしにして弾く。まるで禅問答のようで、お客さんも疲れに来るのかもしれませんね(笑)。その意味で、第一生命ホールはウェールズ弦楽四重奏団のスタイルに合ったホールだと感じています」


ウェールズ弦楽四重奏団の将来についてどのように考えていますか?VerusStringQuartet10_(c)Satoshi_Oono.jpg

﨑谷「目下はベートーヴェンのチクルスとレコーディング。まさか10年前にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲の録音が残せるなんて思ってもいませんでした。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をレコーディングするよりも、自分にとって大事なキャリアだと思っています。」

三原「今は、とにかくベートーヴェンと向き合っていくことで頭の中が一杯です。それくらいの熱意をもってこのチクルスに臨みます」

横溝「「ウェールズ」という名前は「誠実な」、「真実の」という意味で、常々、4人ともそれを意識しながら演奏しています。普段は別々のオーケストラ(注:﨑谷は神奈川フィル、三原は都響、横溝はN響、富岡は読響)で、受ける刺激も様々ですが、それぞれが得たものをクァルテットにも取り込んでいきます。これからは社会の中で音楽の重要性がより大きくなってくると思います。AIの時代と言われますが、弦楽四重奏のような表現芸術には感情といった部分があり、これは人間にしか表現できない部分だからです。そのとき、年齢を重ねた我々の演奏を聴きたいと思っていただけるクァルテットになることを将来的な目標にしています」

富岡「僕たちはコンサートでいつも本当に素晴らしい作品に取り組む事が出来ています。それは演奏家としてもとても有り難く幸せです。お客様にも作品に興味を持ってもらえるように、毎回確信を持って演奏をしますが、これで良いと言うことはなく、僕たちが"今思う"曲の本来の姿を研究し続ける事に今後も変わりはありません。」

[聞き手・文/山田治生(音楽評論家)]