活動動画 公開中!

トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
Menu

アーティスト・インタビュー

ウェールズ弦楽四重奏団 (C)Satoshi Oono

ウェールズ弦楽四重奏団

クァルテットウィークエンド
ウェールズ弦楽四重奏団

第一生命ホールを拠点に、昨年から3年がかりでシューベルトの後期を核にしたシリーズを進行中のウェールズ弦楽四重奏団(以下、ウェールズQ)。2年目となる今回は、どんなプログラムを聴かせてくれるのか。プログラミングの意図や、自分たちの演奏について、たっぷりと語ってもらった。

ウェールズ弦楽四重奏団が運ぶ新旧ウィーンの香り

――まず、改めてシリーズ全体についてお伺いいたします。シューベルトをプログラムの核に選んだのは何故なのでしょう?

三原(第2ヴァイオリン):最初にトリトン・アーツ・ネットワークさんから3回シリーズという話をいただいたんです。3つ選ぶとなると可能性は色々ありました。これまでにシューベルトを頻繁に取り上げていて、後期の第13番《ロザムンデ》、第14番《死と乙女》、第15番というのは僕達も特に大好きな作品なんです。3回という枠のなかでは、それが今の僕らとしてはベストかなと思い選びました。

――シューベルト以外は、どのように選ばれたのでしょう? 今年と来年は、新旧のウィーン楽派からひとりずつ選ばれていますね。

三原:来年取り上げるモーツァルトの弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421(ハイドンセット第2番)は、最近レパートリーに加わったのですが、第一生命ホールで是非この曲を弾きたいというのがあって、そこから逆算して今年演奏するハイドンの弦楽四重奏団第41番 ト長調 Op. 33-5を選びました。

ハイドンのロシア四重奏曲(Op. 33)に影響を受けて、モーツァルトはハイドンセットを作ったのですが、ハイドンのOp. 33-5と、モーツァルトのK421の第4楽章がとても似ているんです。どちらもシシリアーノの主題による変奏曲で、最後にテンポが上がるのも一緒ですし。モーツァルトは敢えてハイドンへの尊敬の気持ちを表すためにそうしたのではないかと思っています。

新ウィーン楽派については、今年はベルクのOp. 3(弦楽四重奏曲)、来年はウェーベルンのOp. 9(バガテル)を取り上げます。ベルクのOp. 3に関しては、彼がとても若い頃に書いた作品なんですね。だから僕らも若いうちにやっておきたいというのがありました。ウェーベルンは留学時代から何回も弾いてきた作品で、作品にすごく思い入れがあるんです。

そういう意味で3回全部聴きにきてくださる方にも、1個のストーリーをクァルテットとして伝えられたら良いなと思ったんですね。シューベルトを1曲ずつ聴いていくのと同じように、その他のプログラムもその中で関連していったら面白いかなと。

――今度は、音楽づくりについてお伺いさせてください。リハーサルは、どのように進めていかれるのでしょう?

三原:ウェールズQでも理論的に考える人と、感覚的に考える人とがいて、僕は理論的に考える方ですね。でも段々、感覚的だった人も理論的なアプローチをするようになるし、僕もなるべくそういう感覚的な部分を......という風になりはじめているような感じがしますね。

﨑谷(第1ヴァイオリン):ここ(ウェールズQ)では多分、感覚的な人間なんですけれど、よそ行くと俺が一番理論的だったり......

富岡(チェロ):僕らが先ず大切にしているのは、フレーズ感・リズム感・ハーモニー感などで、とても基礎的なことです。

――ハーモニーといえば、昨年の公演を聴かせていただいたなかで、シューベルトの弦楽四重奏曲第13番の第1楽章が忘れられません。展開部のクライマックスに登場するハーモニー(減七の和音)がこれまで聴いたことないほど、ショッキングでした。

﨑谷:減七とか、属九とか、ナポリ(の六度)とかでも何でも良いんですけど、そのハーモニーが出てきたときのショッキング度って、当時と現代で変化していると思うんですよ。その度合は、初めて聴いた人の感覚に近い方がいいよなと思っているんです。みんなスルーして普通に行っちゃっているものを、(ウェールズQは)一個一個ピックアップしているのかなと。

――具体的にはリハーサルのなかで、どのようにピックアップしていくのでしょう?

﨑谷:最初からノンビブラートで弾く、というように考えるわけじゃなくて、じゃあそれを出すために、自分のメロディーを息継ぐタイミングだったり、アンサンブルのための音色とかを想像しながら弾いているんです。例えば「ここは、こういう和音だから...」という説明を三原や(富岡)廉太郎がする。じゃあ、その感じを出すためにメロディーのビブラートの量をどうしようかという風に、後から決まるもんなんです。

富岡:どこのクァルテットでもそうだと思うんですけれど、三原がすごいハーモニーに詳しいのは、多分セカンド(ヴァイオリン)を弾いているからだと思うんですよね。何でかというとチェロは、そのメロディーを知っていて、自分のチェロのパート譜を見て、弾いているだけで、大体こんなハーモニーだろうなという感じは、70%ぐらい当たるんですよ。

でも、セカンドってパート譜見て、ひとりでさらっていても、曲を知らなかったらこんな感じの曲だろうなって当たらないんですよ。絶対勉強しなきゃいけない。だから詳しくなっていったんだと思うんです。﨑谷はファースト(ヴァイオリン)だから、ハーモニーよりも自分のパートの音程間を歌う方が大事なんですよ。

――内声という意味ではヴィオラも同じような立場にあると思うのですが、横溝さんはいかがでしょう?

横溝(ヴィオラ):ハーモニーに関しては、少なくとも僕らがミュンヘン(国際コンクール)を受けていた頃は一切考えてなかったんですよ、本当に。あの時はそれこそ、エネルギーだけを持って演奏して。寄せ集めの団体にありがちな、それが上手く出たときに人が感動するっていう、それだけだったんです。

――コンクール入賞後、ウェールズQが留学する際に横溝さんは一旦クァルテットを離れられますね。その後、日本に戻ったウェールズQと一緒に演奏してみて、どのような変化を感じられましたか?

横溝:彼らが戻ってきたとき、ハーモニーというものを物凄く、何よりもそこを勉強してきたんだろうなと感じていました。僕は留学に行っていないので、それと同じことを共有するということは今後も出来ないわけじゃないですか。だから僕は彼らが向こうで学んだことに、如何に速く敏感に反応できるかということには、常に気をつけています。

――ハーモニーへの意識が変わったのは、それは留学先で師事されたライナー・シュミット先生(ハーゲン弦楽四重奏団 第2ヴァイオリン)の影響なのでしょうか?

富岡:ライナー先生もそうなんですけれど、やっぱり(セカンドが)三原に替わったことかな、ハーモニーに関しては。

﨑谷:そこから先生を選んだもんね。ナチュラルにいったら普通にアメリカに行って、東京クヮルテットのところに行ってということになったと思うんですけれど。なんかそうではなくなったのは、三原だからだね。ライナー先生のレッスンは、そんなに別に何の和音だからとかって言われませんでした。ただ、ドミナントの感覚は物凄い言われましたけど。

富岡:アンサンブルの仕方を、最初は凄く言われたよね。

﨑谷:当時は、時間をここでかけるために、前後に少し動いたり......という感覚があまりなかったので。メロディーを弾く側からすると、常に細かい音を聴いて、それにはめ込むという作業をずっとしてきたんですよ。そのアンサンブルの仕方が全然違った。

富岡:結果的に最後は縦が合うんだけども、そこに行く道が全然違っているんです。パートによって全然役割が違っていて、全部同じような音色で弾くのではなくて、フレーズの感じ方や、緊張と緩和を合わせる。

﨑谷:全員でビブラート揃えなきゃとか、ビブラートをしないのかとか、そういうことじゃなくて、そのバランスのとり方の違い。各自の音をピックアップして聴くと全然弾き方が違うということが起きてるんですけど、全体像で見ると一緒に聴こえる。それが(他の団体と)違う。音色を揃えるとか、ビブラートを揃えるとかっていう風に考えてないんです。

――なるほど。何をしなくちゃいけないかがメンバー間で共有されていることが分かります。

三原:それを感覚的に共有できている、というのが大事かなと。

――では、ハーモニーが複雑になるベルクについては、どのようにアプローチするのでしょう?

﨑谷:同じだよね。

三原:そうだね。このベルクのクァルテットも、演奏はかなり難しいんですけれど、聴いていただく方には身構えてほしくないんです。はっきり言って、素材もアプローチもシンプルなんですよ。例えば第1主題が全音階的で、第2主題が半音階的。ですからベルクとか無調とかっていうと「え!?」ってなるんだけれど。実際は純粋に音楽に入っていける作品だと思いますね。

富岡:基礎的なことを大事にして演奏するという意味では、むしろやりがいがあるよね。

﨑谷:ベルクの合わせはこれからなんですけど、ウェーベルンはもう何度も弾いています。バーゼルにいた頃にライナー先生にレッスンで散々しごかれた曲です。個人的には弦楽器奏者として今でも自分のなかで核になっていて、それは古典を弾くときにも役に立っている。口で説明しようがないですけど。

ドイツ語もその当時、頑張って勉強していたので、その濁音だったり、語尾の子音がtなのかrなのかnで終わるのかという発音を弓でアプローチするっていうのを、うるさく言われて。それは凄くこのウェーベルンで勉強になりましたね。ベルクだけじゃなく、このプログラム全部でそういう感覚が必要なのではないかなと思います。

――先日、ライナー・シュミット先生に久々にお会いしたそうですね。しかも、その時にちょうどライナー先生が演奏されていたのは今年ウェールズQが取り上げるシューベルトの《死と乙女》だったそうで。

﨑谷:聴いてました(笑)。でも離れてみて、自分たちの基盤ができた状態で今ハーゲンQを聴くと、(ウェールズQと)全然違いますね。もうちょっと似てるかなと思っていたんですが。こんなに違うかと思って。

富岡:ハーゲンQは聴く度にすごい変化してるよね。

﨑谷:それが凄いんだけどね。

VerusQ_20161010(C)OkuboMichiharu.jpgのサムネイル画像――話はかわりますが、このクァルテットとして第一生命ホールで演奏されたのは昨年が初めてだったんですよね。感触はいかがだったでしょうか?

富岡:当日僕がホールに入って、先に到着していた﨑谷がホールでひとり弾いているのを聴いて、はっとしました、これすごい言ったよね。

﨑谷:すごい言ってた(笑)。俺も本当にそう思う。これまで話していたようなことが、一番出るホールだね。

富岡:音響の専門家じゃないから何がいいとか分からないんだけど、心地いいよね。

横溝:音程って、いざ4人で音出した瞬間に微調整して、それぞれがいるべきところに落ち着こうとするんですよね。物理的にはそういうことあり得ないのかもしれないけれど、お客さんの耳に届く前にこっちで調節出来る感覚があります。それを助けてくれるホールではないかと。

――最後に、今後どのような活動に取り組まれていこうとされているかをお伺いします。まずはベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集のレコーディングが進行中ですね。完成の予定はいつ頃でしょう?

三原:2022年ぐらいまでには終わらせたいかな。だから、5年後くらいです。

――他に今後、クァルテットとして挑戦されたいことは?

富岡:後進の指導かな。

三原:やっぱり海外で演奏をしたいですね。

横溝:あとコンチェルトは楽しかったからまた挑戦したいよね。

 【参考】

 *2016年10月に行われた神奈川フィルハーモニー管弦楽団との公演の詳細は こちら

 *2017年4月に行われた名古屋フィルハーモニー交響楽団との公演詳細は こちら

――なんだか、このペースでウェールズQはずっと続いていきそうですね(笑)

三原:そんな感じがします。

富岡:まあ、もし上手くいかないときがあったとしても、頑張って続けますよ。

――本日はたっぷりお話を聴かせてくださり、有難うございました!

[聞き手・文/小室敬幸(作曲/音楽学)]