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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

©Masanori Hotta

白井光子

室内楽の魅力シューベルト
~白井光子&ハルトムート・ヘル デュオ・リサイタル

日本人でありながらドイツ人以上にドイツ・リートを理解していると評され、その伝統を守って、ピアニストのハルトムート・ヘルさんと「リート・デュオ」というジャンルを確立してきたメゾソプラノの白井光子さん。古稀を迎えた記念の年に、第一生命ホールでシューマンの歌曲集「女の愛と生涯」を含むレパートリーを歌います。

「女の愛と生涯」では
昔を回想するのではなく、その齢の女性になるのです

第一生命ホールは、2011年以来6年ぶりにご出演いただきます。

いいですよね。やはりリートはあまり大きな空間でやるべきではないと思います。自分だけが舞台に行って歌うという感覚ではなくて、お客様みんなと同じ息ができるホールがいいと思うのです。ホールで歌う位置を決める時も、お客様と一緒になれる場所を探します。

ハルトムート・ヘルさんとデュオを組んで、45年になりますね。

出会った当時は、彼は医者になるための勉強もしていて迷っていました。文学がものすごく好きで、造詣が深かった。でも最初は歌の伴奏をしたことがなかったので、私に息をさせてくれませんでした(笑)。「息をしないと歌えない」「分かった、じゃあここで空けるから」などとリハーサルをしたものです。(ヘルの)ドイツ語の知識は、普通のドイツ語のレベルではなく、ドイツ語を深く理解していて、詩もよく分かっています。ですから私も彼と過ごす中でドイツ語を学んできました。普通の生活の中のドイツ語と、文学の中のドイツ語は全く違います。日常で使われるドイツ語は機能的、機械的なものが多いのですが、文学のドイツ語は、文と文との間に書かれていることが読めるようになると、本当にカラフルですばらしいと感じます。言葉ができないピアニストとは本当のデュオにはなりませんね。ですからピアニストには言葉を勉強してもらいたいと思います。歌手とピアニスト、お互いがしっかり勉強していると、実際に舞台で演奏する時に自由が得られるのです。相手がこうしたいんだな、と分かってくると自分のやりたいことができる。向こうの息が手に取るように分かって、忠実に勉強したものから手が離せる。そうやって自由になれる時、ステージは楽しいし、聴けるし、受け渡せるものです。

記念の年に「女の愛と生涯」を歌っていただくのが楽しみです。

心の動き、喜び、悲しみ(などの描き方)が特別な作品ですね。曲集の中で、調性も変わっていく。齢と共にどれだけ若くなれるか、ですね。女性がその時に経験したことが語られているので、昔を回想するという形ではなく、その齢の女性になるのです。最初は18歳くらいにならないといけない。そして齢を重ねていくのですが、なろうと思えばなれるのですよ。歌うとは、「違う空間で生きる」ことです。歌っている時間は、歌の中で生きているのです。

ピアノとの関係も大切です。例えば、子どもが生まれる場面では、歌い手である私は語らず、ピアノが語る。ピアノとの対話ができます。それから、最初に休符がたくさんあるのはなぜだと思いますか。休符がある場所には「想い」があるのですよね。幸せだけど戸惑っている様子を表しています。それからシューマンの場合、歌い終わった後のピアノの後奏にすべてが入っています。最初に会った時のテーマが出てきたりして、最後に回想するのですね。「詩人の恋」もそう。それを聴いていると色々なところに連れて行かれて、あの時はああだった、と。だから(歌手は舞台上で)「(歌い)終わった」と喜んで立っていないで、そこまできちんと聴いていなくてはいけません(笑)。

「女の愛と生涯」は何度か歌っていますが、久しぶりです。長く歌っていないものは必ず勉強し直しますから、これもバラバラにしてもう一度見直すことになります。

私たち日本人がドイツ語の歌詞を楽しむためには、どうすればいいでしょうか。

歌詞でなく、歌われている心を聴いてみてください。そうすると(音楽の)色も聞こえてきます。私たちはアメリカなど様々な国に演奏しに行きますが、必ずしも皆さんドイツ語が分かるわけではないんですよ。たまたま歌には言葉がついていますが、ヴァイオリンなど言葉のない他の楽器と同じで、どんな音色でどんな心が伝わるかだと思います。言葉は全部分からなくても大丈夫です。音楽をとおして歌詞を読むのですから。


真摯に芸術と対峙し続け、古稀を迎えますます輝く白井光子さん。欲はなくストレートにものが言えるようになり、毎日が「なんでこんなに楽しいのかと思うほど楽しい」と楽しそうに笑います。「芸術に年齢はない」と言い、毎日のトレーニング、勉強を欠かしません。

今回のプログラムは、前半がシューマン。生地ツヴィッカウからシューマン賞を授与されている白井さんによる「女の愛と生涯」はハイライトとなることでしょう。後半のヴォルフも、ヘルさんとデュオを組んで間もない1973年にフーゴ・ヴォルフ歌曲コンクールで優勝し、ヘルさんはその後ドイツのフーゴ・ヴォルフ協会の会長を務めていたこともあるほど、デュオにとって造詣が深くまた思い入れもある作曲家。メーリケ詩集、スペイン歌曲集と、ドイツ・リートのひとつの到達点ともいえる充実した世界が繰り広げられ、ゲーテの有名な詩による大曲、ミニョン「君よ知るや南の国」によって幕を閉じます。

どうぞ歌とピアノが紡ぎだす世界最高峰のリート・デュオの世界を、心ゆくまでお楽しみください。