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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

若林顕

音楽のある週末 第21回
若林顕 ピアノで聴く『第九』

もはや日本の年末の風物詩ともいえる、ベートーヴェン作曲の交響曲第9番。
今年の12月、大編成のオーケストラ、歌手、合唱で演奏するために書かれたこの「第九」を、若林顕さんがたった1台のピアノで演奏します。

今年の「第九」はピアノ1台でどうぞ!

 

Chtristmas
ベートーヴェンに関してはピアノ・ソナタ全32曲の演奏にも取り組まれている若林さんにとって、「第九」をピアノ1台で演奏する意味を教えてください。

「第九」は誰もが知る名曲ですが、もともと交響曲でありピアニストが参加できる曲ではないので、演奏できるのは光栄です。しかも通常は100人以上で演奏する曲を一人でやるという特別感があります。ピアノのために書かれたソナタなどと比べて、交響曲の構造を想定しており曲としての構想がそもそも違って大きい。ですが、僕が目指すのは、背伸びをしてオーケストラと対抗するということではありません。ただベートーヴェンの音楽に迫るということ、そしてそれがピアノという手段であるということだけです。ピアノを超え、つまりはピアノの機能を100%活かすということにもなります。



ピアノならではの表現もあるでしょうね。

ピアノの存在を感じさせず、ただベートーヴェンの音楽がそこにある、という演奏を目指します。例えば第3楽章で求められる音の持続性は、弦楽器や管楽器では簡単ですが、ピアノでは一度出した音をのばし続けることは物理的には無理です。ただ、内的な感性がずっとつながることで、いわゆる心の耳で持続して聞こえるという世界があると思うのですね。表現という意味で非常にチャレンジしがいがあると思います。

リストがピアノ用にすばらしい編曲を残してくれたなという想いがあります。1つも無駄がない。非常にベートーヴェンへの敬意を感じる編曲です。自分をひけらかすような装飾はなく、ひたすら一番いいところをピアノのハーモニーとして聴かせることに徹して、しかも自然に書かれています。

それと同時に、色々な楽器のイマジネーション、遠近感、ドラマ性、立体感を見せていくのが、特にこの曲に関しては大事なところですね。オーケストラの色々な楽器、合唱、ソリストなど様々な声部がありますから、ピアニストとして、自分の中に大人数がいるという感覚はすごく大事だと思います。大勢の存在のもとに旋律が流れていて、それが多層になっている、ということを常に意識することが、ピアノを一面的にしない条件です。そこが決定的に難しくて一番大事なポイントとなるところで、それを忘れてがむしゃらに弾くことにかかりっきりになるとピアノがピアノになってしまう。
70分以上ある大曲ですが、第1楽章の冒頭から、曲の最後まで見えている状態で演奏したいですね。



前半はリストのピアノ・オリジナル作品です。

編曲者であるリストの一番有名な3曲といってもいいと思います。歌がテーマ。「コンソレーション」は「慰め」と訳されますが、個人的な慰めというより、「癒し」というと軽いのですが、そういう愛情に満ちたもので、かなり「第九」の精神に近い表現です。「愛の夢」もしかりですね。ひとりの女性に対しての詩がついていますが、もっと表面的でない、奥深い、強いメッセージ性がありますし、ハンガリー狂詩曲第2番は、苦しみ、嘆きから、そこに立ち向かっていく人々の力強さ、エネルギーが凝縮された曲で、悲劇性の中からメッセージを訴えているので、「第九」でそれらがすべて昇華していくような感じで聴いていただきたいという気持ちもあります。



6年ほど前に、右手が動かなくなる病を患われました。

手が動かない苦しさは、ピアニストにとっては相当なものです。「第九」の演奏には苦しみの表現が必要とされるので、当時は特に意識しなくても表現できた部分もありました。そんな苦しい時期に第九は自分の支えになりました。人類の大きなことを歌っていますが、それはそれぞれの人々につながることでもあり、ミクロとマクロが一体となって非常に濃度が濃い。

病の後、奏法、弾き方全てを根本的に一新し、ゆっくりともう一度組み立て直しました。結果的に、現在の状況は、無駄が一つもなくて、それまで取り組んでいたこと、その時期集中してやっていたことや考えていたことが、すべて合体しています。そして今、体の面でも心の面でも、次の段階に進んでいっていると自負しています。今振り返れば、あの時期は宝物ですね。それから今までの間に、ピアニストとして、病の完全克服も含め、色々な発見と発展をしました。その蓄積を全てぶつけて、今回の演奏にかけたいと思っています。





若林顕ピアノを習っているお子さまへのアドバイス

やはり楽しくやることが一番です。
想像力をふくらませていろいろなイメージを持って弾くことが大事。最初に自由に好きに弾くのがありきで、それをどう形にしていくかは訓練が必要で、僕も先生に徹底的に鍛えられました。

それからコンサートに行っていろいろな楽器の音を直に聴くのはとても大切なことです。コンサート会場の臨場感もありますし、ドキドキしたりすごくうれしくなったりするのもいいですね。


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