6月の「昼の音楽さんぽ」にご出演いただくのは、日本を代表するヴァイオリニスト徳永二男さん。NHK交響楽団のコンサートマスターを長く務め、「N響の顔」としてご記憶の方も多いと思います。
音楽は「心のビタミン剤」
「昼の音楽さんぽ」は、平日の昼間なら外出しやすいという方々に向けた、60分で気軽にコンサートを楽しんでいただけるシリーズです。
徳永:いいコンセプトですね。日常生活では、身体だけでなく、心が疲れるということもあるでしょう。音楽は、「心のビタミン剤」になりますから。コンサートで心の栄養吸収していただいて、また普段の生活に戻っいただければと思います。
みなさんがよくご存じの名曲を...
プログラムについて教えてください。
徳永:みなさんがよくご存知のヴァイオリンの名曲ばかりです。最後に演奏する「ツィゴイネルワイゼン」は、世界中でもっとも親しまれていると言ってもいい。華やかで、揺れる心も表現できる名作。ヴァイオリンの超絶技巧がちりばめられており、左手も右手も飛んだ跳ねたりする。聴くだけでなく、見ても楽しんでただけると思います。どんな技巧か、少しお話して紹介しながら演奏しようと思います。イタリアの作曲家ヴィターリは、今ではこの「シャコンヌ」しか知られていませんが、ヴァイオリンを習う方であれば必ず練習する曲です。様々な変奏の中に、軽やかさや激しさ、むせぶように弾くところなどあります。好きでよく弾くんですが、おかげさまで評判もいいです。サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリツィオーソ」も本当に華やかな代表作ですね。ヴァイオリニストが弾く頻度は「ツィゴイネルワイゼン」に次いで多いかもしれません。楽しんでいただけると思います。
こうして見ると、どれもこれも超絶技巧の曲ばかりですね。
徳永:そう。名曲はどれも超絶技巧を織り込んでいて、それがみなさんの耳になじんでいますから、弾くほうは大変なんですよ。でもむずかしそうでなく、さりげなく、楽しげに弾かなくてはね。お客様に楽しんでいただくわけですから。どんな超絶技巧でも演奏者の感情が表れなければと思います。チャイコフスキーの小品2曲も、ヴァイオリンのコンクールなどで課題となるようなむずかしい曲ですが。
ヴァイオリンの名器、ストラディヴァリウスとともに
楽器は名器ストラディヴァリウスです。
徳永:1696年に作られたもので、長いあいだコレクションされていたらしく、割れがなく無傷なのが、まずいい。ヴァイオリンは、一般的に楽器のアーチ(ふくらみ)が低いほど鳴りにくいけど、音量が大きくなります。アーチが高いと、透明感のあるいい音が出るのですが、音は小さい。この楽器はアーチがとても低いので、作られた当初はあまり鳴らなかったかもしれませんが、今ではよく鳴って甘い音色がするし、パワーもあるし、そのバランスがとてもいい楽器です。いろいろストラディヴァリウスを弾いてきましたが、これが一番好きですね。
第一生命ホールの印象はいかがですか。
徳永:今までに2回演奏したことがありますが、素晴らしいホールです。楽屋も素晴らしくて。いや、演奏家にとって、演奏するにしても休むにしても、最後の仕上げをする楽屋は大事ですよ(笑)。
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舞台で演奏される時は、怖いほどの圧倒的なオーラを感じる徳永さんですが、インタビューでは本当に気さくにいろいろな質問に答えてくださり、楽しい時間を過ごさせていただきました。演奏はもちろんのこと、お話も交えてくださるというコンサートがますます楽しみです。
[聞き手/文 田中玲子]