中央区の国際教育推進パイロット校でもある常盤小学校は、日本の伝統文化への興味関心を養ってほしいという願いもあり、毎年邦楽のアウトリーチを行っています。
今年は邦楽囃子を取り上げ、打物の盧慶順さん、梅屋喜三郎さん、山口晃太朗さん、笛の正田温子さんに出演していただきました。
プログラムは4時間目に4年生を対象とした楽器体験のワークショップ、5時間目に4年生によるワークショップの発表と、3,4,5年生を対象にした鑑賞という二部構成です。
4時間目のワークショップでは、4年生が笛、小鼓、太鼓、大太鼓の4つの楽器の中から一つを選び、演奏体験をしました。笛を正田温子さん、小鼓を盧慶順さん、太鼓を梅屋喜三郎さん、大太鼓を山口晃太朗さんが指導。まずは楽器の持ち方、構え方、音の出し方から教えてもらい、音が出るようになったら、「さくら」と「邦楽囃子のためのソーラン節(盧慶順編曲)」の演奏に挑戦しました。笛は音を出すのもとても難しい楽器ですが、小鼓も左手で紐を握ったり緩めたりしながら音色を変えたり、また太鼓、大太鼓も、日本独特のリズムを覚えて演奏するのがとても難しそうです。5時間目には3年生と5年生の前で発表するということもあり、子どもたちは講師の先生の指導に熱心に耳を傾け、邦楽器の演奏に果敢に挑戦していました。
5時間目、講堂に3,5年生も集まってくると、梅屋さんの大太鼓による「一番太鼓」が始まりました。「一番太鼓」とは、歌舞伎の劇場などで開場前に「お客さんがたくさん入るように」と儀式的に打たれるリズムなのだそうです。どんな風に打っているか梅屋さんが再現し、盧さんの解説で「どん、どん、どんとこい」と言っているリズムだと分かると、子どもたちも「なるほど!」とうなずいていました。
次は大太鼓に、太鼓、能管(笛)が入って「着到」の演奏です。「着到」とは、歌舞伎や日本舞踊で、演者が楽屋に入った合図の音楽なのだそうです。「着到」では、大太鼓も太鼓も能管も実はアドリブで演奏をしているのですが、能管のあるフレーズが出てきたら演奏の終わりの合図になるのだそう。
ここで子どもたちにも参加してもらい、口唱歌を体験。能管の「おーひゃいとーろひゃいとーろ」というフレーズが聴こえたら、「りーやーりーやりーやーり」と口唱歌した後、音がぴたっと止まりました。なかなか聴き慣れないフレーズなので難しそうでしたが、指揮者がいるわけではないのに何人もの人の音がぴたっと止まる、というのはこういう仕組みになっていたのですね。
続いて、大太鼓による「川」、「波」、「雨」、「雪」など情景を描写する奏法を紹介。盧さんが、「波」の音一つでも、激しい波、優しいさざ波など、打ち方で自然の音を表現し分けていることを紹介すると、子どもたちはそれぞれの情景を想像しながら聴いているようでした。
次は笛の紹介です。ドレミの音階になっていない「能管」と、ドレミの音階になっているのでふだん私たちが耳にするような曲のメロディも吹ける「竹笛」の違いを紹介。「竹笛」はもともとお祭りで使われていた楽器だそうで、祭囃子を正田さんが演奏すると、子どもたちも聴いたことがあるという反応でした。
そして、大鼓、小鼓、締め太鼓の紹介が続きます。大鼓の方が小鼓より高い音が出ること、小鼓は左手で紐を緩めたり締めたりしながら音色を作っていること、締め太鼓は皮の中央に小さくて丸い皮が貼ってあって、そこをめがけてばちを当てることなど、子どもたちもはじめて聞くことばかりのようです。
それぞれの楽器を知った後は、太鼓と大鼓、小鼓、能管の4つの楽器による「乱序~狂い」の演奏です。はじめは静かでゆっくりとした音楽ですが、だんだんとテンポが速くなり激しい演奏になって行く曲で、獅子が舞う勇壮なシーンなどで使われるそうです。激しくなっていく音楽と掛声の迫力に、子どもたちはびっくりしている様子でした。
ここでいよいよ、待ちに待った4年生による発表です。
緊張した面持ちで前に出てきた4年生ですが、笛のメロディで始まる「さくら」では、笛もしっかり音が出ています。小鼓、太鼓も難しいリズムですが、よく揃っています。次に「邦楽囃子のためのソーラン節」は、正田さんの笛によるメロディに、大太鼓と小鼓の奏でるリズムが心地よく響く曲でしたが、こちらもとても難しいリズムを今日はじめてこの楽器に触れたとは思えないしっかりとした演奏で披露してくれました。
4年生は自分たちの発表を終えてほっとしたところで、最後に講師の先生による演奏を聴き締めくくりとなりました。曲は、盧慶順さん作曲の「田楽風囃子組曲」。笛によるゆったりとした、どこか懐かしいようなメロディで始まり、踊り出したくなるようなリズミカルな部分が続く邦楽囃子の魅力がつまった曲です。子どもたちは、笛を演奏するめまぐるしい指の動きや、太鼓のすばやいバチさばきに目を奪われている様子でした。
日本の伝統楽器はふだん身近に耳にしたり、手にする機会が少なく、大人でも今回のアウトリーチで初めて知ることがたくさんありました。4年生はワークショップで楽器を演奏してみて、そして指導してくれた方の演奏を聴いてみて、邦楽器への興味がより深まったのではないでしょうか。これから子どもたちが、歌舞伎や能、祭囃子など日本の伝統芸能に触れる時、演奏されている邦楽囃子を「聴いたことがある」「自分もやったことがある」と身近に感じ、今回のアウトリーチが邦楽器に親しむ一歩となることを願っています。
(トリトンアーツスタッフ)