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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

山田武彦

630コンサート~充電の60分~
山田武彦 ピアノ・ワールド

仕事帰りにリフレッシュしていただけるように企画した、午後6時30分スタートの「630コンサート」。2月にご出演いただくピアニストの山田武彦さんにお話を伺いました。

毎日がんばって仕事をしている方と一緒に行く音楽の旅

「630コンサート」の主なお客さまは、晴海トリトンスクエアで働く仕事帰りの方たちです。

僕はいわば、毎日がんばって仕事をしている方と一緒に行く音楽の旅の道案内だと思っています。「みんなで行きましょう!」と。

プログラムにピアノやオーケストラの名曲が並んでいますが、どんなコンサートになりますでしょうか。

ここ第一生命ホールの「630コンサート」という場でしかできないものを考えています。クラシック音楽の世界では、何かを創り出すことと演奏することの間に垣根があって、作曲家と演奏家の役割が分かれてしまっています。でも僕は、創り手であり弾き手でありたいと強く思っていまして、今回のコンサートでもそれを目指しています。オリジナルに対して敬意を持って弾くことはもちろんなのですが、現代の日本に生きる僕たちが聴くにはどうするか。表現が難しいのですが、いわゆる「アレンジ」ではなく、作曲家とプレイヤーが同居しているようなコンサートにできたらいいなと思っています。

例えば「エリーゼのために」はどのような演奏になるのでしょう。

原曲どおりに弾き始めます。でも聴いているうちに、例えば小さい頃にこの曲を弾いていた子のことを思い出したり、そこから色々と記憶がつながって、まるでひとつの旅をしていただけるように演奏したいと思っています。「ああ『エリーゼのために』ね、知ってる知ってる」と思って聴いていたら、いつの間にか自分の人生を振り返っていたというような。

それはすごいですね。どんな演奏になるのでしょう。山田さんの演奏は、オーケストラの曲をピアノ1台で演奏しても、その国や時代の音がする気がします。何かコツはあるのですか。

想像力ですね。妄想が激しいのです。科学的に分析したら奏法に秘密があるのかもしれないですが、それを動かすのはやはり想像力、イマジネーション。きっと行ったこともない国の、あったこともない人の真似をしているのですよね。

その想像が音になっているのですね。小さい時から音楽がお好きでしたか。

そのようですね。でも音楽って始めと終わりがありますよね。僕は小さい頃わがままな奴で、例えばラジオやテレビから流れる音楽が大好きだったのですが、終わると「何で終わるんだ」と泣いたのだそうです。僕の中では、音楽にも終わった後があって。物語でも、終わった後の話を作ることがありますよね。それと同じで音楽の前や後も想像してしまいます。

それが山田さんの演奏に奥行きを与えるのかもしれませんね。共演は、萱谷亮一さんですが、ピアノとパーカッションでどのような演奏になるのでしょう。

ここに並んでいる曲はどれもピアノ・ソロやオーケストラの曲で、ピアノとパーカッションだけで演奏する曲ではありません。彼は、こうした曲に取り組むのが天才的なんです。パーカッションは、物を叩いて音を出すわけですが、彼の演奏からは、シンバルや小太鼓といった個々の「楽器」の音が聴こえるというより、「音の動き」そのものが聴こえるのです。僕も「楽器」から離れて演奏したいと思っていますから、彼と相性がいいのです。ピアノの最大の特徴は一度にたくさんの音が出ることですが、それより、片手でメロディーを弾く一方で、もう片方では背景を弾いている、というような陰影や遠近感を一台で表現するのが得意で、それを聴いてほしい。そしてピアノの音でありながら、ある時はフルートのように、ある時はヴァイオリンのように、またある時はピアノ1台なのにまるでオーケストラの音であるかのように、他の音に化けられるということもあります。それから、音楽が今その場で生まれたように演奏するのが、僕たちの目指すところですね。「エリーゼのために」が今ここで生まれた、と感じられたら最高です。思ったものと違って意外だった、と感じる方もいると思います。知っている方が安心という気持ちも分かりますが、意外性を楽しんでいただけば。

具体的に萱谷さんが使われる楽器は?

ずいぶん出てくると思いますよ。彼はクラシックの堅いイメージが強いティンパニも専門的に扱いますが、他にもおもしろいものをたくさん持ってきます。すわる椅子もカホンという楽器で、まわりに皮の太鼓や、木製、皮製、金属製のものをずらーっと並べて、彼なりのセットにして、バチや手で叩いたりします。クラシックのシンバルやティンパニ、ラテンパーカッションを含め、様々な民族打楽器の色々な音を聴いていただけますし、音量の面でもピアノと合わせてオーケストラ並みになるはずです。

お客様の心構えとしては、リラックスしていてよろしいでしょうか。

そうそう。身一つで。お仕事を持っていて、時間に追われている人が来るんですから、時間をまったく考えないで、椅子にすわりにきていただければ大丈夫です。

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山田武彦さん率いる60分間の「音楽の旅」で、お仕事帰りにフル充電できること請け合いです!

[聞き手/文 田中玲子]