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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

© 武藤章

長谷川陽子

音楽のある週末 第13回
長谷川陽子 無伴奏チェロ・リサイタル

週末、定期的にクラシック音楽を楽しんでいただく「音楽のある週末」シリーズ、今年度最後に登場するのは、デビュー25周年を迎えたチェリスト長谷川陽子さん。記念の年にチェロ1本のみの無伴奏の世界に挑戦します。

空間いっぱいに自分の好きな音だけで描く、チェロ無伴奏の世界

チェロとともにあった25年

デビュー25周年おめでとうございます。

本当に色々な方に支えていただいて今日にいたるという感じです。デビュー時はまだ高校生で、学生とチェリストの「二足の草鞋(わらじ)」でした。それから留学をして、チェリストとなり、人間としても女性としても演奏家としても色々な経験をしてきましたが、25年間常にそばにいたのは、やはりチェロだけなのですよね。私の人生の最長パートナーです。

小さな頃から、ご自分でチェロをやりたいとおっしゃったのですね。

3歳くらいの時、両親がたまたまパブロ・カザルスのチェロの録音を聴かせてくれたのをきっかけにやりたいと言い出しました。当時は小さな頃からチェロを習う方は少なかったですし、子供なので興味が変わるかもしれないことを心配して、最初はピアノを習わされましたが、「チェロ、チェロ」と言い続けていたら、9歳の時にやっと買ってもらえました。楽器に合う性格があると思いますが、私はチェロ向きで本当によかったと今でも思いますね。

楽しみな反面、身が引き締まるような
コンサートのひとつです

今回は無伴奏、チェロ1台だけのリサイタルです。

実は無伴奏は好きです。もちろん共演者の方に触発されて、色々な化学反応が起きるのもおもしろいのですが、空間いっぱいをキャンバスだと思って自分の好きな音だけで絵が描けるのは、無伴奏の醍醐味だと思います。今回のプログラムは、自分にとってはかなりハードな曲をあえて並べました。今から自分としては楽しみな反面、身が引き締まるようなコンサートのひとつです。これを機会に一皮むけて26年目に踏み出せるのではないかと自分でも期待しています。
デビューから25周年で、得てきた実りをぜひ皆さまにお聞かせしたいという気持ちがあります。また次の30周年、あるいは50周年に向けて、自分としても新しい始まりだと思っていて、ちょうど、終わりと始まりが交差するコンサートになると思っています。チェロがお好きな方には、チェロ1本だけを聴いていただける機会で、チェロは初めてという方でも、メロディーが聴きやすい曲が多く、古典から近代までの作品を楽しんで聴いていただけるのではないかと思います。

プログラムは、どのように組まれましたか。

カサド無伴奏チェロ組曲は、小さな頃から愛奏している大好きな曲。コンサートの始まりに、会場の皆さまにも、音楽にぐっと集中していただける演奏をしたいと思っています。ヒンデミット無伴奏チェロ・ソナタは久しぶりに取り上げる作品なのですが、ここ数年、近現代の作品をたくさん手がけてきた中で、今最も興味を持っている作曲家です。聴いているお客さまは何も考えなくてもいいように、弾いている私は頭を使わなくてはならない作品。知的なパズル解きのようです。ボッタームントパガニーニの主題による変奏曲は、大変な難曲ですが、筋力や瞬発力の衰えを感じるこの齢になると(笑)、こういう超絶技巧をあえて取り込んでいくのが自分のためでもあります。パガニーニの有名な「24のカプリース」をテーマにしているので、構えずに聴いていただけると思います。そして、数々の名曲があるチェロ無伴奏作品の中でも、このバッハ無伴奏チェロ組曲第6番がなんといっても頂点だと思うので、この王道中の王道の曲で最後は締めたいと思います。このプログラムを見ると、自分でもドキドキして、なんだかデビューリサイタルのような気持ちです。がんばって演奏しますので、ぜひ聴きにいらしてください。

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演奏する時の凄まじいばかりの集中力、チェロを朗々と歌わせる歌心はもちろん、なによりもチェロが大好きという気持ち、常にチャレンジを続ける向上心、まわりの人々に感謝の気持ちを忘れない謙虚で真摯な姿勢こそが、常に第一線で活躍されている理由なのですね。どうぞチェロ1台から無限に広がる豊かな世界をお楽しみください。

[聞き手/文 田中玲子]