今をときめくピアニスト4人が一年の締めくくりにお届けする『ピアノオールスターズ』。第4回を迎える今年は「ピアノ・パッション~4つの個性が描く名曲の世界~」と題して、ロー磨秀、南杏佳、尾城杏奈、梅田智也がそれぞれの情熱を込めてステージを彩る。選曲に込められた思いを語ってもらった。
[聞き手・文/飯田 有抄(クラシック音楽ファシリテーター)]
このコンサートの第1部は、大好評の「リクエスト曲コーナー」。4人それぞれの「候補曲」の中から、人気投票で選ばれた作品が披露される。何が選ばれるかは当日のお楽しみ!(投票の受付は10月31日まで。投票フォームからご応募ください)
*リクエスト曲コーナー 候補曲と応募方法は、こちら
2024年ピティナ特級グランプリの南杏佳の候補曲はショパンのノクターン第20番 嬰ハ短調「遺作」、アーレン=キース・ジャレットの「虹の彼方に」、アブレウ=アムランの「ティコ・ティコ・ノ・フバ」、トレネ=ワイセンベルクの「パリの4月」の4曲。
「私は現在ボストン音楽院で学んでいるのですが、アメリカの演奏家のプログラミングの豊かさに刺激をもらっています。この4曲は、いずれも私が大好きな作品です。「ティコ・ティコ・ノ・フバ」はブラジリアン・テイストの音楽。途中にベートーヴェンが顔を出すアムランの編曲ですが、私自身のアレンジも加えます。キース・ジャレット編曲の「虹の彼方に」では、ボストンのクラスで学んだジャズのテイストを披露したいですね」(南)
2020年ピティナ特級グランプリの尾城杏奈は、ショパンの前奏曲第15番「雨だれ」、シューマン=リストの「献呈」、リストの「ラ・カンパネラ」、そして「愛の夢」第3番を候補に挙げた。
「あまりに有名で名演の録音も多い中、自分が演奏する意味や価値を探しながら弾き続けている作品たちです。作曲家の意図に寄り添うことを第一に考え、なおかつ自分の表現でお客様のもとへと届けたいですね。「献呈」や「愛の夢」は歌心も問われます。ピアノはひとたび鍵盤を打ったあとは音が減衰する楽器ですから、その減衰する先を耳でたどっていきながらフレージングを考え、カンタービレ(歌うように奏でること)を実現したいと思います」(尾城)
ソロ活動のほか、シンガーソングライターとしての才覚も見せ、数々のアーティストとのテレビ共演などで活躍するロー磨秀。候補曲には彼らしいナンバーが並ぶ。ピアソラ=ロー磨秀の「リベルタンゴ」、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」、エルトン・ジョンの「Your Song」(ボーカル付)、コズマの「枯葉」(ボーカル付)だ。
「『リベルタンゴ』は、ビートを刻み続けるピアノソロ版を僕自身でアレンジした力作です。エルトン・ジョンの『Your Song』は、僕自身がイギリスとのハーフということもあり、共感を込めて弾き語りしたい曲です。季節的なことを考えて、『枯葉』や『戦場のメリークリスマス』も候補に入れてみました。どれが選ばれても、大好きな作品なので嬉しいですね」(ロー)
オール・ベートーヴェンの候補曲を挙げるのは、梅田智也。ベートーヴェンの後半生を描いた大人気の舞台『No.9 --不滅の旋律--』(稲垣吾郎・主演)にピアニストとして出演し、3時間強の長い舞台を音楽で支えた。今回の候補曲はピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第3楽章、第14番「月光」第1楽章、 第17番「テンペスト」第3楽章、そして「エリーゼのために」である。
「『悲愴』第3楽章は、シンプルでありながらもベートーヴェンらしいハ短調の響きが感じられます。『月光』第1楽章は音数が非常に少なく、端正な和声進行によって作られる、あの世界観が特徴的です。『テンペスト』第3楽章では、16分音符が切れ目なく続き、何度も転調を重ねる中でさまざまな感情が描かれています。一つの楽章だけを取り出して弾くことは、普段なかなかありませんが、今回はその「楽章」の持つ魅力や雰囲気を皆さまにお伝えできたら、と思っています」(梅田)
第2部は色とりどりの名曲による「ピアノ・パッション」が展開される。ローはドビュッシーの前奏曲から5曲を弾く。
「1曲1曲が宝箱のように世界観を持った作品ですので、それぞれのエネルギーや輝きをお楽しみいただけるように演奏したいと思います」(ロー)
南が取り上げるのはリストの「スペイン狂詩曲」だ。
「リストがホタ・アラゴネーザとフォリアという2つのスペイン舞曲を取り入れた作品です。力強く男性的な前者と、可愛らしく女性的な後者の対照的なキャラクターをお届けしたいです」(南)
尾城はショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ」を選曲。
「高校時代に第一生命ホールで初めて演奏した作品です。当時は弾くだけで精一杯でしたが、ショパンを深く学んだ今、あらためてこのホールでお客様にお聴かせしたいと思います」(尾城)
梅田はやはりベートーヴェン。ソナタ第23番の「熱情」を披露する。
「この『熱情』は中期の傑作とも言える壮大な作品で、一音一音に込められた意味の重さを感じるソナタです。楽譜から読み取れるベートーヴェンの思いを大切に、全身全霊で演奏したいと思います」(梅田)
インタビュー その2に つづく