
三澤響果・菊野凜太郎(ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)で構成されるクァルテット・インテグラは、国内外で数々のコンクール受賞歴を誇る、注目の四重奏団です。現在はアメリカのコルバーン・スクールに籍を置きながら、世界中で演奏活動を展開中。「若手」ながら早くも結成10年を迎え、そのアンサンブル力は密度を増しています。
ベートーヴェン、ブラームス、バルトークという「3大B」の弦楽四重奏曲第1~3番を演奏する3年がかりのシリーズののち、彼らが次に取り組むのは、弦楽四重奏の重要なレパートリーであるベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲。再び第一生命ホールで、今度は6年におよぶシリーズとして計画されています。「3大B」の最終回の直後、4人にお話を伺いました。
[聞き手/文:越懸澤麻衣(音楽学)]
3年間のシリーズ、お疲れさまでした。「3大B」を弾いてみて、いかがでしたか。
山本:ベートーヴェン、バルトーク、ブラームスとやることで、何かこの作曲家たちに確信を持てるのではないかと思い始めてみましたが、3年やってみて、確信を持つなんてことはまだまだずっと先、もしくは一生起こらないことかもしれないと気が付きました。でもそれが正しいのかもしれません。このシリーズを通して自分たちのなかで色々な変化がありましたし、これからも変わっていくでしょう。終わりがないのだなと思っています。
菊野: 「3番」というのは、ベートーヴェンにとっては最初の曲で、バルトークにとっては折り返しの曲で、ブラームスにとっては最後の曲で、というように3番を書いた時期、歴史の違いのようなものが曲に出ている感じがして、とくに今回は興味深かったです。
三澤:毎回インタヴューで言っている気がしますが、このシリーズで一番ブラームスと向き合ったなと思っています。ベートーヴェンは全曲できなかったことによって、「え、まだ聴きたかったのに!」となってベートーヴェン・ツィクルスへ、という流れが良かったなと思います(笑)
ベートーヴェン・ツィクルス初回のプログラムは、第1番Op. 18-1、第16番Op. 135、そして第10番Op. 74「ハープ」ですね。これはどういう意図で組んだのですか。
山本:この3曲の共通点を考えてみると、第1番は前期の作品の中では最も中期の作品を予感させる作風で、ハープは中期の中で最も後期に近く、第16番は後期のその先へのスタートとなっているような気がします。第1番は3年前に弾いたときとぜんぜん違う演奏になると思います。来ていた人ほど、ぜひまた聴いていただきたいです。
みなさんはベートーヴェンという作曲家にどういうイメージを持っていますか。
パク:私にとってベートーヴェンは、多くのことを考えなければならない作曲家です。室内楽、とくに弦楽四重奏のチェロ・パートは、ほとんどバス・ラインを弾くので、単純で弾きやすいと思われがちですが、そうではありません。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、弦楽四重奏の演奏を完全に理解するための最良の「教科書」の一つだと思います。チェリストとして、和声によって奏法がどのように変わるのか、チェロがどのような役割を担うのか、多くのことを学びましたし、今も学んでいます。
菊野:僕にとってベートーヴェンのクァルテットは、すごくまぶしいというか、1音1音欠けることなく役割があって、弾いているときは弾きながらお腹いっぱい。情報量が多いので、ツィクルスの6回が終わったあとには、脳がどうなっているのだろうと思います。
三澤: 1つのプログラムに他の作曲家と一緒に並ぶと、すごくベートーヴェンの偉大さを感じてしまうけど、ベートーヴェンの曲が3曲並んでいると弾きやすくなる感じがあります。私は根拠のない自信がありますよ、ツィクルスをやりとげる、という(笑)
ところで、パクさんはこのインタヴューに初登場ですよね。加入までのことを少しお話いただけますか。
パク:私はこのアンサンブルで演奏する前から、2017年からコルバーンで勉強していました。クァルテットのメンバーは2022年にコルバーンにやって来て、それ以来、私は彼らが演奏しているのを好んで見ていました。彼らの演奏はいつもあらゆる点で完璧に感じられましたし、私が室内楽に情熱を保ち続けるインスピレーションにもなりました。そして、とても驚いたことに、このクァルテットに誘われたのです。私は最初、彼らがすでに成し遂げてきたことを台無しにしてしまうのではないか、何か邪魔になってしまうのではないかと少し心配でしたが、今ではこのグループでの立ち位置をある程度確立できてきたと思います。
では最後に、最近のアメリカでの出来事について教えてください。
山本:先日コルバーンで、僕が作った曲を三澤さんが弾いてくれました。僕にとってはとても特別な経験になりました。
菊野:この間のネバタはすごく寒くて、人生で初めて本番で弦が切れました。いろいろな土地を移動していると、楽器のコンディションが難しいですね。
三澤:最近ずっとアメリカで演奏していたので、日本のお客様がほんとうに静かで、良い意味でビックリしました。アメリカでは、演奏中にリアクションを取っている方もいるので。
山本:楽章間でも「Wow!」とか。お客さんの反応は、とても嬉しいんですけど、日本のように静寂でコンサートホールが非日常の空間になるのも良いですよね。