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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

加耒 徹

ごほうびクラシック 第11回

 第11回の『ごほうびクラシック』には注目のバリトン歌手、加耒徹が登場。『カルメン』より「闘牛士の歌」からはじまり、武満SONGS、往年の映画からの名曲、そしてメノッティのミニオペラ『電話』まで、1時間とは思えないほど充実したプログラムについて話を聞きました。
[文:原典子(音楽ジャーナリスト)]

加耒さんはオペラ、リート、古楽といったクラシック音楽からミュージカルナンバー、映画音楽まで、とても幅広いジャンルを歌われますね。

加耒:もともと歌だけでなく、いろいろな音楽に興味がありました。子どもの頃はヴァイオリン、中高の部活ではオーボエやサックスを演奏していたので、オーケストラが大好きで、今でもよく聴きに行きます。いっぽうで、父が牧師ということもあり、教会付属の幼稚園に住んでおり、教会で讃美歌を歌うことは身近でしたし、家では父が好きだった現代音楽が流れていたり。ジャズの演奏もしましたし、あらゆる音楽に垣根なく触れて育ちました。

 ですから正直なところ、「歌手になりたい!」という強い気持ちで歌を始めたわけではなく、音楽を仕事にしていきたいと思って音大を受験し、二期会オペラ研修所やバッハ・コレギウム・ジャパンをはじめ、さまざまな場所で出会いに恵まれ、歌の世界にのめり込んでいったという感じです。

だから歌も特定のジャンルに絞らず歌っていきたいと。日本の歌手では珍しいタイプでは?

加耒:そうかもしれません。職人というか、「なんでも屋」になりたいという願望がありますね。リート歌いを極めるといった道よりも、いろいろな音楽を、それぞれのスタイルに合った知識や和声の感覚をもって歌っていきたい。服の色を変えるように、歌い分けられる歌手になりたいと思っています。

 考えてみれば、昔の音楽家はなんでもできました。バッハやヘンデルといった作曲家はオルガニストとしても活躍していましたし、歌手がさまざまな楽器を弾くことも普通でした。ここ半世紀ほどは、ひとつの分野のスペシャリストが尊ばれる時代でしたが、それだけではない価値観も出てきてよいのではないかと。

そのように広い視野をもつ加耒さんが、今回の『ごほうびクラシック』のために組んだプログラムについて、選曲の意図をお聞かせいただけますか?

202307Figaro_HayashiMichiko_R525704_(C)OkuboMichiharu.jpg加耒:第一生命ホールは『室内楽ホールdeオペラ』公演にも出演させていただき、素晴らしいホールなので、なにか動きのあるオペラを入れたいと思いました。アリアやデュエットといったハイライト的なものではなく、30分程度で完結するミニオペラならフルで上演できるなと。そこで、メノッティの「電話」を後半の軸にプログラムを組むことに。1947年にニューヨークで初演された作品ですが、20世紀のアメリカといえば映画ということで、前半を映画音楽セレクションにしました。私の大好きなイタリア映画も入っていますが、リラックスした気分で聴きなじみのあるメロディを楽しんでいただければ。

映画音楽には『ニュー・シネマ・パラダイス』より「愛のテーマ」(モリコーネ)、『ティファニーで朝食を』より「ムーン・リバー」(マンシーニ)、『慕情』のテーマ曲(フェイン)といった名匠たちの作品が並んでいますが、映画もお好きなのですか?

加耒:学生時代は毎日のように観ていました。昔の映画はオープニングで主題歌がタイトルロールとともに流れたりして、メロディがしっかり印象に残りますよね。映画では主にインストゥルメンタル・バージョンが使われていて、「え、歌詞がついていたの!?」という曲もあるかもしれません。クラシックの和声を学んだ作曲家が多いですし、歌詞の韻律もしっかりしているので、クラシックの歌手が歌ってもまったく違和感がないんです。

メノッティの『電話』は若い男女のすれ違いによるコミカルなやり取りが楽しいミニオペラ。プロポーズしようとするたびに電話に阻まれるベンのガールフレンド、ルーシー役にはソプラノの宮地江奈さんが出演されます。

MiyachiEna(C)Yoshinobu Fukaya_aura.Y2.jpg加耒:ふわっとした雰囲気で、チャーミングなお芝居をしてくれそうな宮地さんはぴったりではないかと思ってお願いしました。

 私はコルンゴルトやコープランドが大好きなのですが、クラシックの作曲家でありながら、映画音楽の分野でも活躍した彼らに通じる時代性をメノッティにも感じます。「電話」も、ときおり無調的なテクニックを使いながら、クラシカルなスタイルによる密度の高い音楽に、ミュージカル的な要素をうまく混ぜて、聴きやすい30分の作品に仕上げられています。短い時間でいかに観客にアピールするかというアメリカの文化だからこそ生まれた作品でしょう。

ピアニストの松岡あさひさんは作曲家でもあり、長年にわたって加耒さんと共演されてきたそうですね。

MatsuokaAsahi.jpg加耒:彼とはもう、数えきれないほど多くのステージを共にしてきました。つい先日も、1日に100曲歌うリサイタルを一緒に完走したばかり。星空のようなキラキラした和音を使うのが得意な作曲家であり、素晴らしいピアニストです。今回も、映画音楽や武満SONGSでは、松岡さんの即興をまじえた編曲も聴きどころですので、ぜひご注目ください。

では最後に、『ごほうびクラシック』にちなんで、加耒さんが「自分にごほうび」をするときのリフレッシュ法を教えてください。

加耒:私はサッカーJリーグ「アビスパ福岡」のサポーターなので、試合観戦のための遠征を兼ねた小旅行がリフレッシュになっています。いろいろな土地の自然に触れるのが好きなので、「明日休みだ!」となったらすぐに飛行機をとって、1日でもどこかに行きますね。フットワークの軽さだけが取り柄です。あとは家事も好き。とくに洗濯でフワフワのタオルをたたむ瞬間は至福です。

加耒さんのいろいろなお顔を見ることができるインタビューをありがとうございました!