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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

トリトン晴れた海のオーケストラ 矢部達哉(コンサートマスター)&三原久遠(ヴァイオリン)インタビュー

トリトン晴れた海のオーケストラ 第12回演奏会

2021年11月の「交響曲第九番」の演奏会で、<トリトン晴れた海のオーケストラ(晴れオケ)>はベートーヴェンの交響曲連続演奏会を終えたけれど、その演奏会の熱気はまだ記憶のなかに鮮やかに残っている。さらにNHKによってテレビ番組も制作され、リハーサルから本番までの興味深い経過も知る事が出来たので、さらにこの指揮者なしのオーケストラに興味を持っている方が増えているのではないかと思う。そこで、次回の演奏会について、コンサートマスターの矢部達哉さんとメンバー(ヴァイオリン)の三原久遠さんに話を聴いた。

[聞き手/片桐卓也(音楽ライター)]

矢部達哉 (C)大窪道治

矢部「ベートーヴェンの交響曲を連続演奏することで、晴れオケのメンバーも改めてベートーヴェンの魅力について再認識した部分も多いと思うので、その気持ちを持ち続けたいというのが今の心境です。聴いて下さるかたも、ベートーヴェン・ロスにならないようにしたいとも思いましたし。『第九』という大作の後で、どんな風にベートーヴェンに関わって行くかと考えた時に、やはり彼が『第九』の後に書いた室内楽の世界を取り上げようと思いました」

そこで10月1日の第11回演奏会では、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の傑作のひとつである『大フーガ』(弦楽合奏版)を取り上げ、モーツァルトのピアノ協奏曲第9番(小林愛実が共演)、交響曲第36番『リンツ』と組み合わせるというプログラムが組まれた。さらに、来年の1月21日の第12回演奏会では、小山実稚恵をソリストに迎え、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第3番』と『弦楽四重奏曲第14番』(弦楽合奏版)が演奏されることになった。

矢部「ベートーヴェンの交響曲の連続演奏会を行ったことで、晴れオケのメンバーにも共通の考え方が生まれたと思うのですが、それは、ベートーヴェンという作曲家に関して、崇高過ぎて近寄りがたいイメージをこれまで持って来たかもしれないけれど、実際に作品を演奏してみると、その音楽の中にはもっと喜怒哀楽があり、歌もあり嘆きもあり、人間的な感情に満ちているという実感があると思います。それを忘れたくないし、さらに交響曲の後に書いた最後の弦楽四重奏曲の中にも、ベートーヴェンのそうした感情が溢れているということを知って欲しいという気持ちにもなったのです」

それを受けて、ウェールズ弦楽四重奏団のメンバーとしても活動している三原は、これまでの晴れオケの経験のなかで発見したベートーヴェンの音楽の魅力について、こう語る。

mihara hisao 2022.jpg

三原「実はこれまでの晴れオケの演奏会のなかで一度、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲をアンコールで取り上げたことがあります。それは最後の『第 16 番 』の緩徐楽章でした。そのリハーサルの時に、矢部さんはマーラーの交響曲第3番の第6楽章冒頭の楽譜を持っていらして、まずその部分を演奏してから、ベートーヴェンに取り組みました。マーラーはベートーヴェンの室内楽作品にも影響を受けていて、自分の交響曲の中にそれを引用したわけですが、そのリハーサルの経験により、ベートーヴェンからマーラーへの繋がりだけではなく、ベートーヴェンの未来の中にマーラーがあり、さらにその先にもつながって行く音楽の連なりようなものが強く感じられました。それがまさに今回、弦合奏で後期の弦楽四重奏曲を取り上げる醍醐味だと思いますし、お客様には"第九のあと"というだけではなく、未来へ続く響きをよりお感じ頂けるのではないかと思っています。」

矢部も続けてこう語る。

矢部「マーラーは複雑で、かなり多面的な交響曲を書いた人というイメージがありますが、実際にはベートーヴェンの室内楽、例えば弦楽四重奏曲『セリオーソ』の編曲をしたり、『第九』に関してもかなり研究を深めて、自分で編曲版を作ったりしていました。そうしたことはあまり意識されていないかもしれないのですが、実は重要なことだと思います。マーラーを通して、ベートーヴェンの世界を振り返るのも興味深いことです」

さて、第12回の演奏会では、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第3番』で小山実稚恵が共演する。これまでに『ピアノ協奏曲第4番』を晴れオケと共演しており、その時も素晴らしい演奏だった。矢部が共演への期待を語る。

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矢部「小山さんとの第4番は本当に素晴らしい体験でした。そこでもう一度、ベートーヴェンを共演したいと思っていたので、今回オファーをしました。彼女の音楽に対する姿勢はとても真摯なもので、例えば協奏曲を共演する場合でも、リハーサルのだいぶ前から、細かな点について質問が来たり、解釈について相談されたりするのです。だから、リハーサルの初日からかなり高いレベルでの演奏が可能になります。小山さんとは室内楽を共演した経験も多いので、それもお互いの音楽性を理解するのに役立っています。実際の演奏の時にもとても反応が素早くて、こちらの動きを感じて演奏してくれることがよくわかります。ご自分の解釈もしっかりと持ちながら、一緒に音楽を作り出し、常に新しい自分を求めているとも感じますが、それが晴れオケの精神と同じだと思います。だからとても共演が楽しみなのです」

晴れオケにとってベートーヴェンの作品はとても重要な位置を占めると思うが、実は2027年、つまり5年後にはベートーヴェンの没後200年という大きな節目の年がやって来る。そこに向けて、様々なオーケストラ、ソリスト、室内楽のグループがすでに動き始めているのだが、果たして晴れオケはどうするのだろう? と、つい先走って考えてしまう。

矢部「もちろん色々と考えています。まだ発表段階ではありませんが、これからもベートーヴェンは演奏の中心として考えて行きたいと思います。まだまだ発見することもあると思うし、オケのメンバーもみんな同じ気持ちだと思いますので、期待していてください」

今後も晴れオケの活動に目が離せない、そんな素敵な時間が続く。まずは第11、12回の演奏会にぜひ出かけて、ライブで彼らの演奏を体験して欲しい。