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アーティスト・インタビュー

クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)

雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第28回
クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)

 平日お昼のリサイタル《雄大と行く 昼の音楽さんぽ》、ありがたくもご好評をいただいて7年もの長きにわたって続けさせていただきましたが、いよいよファイナル。12月8日の第28回、お迎えしてきた素晴らしい出演者の最後を飾るのは、日本を代表する弦楽四重奏団、クァルテット・エクセルシオの皆さんです。

 1994年結成、世界の難関コンクールで最高位を受賞するなど内外で高く評価されたこのアンサンブルは、年間に60公演をおこなう(日本では数少ない)常設の弦楽四重奏団。つねに瑞々しい好奇心と、常設ならではの驚くべき安定高水準の表現で多くのファンをつかみ、古典から現代曲まで、弦楽四重奏のあらゆる可能性を魅せてきた凄腕クァルテットです。

 ――この4人を《昼さんぽ》にお迎えするならば、ぜひ〈弦楽四重奏〉という(愉しくも、奥の深い!)このジャンルを、初めてのかたにもすっと入りやすく、既に大好きなかたでも改めてぐっと掘り下げて感じていただくプログラムを‥‥と、他とはひと味違うバラエティに富んだ選曲をしていただきました。
 さて、どんなコンサートになるのか‥‥クァルテットの皆さんにお話を伺いました。

[聞き手/構成:山野雄大(音楽ライター)]

クァルテット・エクセルシオ(弦楽四重奏)

◆《八木節》からベートーヴェンへ!――盛り上がりきるプログラム

今回は、ちょっと普通の弦楽四重奏コンサートでは聴けないような、バラエティに富んだ選曲をしていただいて、初めてのかたも聴きなじみ深いかたも、どちらもご満足いただけるコンサートになるかと、楽しみにしています。〈弦楽四重奏の魅力を、60分で縦横無尽に楽しんでいただけるコンサート〉とでも申しましょうか。まずは、選曲のねらいなど、お伺いできればと思います。

北見春菜(第2ヴァイオリン):今回は私がMCをさせていただくということもあって、プログラムも私が考えさせていただいたのですが、〈初めて弦楽四重奏を聴かれるかた〉でも楽しんでいただけるコンサートにしたい、というコンセプトがまずありました。
 1曲1曲もそんなに長くなくて、いろんな作曲家のいろんな作品に触れていただく機会になればいいな、という思いで選ばせていただきました。

それぞれの曲について、演奏順にお伺いしてもいいのですが‥‥そうではなく、コンサートの最後に据えていただきましたベートーヴェンの名曲についてから、お話をきかせてください。
 弦楽四重奏曲 第9番ハ長調 作品59-3‥‥これには《ラズモフスキー第3番》というニックネームがついておりますが、この傑作のフィナーレ、第4楽章をコンサートの最後に演奏していただきます。
 たいへんスリリングな面白さをもった音楽で、クァルテットの表現力を如実に、そしてストレートに感じさせてくれる曲だと思いますが‥‥

北見:今回このコンサートの機会をいただいたときに、やはりベートーヴェンは演奏したいな、という思いがありました。
 ベートーヴェンの中でも聴きやすい作品となると、この《ラズモフスキー第3番》の第4楽章だと、初めて聴かれるかたにもすんなり聴きやすい作品かな、と思いました。
 本来なら他の楽章、あるいは全部の楽章をお聴きいただきたい‥‥とも思うのですが、時間に限りもございますので、この第4楽章だけの抜粋とさせていただきます。

プレイヤーの皆さんにとっても、演奏するのに大変なところも多い曲ではないかと想像するのですが。

西野ゆか(第1ヴァイオリン):うーん‥‥?

そうでもないですか(笑)

西野:いやいやいやいや!(笑)これは、今まで何回演奏してきたか‥‥100回は言いすぎかも知れませんけど、とにかくたくさん演奏してきました。その時代によって感じかたも違うんですけど、ヴィオラから始まり、セカンド[=第2ヴァイオリン]、チェロ、ときて、最後にファースト[=第1ヴァイオリン]!と来るときの、身体と心の準備といいますか、この何十年、何度演ってもうっすら汗をかくという曲です。
 前の楽章からの流れもありますから、テンポ設定など、何回演っても同じことにはならないんです。「今日は落ち着いてるな」とか、「ヴィオラが入る時には落ち着いてたのに、チェロで爆走してきた!」とか(笑)。
 でもやはり、第1楽章からずっと弾いてきて、ここで「終わりだ!」という雰囲気でとにかく盛り上がれればいいかな、という音楽。もちろんアンサンブルの緻密な難しさなど、気をつかうところはありますけれども、それよりも〈最後としての華やかさ〉ですよね。

最初にプログラミングをお伺いしたときに、「《八木節》のあとに《ラズモフスキー第3番》か!」と取り合わせにびっくりしたんですが、ありですよね(笑)。

吉田有紀子(ヴィオラ):第3楽章からの流れで弾くのではない、というのはふだんと違う緊張感が出るのかな、と思いますが、そのぶん、そこまで演奏してきた盛り上がりで、この第4楽章も良いスタートを切れればと(笑)。

大友肇(チェロ):我々はずっとベートーヴェンに取り組んでいて、活動を続けることと、ベートーヴェンを弾くことはほとんど同じ意味になっています。それで「最後はベートーヴェン」という思いが割と強いんです。初めてのかたに血圧を上げていただいて(笑)、その日一日元気に過ごしていただきたいなと。ベートーヴェンって面白いんだな!というのを感じていただきたいですね。

◆ベートーヴェンの弦楽四重奏曲、奏者の立場から20210314(C)OkuboMichiharu_OR27135.JPG

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で、チェロの使いかたなど、彼ならではの特別なところを感じられることはありますか?

大友:先日もハイドン、モーツァルトと弾いて最後にベートーヴェンの《ラズモフスキー第3番》というプログラムを弾いたんですが、全体の中での低音のありかた、チェロのありかたをベートーヴェンが良く引き出しているというのは、やはり感じます。凄く演り甲斐を感じながら弾けますね。
 いろんな作曲家のチェロ・ソナタを弾くと〈妙に高音を使いたがる作曲家〉というのがいるんですよ(笑)。もちろんそれもいいんですけど、ブラームスやベートーヴェンは低音をすごく上手く使うので、やっぱり凄いなぁと思います。ピアノと一緒に演ると埋もれがちな低音域を生かした、チェロの魅力をやはり良くご存知という感じがある。

ベートーヴェンは室内楽においても、チェロという楽器の重要性を高めた作曲家ですね。そのあたりも、コンサートに最後にあらためて魅せつけられるのではないかと思います。
 また、弦楽四重奏の楽しみがいろいろあるなかで、ヴィオラのような〈内声の魅力〉もまたたまらないものがあります。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で、ヴィオラの使いかたなど、特別に感じられることはありますか?

吉田:やはりベートーヴェンになると、ヴィオラの内声としての役割が、ハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏と比べても、割と同等に扱われるようになってきますね。ですから、ヴィオラにもある程度の積極性が必要になってくると思うところもあります。
 そしてやはり、ベートーヴェンのハーモニーの美しさ‥‥4声のバランスのなかで、ヴィオラがけっこう大事な音を持っていたりすることも多いので、そういうハーモニーの作りかたを、他の作曲家に比べても意識しているところはあります。

さらに、〈弦楽四重奏〉でふたり並ぶヴァイオリンのうち、第2ヴァイオリンという存在がつくりだす深さ、というのも魅力的ですし、そのあたりもコンサートを通して感じていただけるのではないかと思います。

北見:いま吉田さんも仰ったように、ベートーヴェンはハーモニーが美しいので、それをいかに美しく作るか‥‥特に《ラズモフスキー第3番》は技術的にも難しい部分がありますが、音楽を運ぶうえで重要な部分はセカンド・ヴァイオリンがキーになっているところもありますので、注目して聴いてもらえたら嬉しいな、と思います。

◆クァルテットの変化、それぞれの人生

クァルテット・エクセルシオの皆さんは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を継続的に録音もされています。
 第16番まであるベートーヴェンのクァルテットのなかで、まだエクセルシオによるCDが発売されていないのは、第13番と、独立した曲として知られる《大フーガ》。このふたつを残すのみですね[2021年10月現在]。

大友:録音は昨年終わっていますので、鋭意編集中です。

完結篇を聴ける日をファンの皆さまも心待ちにしていると思います。
 今回のコンサートで演奏していただく《ラズモフスキー第3番》は2014年の暮れに録音されていますが、あれから月日を重ねまして、クァルテットもメンバーの交代を経て[2019年5月から北見春菜さんが第2ヴァイオリン奏者の後任として入団]、エクセルシオが積み重ねてきた表現の変化も、また新たな局面に入ったところもあるかと思います。

北見:私もエクのメンバーになるまではファンの一人として聴かせていただいていましたが、クァルテットに対する情熱や、様々な作品に意欲的に取り組む姿が本当に素晴らしくて、演奏会に伺うたびに感動しておりました!
私ももっと器を広く、柔軟に、そしてもっと自由になれたらいいな、と思っています。

吉田さんが今のお話を優しく微笑みながら聴いていらっしゃるのが目にとまったのですが(笑)、吉田さんからご覧になって、北見さんが加わられてからの変化、など何か感じられることはありますか?

吉田:北見さんは凄く真面目で、一生懸命取り組んでくれています。内声の音の重なり具合も変化して来ていると思います。もっともっと! という部分もたくさんあるんですけど、それは経験を積みながらという部分が多いと思いますし、〈一緒に作っていく愉しさ〉というところで新鮮な気持ちを感じられる、というのは大きいですね。

新たな仲間と共にこうして、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲録音もフィナーレに近づいているわけですが、ずっとCDに残してきた歩みを振り返って、どういう思いを抱かれているのでしょうか。

西野:すごく個人的な話になりますけれども、私は1年間休養していた期間があるんです。その直前に録音したのが《ラズモフスキー》全曲[=第7~9番/2014年12月録音]だったんです。
 あの時は手が大変な状況にあったので、休養するということはどこかで決めていたので、自分にできる限りの力を尽くして、精神のすべてをそこに集中させて録音したんです。
 ベートーヴェンの全曲録音が始まってから、昨年最後の録音を終えるまで、聴いてるかたには分からないところで、自分としてはいろいろな経験と思いがありました。メンバーチェンジもありましたし。ベートーヴェンを演奏する、ということに対する意気込みはもちろんずっと変わらないんですけれども、その裏に、エクのそれぞれの人生もくっついているな、という思いがあります。
 人生に山も谷もありますが、それって続けていないと経験できないことで、今こうして復帰して演奏活動を続けられていることも、とても感慨深いですし、ベートーヴェンを全部録音できてよかったな‥‥と思っています。

◆ベートーヴェン、初期も中期も後期も

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲には、彼が苦難の生涯を通して追究したこと、がそれぞれとても強く反映されていると思います。それを全曲レコーディングしてゆくということも、弦楽四重奏団の皆さんにとって、他とは異なる強い思い入れもあろうかと想像いたします。
 ところで、メンバーの皆さんそれぞれ、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で特に好みがあったり、一致したり、といったことはあるのでしょうか?

吉田:それぞれ好きな曲は違うかも知れませんけれど、ベートーヴェンの作品って弾けば弾くほど〈もっともっと弾きたい!〉という思いが出てくるので、〈その時に演奏している曲〉がいいなと感じることが多いです。
 個人的には、初期・中期・後期という分けかたを仮にするならば、後期の集大成的な重みを、最近になってようやく、前よりは分かってきた‥‥というか、〈こういう風に弾けたらな〉という思いが、強くなってきました。

ちなみに北見さん、初めて弾いたベートーヴェンの弦楽四重奏曲って何でしたか?

北見:エクのメンバーになって初めて演奏したのは第1番でした。その後は、いきなり後期の作品131に取り組むことになりまして...(笑)。後期、中期、初期の作品に戻っていったということもあり、私の中では後期の作品の印象が強いんです。普通ではあまり考えられないような経験でしたが、それは良かったとプラスに捉えています。
 ベートーヴェン・ツィクルス[全曲演奏]も演らせていただいて、ベートーヴェンの全体像もやっと見えたかな、という感じではありますが、吉田さんも仰っていたように、ベートーヴェンは弾くたびに新鮮というか、新たな発見があるので、初期も中期も後期も、どの作品も本当に魅力的です。

今回のコンサートで初めてお聴きのかたも、もし興味をお持ちになったら、ぜひ他の作品も少しずつ聴いていただければいいな、と願っています。どこから入っても、何かしら〈え? 面白い!〉というポイントがあると思いますし、そこからだんだん視界がひらけてくると、自分なりの楽しみかたも自然に生まれてくる、魅力的な作品が揃ってますし‥‥本当に奥が深くて愉しいですね。

◆《日本民謡集》のこだわりと自然さ

レコーディングといえば、今回のコンサートではベートーヴェンの前に、幸松肇さん[弦楽四重奏に関する著書も多数]による《弦楽四重奏のための日本民謡》から、《茶っ切節》《五木の子守歌》《八木節》を演奏していただきます。
 クァルテット・エクセルシオの皆さんは、幸松さんの編曲された《弦楽四重奏のための日本民謡集》第1集から第4集まで、まとめてレコーディングされています[2019年10月録音/ナミ・レコード]。

大友:編曲の幸松肇さんとは、ずいぶん長くおつきあいさせていただいて、いったいいつからなのか‥‥(笑)。この《日本民謡集》も、最初は第1集と第2集、《八木節》とか《ソーラン節》とか4曲ずつの全8曲だったんです。
 この編曲が素晴らしくて、ことあるごとに取り上げてきたんですが、地方で演奏するという話をすると幸松さんが、じゃあその地方の民謡で書こう、と新しいのを書いてくださって(笑)。そういうのが増えていきまして、全4集・全16曲になりました。
 行く先々に合わせて自動的に素晴らしい曲を下さる、というおつきあいをすることもなかなかない話で(笑)。
 幸松さんにリハーサルに立ち会っていただくと、楽譜に書ききれないところまで、民謡1曲1曲に対しても独自の深いこだわりをお持ちなんです。我々も、それぞれ1曲ずつ子供の頃から聴いてきた曲ばかりではないですから、幸松さんの思いを伺うにつれて、こちらにも思い入れが出来てきます。
 この素晴らしい曲をぜひ聴いてほしい、と思ってCDに録音したんですが、エクと幸松さん、5人の共同作業から生まれた作品集ですね。

日本に住んでいらっしゃるかたなら、多くのかたが聴くと「ああ」と思われる、というレパートリーがどんどん増えてきた、という点でも素敵だと思います。
 この《日本民謡集》では、もちろん西洋のクラシック音楽とは異なる独特の歌いかた、などが要求されますし、我々とて民謡を歌って育ったというわけでもないところがありますから、そういう意味での演奏の難しさや面白さ、もあろうかと。

西野:第1集・第2集までは、耳にしたことのある曲がほとんどだったので、自分にとっては思ったまま迷いなく、自然にこう弾きたいというものが出てきたんですけれども、第3集・第4集になると、全然知らない曲もあって、原曲を聴いてみても〈これ、西洋の楽器でどうやって表現したらいいのかな‥‥〉と迷うものもありました。
 でも、何回か弾いているうちに、〈自由に弾けばいいのかな?〉と思うようになった(一同笑)。理屈で考えると難しい。これは全体的にとらえたときに〈歌〉なので、自由に歌おう、と私なりに思いました。
 テンポなどは原曲から離れないようにしましたけれど、細かいところは、そのときに思った〈血〉で弾くのが、私にとっては自然なのかな、と思ったんです。

QuartetExcelsior_blue.jpg◆チャイコフスキー、あたたかさと人間味と‥‥

今回のコンサートで演奏していただく、チャイコフスキーの〈アンダンテ・カンタービレ〉[弦楽四重奏曲第1番ニ長調 作品11より 第2楽章]も、作曲家が田舎でふと聴いた民謡をもとにしている、という話がありますから、幸松さんの《日本民謡集》とも、人々に根付いた歌、という点で繫がるわけですね。
 チャイコフスキーは、ロシア人作曲家としての特質といいますか、やはり独特の〈歌〉の感覚があると思いますが、いかがでしょうか。

吉田:チャイコフスキーの作品って、個人的には〈日本人が凄く好むメロディ〉といいますか、日本寄りの何かを感じるんです。〈アンダンテ・カンタービレ〉もそうですけど、どこか懐かしい感じ、親しみやすい感じがあるのではないかと思いますね。
 個人的には、チャイコフスキーの弦楽四重奏の作品では、ヴィオラにけっこうシンコペーションがあったり、それもチャイコフスキー的なものなのかも知れませんが、そういうリズム感を上手く活かさないと、なんだか全然違う方向に行ってしまいそうな感じもしています。
 同じチャイコフスキーで、《フィレンツェの思い出》という弦楽六重奏曲[作品70]などドラマティックな作品もありますし、個人的には彼の作品は大好きなんですが、〈アンダンテ・カンタービレ〉も、素朴ななかにとてもあったかさのある作品ですね。

大友:チャイコフスキーの音楽は、ベートーヴェンと比べてみても面白いかも知れませんが、低弦の役割もどっか行ってしまって(笑)気持ちが流されていくというか。ベースの力強さというよりは、もっと人間的な弱さなど、人間味が出てくる気がしますよね。

なるほど(笑)。

◆モーツァルトの作品で各パートの役割を分解してご紹介!

今回のプログラムでは、最初に演奏していただくモーツァルトの2曲‥‥《フィガロの結婚》序曲に、《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》から第1楽章と、どちらも、どなたもメロディを耳にされたことがあるのでは、という作品ですね。

北見:モーツァルトなら聴いたことがある、というかたもいらっしゃるでしょうし、もし聴いたことがないかたでも、とても聴きやすい音楽ですね。
 コンサートの最初は《フィガロの結婚》序曲で始めるんですけれども、〈なにかが始まるわくわく感〉とかを感じていただいて、コンサートへの心の準備をして貰えたら、と思っています。

まさに序曲の本領発揮、と。

北見:2曲目の《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》第1楽章は、弾く前に各パートがそれぞれどのようなことを演奏してるのか、ご紹介をしたいと思っています。
 たとえば最初にチェロだけで演奏して、次にヴィオラ‥‥と一人ずつ演奏する人を加えたりしながら、クァルテットのそれぞれのパートが、どのような役割を持っているのかも知っていただけたらと思います。
 その上であらためて聴いていただいて、よりクァルテットに興味を持っていただけるきっかけにもなりましたら嬉しいです。

クァルテットを分解してご紹介していただける、というのは初めてのかたにもとても面白いと思いますし、逆に弦楽四重奏をたくさんお聴きのかたにとっては、エクセルシオでそれを聴けるのか、という貴重な機会を楽しみにされるのではないかと思います。

◆楽しいなかに、いろいろな秘密が‥‥

楽器の役割をご紹介していただけるのも面白いですし、グレインジャー《岸辺のモリー》のような、やはりとても親しみやすくて、しかし質朴な美しさのたまらない作品もあります。
 また今回は、ヨハン・シュトラウス2世と弟のヨーゼフ・シュトラウスによる共作《ピツィカート・ポルカ》も取り上げていただきますね。この曲で、弦楽器の表現の楽しさ、というものもあらためて身近に感じていただけるのではないかと思います。
 弦を弓で弾くのではなくて、弦を指ではじいて音を出す〈ピツィカート〉という奏法を、愉快に生かしきった楽しいポルカ[舞曲の一種]です。

北見:時間があればもっといろいろな奏法もご紹介できればいいのですが、今回はこの曲を通して、奏法や弾き方の違いを知っていただければいいな、と思っています。

ヴォルフ《イタリア風セレナード》は、聴いてるほうはとても楽しいんですが‥‥

大友:演奏する側は大変な曲ですね(笑)。

西野:何度も弾いたことがあるので、アンサンブル的な問題はあまりないんですけれども、小品として面白く聴かせるのが大変なんです。

大友:チェロ・パートも、なんかチェロっぽくないんですよね。立ち位置が掴めないと、なんかぐらぐらしたまま行っちゃうみたいなところもあるし(笑)。

西野:リズム感も楽しいし和声も斬新。そのあたりも含めて、どう面白く聴かせるかがとても重要です。

そのあたりの〈楽しいけれど、実はエグい〉というあたりも、お楽しみいただけるのではないかと思います(笑)。
 こういうプログラムを組んでいただくと、弦楽四重奏を初めて聴かれるかたも、既にお好きなかたにも、あらためていろいろな発見がある時間になるのではないかな‥‥と楽しみにしております。

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◆これから演ってみたいもの――挑戦への意欲は尽きず!

クァルテット・エクセルシオは、定期演奏会も含めて、幅広いレパートリーを取り上げていらっしゃいますから、今回のコンサートで初めてお聴きになって楽しんでいただいたら、ぜひ他のコンサートにもいらしていただいて、音楽さんぽの続きをどんどんお続けいただければ‥‥と願ってもいます。
 ところで、エクセルシオとして今後、こんなレパートリーを弾いてみようか、と考えていらっしゃるものは、なにかありますか?

吉田:いまショスタコーヴィチの全曲演奏も始めているんですけれども[《ラボ・エクセルシオ ショスタコーヴィチ・シリーズ》]、結成年数が長いわりにハイドンで演り残している作品も多いので、もっと取り組んでいきたいな、という思いもあります。
 演奏会ももちろんですけれども、ベートーヴェンのCDが全部出たら、新たな次のCDにも取り組みたいな、と思っています。

いつでもお待ちしております。

西野:定期演奏会をずっと続けてきて、〈絶対にベートーヴェンを入れる〉という路線は、聴いてくださっている皆さんもうすうす感じていらっしゃると思いますが(笑)たぶん変わらないと思いますし、その代わりに、同じ作曲家の作品をまとめて演奏する機会があったら、どんどん挑戦していきたいですね。
 バルトークなども、以前はもうちょっと弾いていた機会があったんですが、最近はそんなに演っていないんですよね。自分たちで好んで演奏してきた作曲家なので、弾けるうちに(笑)演っておかなければいけないな、と思っています。ハイドンもツィクルスやりたいですね。

ハイドンも、バルトーク全曲も、録音も含めてぜひ‥‥と聴き手が言うのは楽なんですが(笑)ぜひお願いしたいと思います。

北見:私はまだバルトークはあまり取り組めていないのですが、モーツァルトやハイドンも含め、是非録音も積極的にできればと思っています。

バルトークに関しては、今年11月の定期演奏会で第4番を弾かれますので[京都2021年10月23日、札幌11月2日、東京11月5日]、そちらも楽しみにしつつ‥‥。
 個人的には、ヴィラ=ロボス[1887~1959/ブラジルの作曲家]やヒナステラ[1916~83/アルゼンチンの作曲家]など、南米の作曲家の弦楽四重奏曲も大好きなので、ぜひたくさん聴ける機会があればと願っております。

大友:ヴィラ=ロボスやヒナステラはずいぶん前に演ったきり出来ていないんですが、また演りたいとは思っていますね。シューベルトやドヴォルザークも、弦楽四重奏曲がたくさんあるのになかなか演れていないんですが‥‥。
最近、フィリップ・グラス[1937~/アメリカの現代作曲家]の弦楽四重奏曲を演りまして。

先日も弦楽四重奏曲第3番《ミシマ》[1985年]を演奏されましたね。

大友:そうです[2021年8月、草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルでショスタコーヴィチの第3番、ベートーヴェンの第9番と共に演奏]。たまに1曲だけ演るということはあるんですが、遠くないうちにグラス・ツィクルスをやってみたいというのを思ってるんです。ああいう音楽にその日いち日どっぷり浸かってみるとどうなってしまうのか、というのを体験してみたいし(笑)いろんな人にも体験してほしいと思ってるんです(一同笑)。

いいですねぇ‥‥

大友:あと、リーム[1952~/ドイツの現代作曲家]の《狂ってゆくレンツ》という作品を弾かせてもらったことがありまして。

観ました。素晴らしかったです[1999年3月、東京室内歌劇場公演/若杉弘指揮、実相寺昭雄演出]。

大友:凄く面白い音楽なんですよね。あれからリームって面白いなと思って。彼も弦楽四重奏曲をいっぱい書いているので、いつか演ってみたいと思っている作曲家のひとりです。
 あとは、安部幸明[1911~2006/15曲の弦楽四重奏曲を残した]を演ってくれ、という声をけっこういただくので、演ってみたいとも思っています。

みなさんクァルテット・エクセルシオの活躍に期待も尽きないというところですが、このへんのお話は果てしなく続きますので、本日はこのあたりで‥‥皆さま豊かなお話を誠にありがとうございました。

[2021年9月、リモートにて収録]

【付 記】

 クァルテット・エクセルシオの皆さんにお話を伺いました。

 《雄大と行く 昼の音楽さんぽ》シリーズには、若き俊英から大ヴェテランまで、素晴らしい音楽家の皆さまにご出演いただき、どの回も思い出深い素敵な時間になりましたが、ファイナルに(個人的にも長く聴き続け、敬愛深い)エクセルシオの皆さんをお迎えすることができて、とても嬉しく思っています。

 実は、シリーズで弦楽四重奏をお迎えするのは初めてです。

 弦楽四重奏、というジャンル----この広くて深くて、楽しくもあり噛みごたえもあり、豊かな森のようなジャンルを、ぜひもっと多くのかたに‥‥という思いは、わたくしの中にあるのはもちろん、この《雄大と行く 昼の音楽さんぽ》シリーズを展開してきたトリトン・アーツ・ネットワークが、創設以来このかた、大切な柱として持ち続けてきたものでもあります。

 第一生命ホールは、弦楽四重奏ファンにとっては大切な場所でありつづけてきましたし、今後もそうでしょう。そして、この美しい木のホールで皆さんと歩み続けてきた《昼の音楽さんぽ》シリーズが、ファイナルを弦楽四重奏で飾るのも、また自然な流れかな‥‥とも感じています。

 しかも、スタート当初から「いつかは‥‥」と願っていたエクセルシオ。ありがたい、のひとことに尽きます。

 出演をご快諾いただいたクァルテット・エクセルシオの皆さんに感謝申し上げますとともに、これまで7年間のシリーズにご出演いただいた全ての音楽家の皆さん、ご尽力くださった皆さん、そして全てのお客様に、あらためて深く御礼を申し上げます。感謝、しかございません。

 お客様おひとりおひとりが、豊かな音楽さんぽをお続けになる、その途中でわたくしたちのシリーズが良き機会となっていれば‥‥と願いつつ、また別のいろいろな機会に、音楽の深い森へ、楽しいご案内をできればと思っております。

 なにはともあれ、12月のファイナル、厳しいご時世ではございますが、足をお運びいただくお客様には、変わらず楽しい時間を味わっていただけること、自信をもってお迎えしたいと思います!

 ひきつづき、どうぞくれぐれもご自愛くださいますよう。

 [山野記]