活動動画 公開中!

トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
Menu

アーティスト・インタビュー

池松宏(コントラバス)

池松宏(コントラバス)

池松宏(コントラバス)インタビュー

トリトン晴れた海のオーケストラ(晴れオケ)の首席コントラバス奏者として、「第九」公演を前に、「オーケストラの中で一番おいしい」というコントラバスの、音1つにかける想いを語ってくださった池松宏さん。
引き続き、「第九」の翌週12月4日に出演する「小山実稚恵の室内楽」シューベルト「ます」についても、「世界で一番鱒を知る演奏家(!)」として、音を出す前にイメージを明確にすることの大切さなど、たっぷりと伺いました。
[聞き手/文:田中玲子(トリトン・アーツ・ネットワーク)]

◎トリトン晴れた海のオーケストラ 「第九」についてのインタビューはこちら

「小山実稚恵の室内楽」シューベルト「ます」について

晴れオケ「第九」の翌週は、「小山実稚恵の室内楽」でシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」をお願いしています。小山実稚恵さんが、以前一度だけ池松さんと「ます」を演奏された時のことを、「一音一音に魂がこもっていてすばらしかった」とおっしゃっていましたが、先ほどの池松さんの、コントラバスは「一日十五日」の楽器、というお話につながっているように思いました。

池松:音の数は、ピアノ100個に対してコントラバス1個と圧倒的に少ないので、この1個の音に対して100倍考えますよね。最初に出てくるパン・パン・パン・パンという何でもないように聞こえるピッツィカートも、どういう風に弾こうかなとか、意外と難しいんです。すべての音に、こういう風に弾きたいというイメージはありますね。
若い頃にスイスの弦楽トリオと一緒に「ます」を演奏した時に、すべての音に対して「なんでそうやって弾くの?」といちゃもんをつけられたことがあるんですよ(笑)。腹が立ちましたが、冷静に考えたら、「そんなに聴いてるわけ?」と感心しましたね。ヴァイオリンやヴィオラなど他の楽器の人が、これだけコントラバスの音を聴いて、その音に対してイメージがある。「あ、これは(一緒に弾く)コントラバスの人はうまくなるわ」と思いました。今では当時言われたことがよく分かる気がします。自分の弾き方もずいぶん変わりました。

理想の音を出す弾き方とは、どういうものなのでしょう。こういう音がほしいと思うとその音になるということなのでしょうか。

6_Ikematsu_photo.jpg池松:それが95%だと思います。音に対するイメージが95%で、残りの5%は練習ですね。ひたすら、ピッツィカートを一発、ボン、これは違う、これも違う、違う。違うと思うのが大切。思わなかったら絶対練習しないので。そのイメージがどれだけ明確にあるか、ですね。

生徒にはよく「ここ、どういう感じ?」と聞くんです。例えば、「海のよう」と言っても、相模湾と東京湾でも違うし、海外に行ったら全然違って、例えば「ニュージーランドのウェリントンで9月何日の朝5時に見た海」と言えば、ただ「海」より明確なイメージがある。だから「遊べ」と生徒にもよく言うんです。イメージは、実際に見たものでないとわかないじゃないですか。そして言葉を知らないと説明できない。例えば、「蕭々と雨が降る」は「蕭々と」を知らなければ分からない、まあ色々な経験をして、遊んで、恋をして、その感性を鍛える、感情の襞をいっぱい作る、そういうところを大事にしているので、僕はよく遊ぶんです。生徒にも「そんなに練習しないでもっと外に出て遊べ」とよく言います。

自然を知っていると知らないでも、音楽を演奏する上で違う気がしますね。

池松:絶対そうです。だって、作曲家が書くことって、恋愛か自然かしかない。オペラでも不倫だなんだとやはり恋愛ですし、ベートーヴェンのように田園を歩いてどうのこうのとか、ブルックナーの森とか。自然を知らなくて、恋愛を知らなかったら、絶対いい音楽はできないと思います。まず音と音楽にどういうイメージがあって、それを体現するためにさらう(練習する)。単に弾ける、弾けないだけで練習しても、まったく音楽にならない。

10_Ikematsu_photo.jpg

池松さんはプロフィールにも「ニュージーランド・フライフィッシング全国大会ペアー部門優勝」とあるほど(笑)、釣りを始め自然に親しまれていますが、鱒(ます)は釣られるのでしょうか。

池松:鱒系が専門です。イワナ、ヤマメ、ニジマスあたりです。だから世界で一番「鱒」のことを知っているコントラバス弾きが「ます」を弾きます(笑)。

鱒のイメージも明確ですね。

9_Ikematsu_photo.jpg

池松:シューベルトが思っていた鱒が、何マスかというのは諸説あるのですが、普通のニジマスではないんですね。おそらくこれだろうという鱒は、あまり日本にはいない種類なのですが。基本的にはマス系は、多摩川の中流域のようなところにはいないんですよ。いわゆる渓流ですね。ですから、最初のメロディを、川の中流域のような感じで歌ってしまって弾く人が多いのですが、もうちょっとこう、静謐な感じ。シューベルトが思い描いていたのはこの辺だろうという場所はあって、そこに行ったことはないのですが、もう少しピュアで、水が透き通っていて......というイメージです。鱒は基本的には、水がきれいで標高が高い、高原というイメージ。日本のいわゆる山岳渓流ではないです。マス科の中でも住む場所が違うんです。イワナは上、ニジマスはもっと下の方......。

なるほど、そこまでのイメージを持っての(笑)シューベルト「ます」を、楽しみにしています。ありがとうございました。

【おまけ】以下は池松宏さんが送ってくださったおまけ写真。写真の説明は、池松さんご自身によるものです。

7_Ikematsu_photo.jpg8_Ikematsu_photo.jpg

11_Ikematsu_photo.jpg

13_Ikematsu_photo.jpg

14_Ikematsu_photo.jpg

15_Ikematsu_photo.jpg

16_Ikematsu_photo.jpg