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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

白井光子(メゾソプラノ)

白井光子&ハルトムート・ヘル
リート・デュオ
シューベルト & マーラー「告別」
【公演中止】

メゾソプラノ歌手の白井光子さんは、世界的な「ドイツリート」の権威であると同時に、“最少の室内楽”ともいえる「リートデュオ」の先駆者でもあります。ピアニストのハルトムート・ヘルさんとデュオを結成して47年。これまで第一生命ホールでは2回(2011、2017年)ご出演されました。3回目となる今回はドイツリートの創始者であるシューベルトの作品、そしてマーラーの大作「告別」を演奏されます。

[聞き手:長井進之介]

"いま" 歌いたい作品を

どちらの作曲家もドイツリートにおいて重要な作曲家ですが、時期としてはかなり離れていますね。なぜこの二人の作品を選ばれたのでしょうか。

白井:まず《告別》はどうしても演奏したい曲でした。なんといっても詩がすばらしい。そして詩とマーラーの音楽がぴたっと合っています。大曲なので時が経つと歌えなくなるかもしれないですし、今回歌うことに決めました。シューベルトについてですが、以前、一度だけシューベルトと《告別》を組み合わせて演奏したことがあり、ヘルと今回の選曲を相談したところ、あの時のシューベルトとマーラーの組み合わせはやはりよかったからそれでいこうか、ということになったのです。

「告別」はこれまでどれくらい歌われているのですか?

白井:ニューヨークやボストンで演奏したり、オーケストラと何回か演奏していますが、日本では、1999年の「津山国際総合音楽祭」(岡山)と、2004年に紀尾井ホールで行ったリサイタルでしか演奏していません。それ以来、長い間歌っていませんでした。ピアノパートも非常に音が多く、ものすごい世界観です。ヘルにとってもやりがいのある作品ですね。

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ドイツリートの歴史に深く刻み付けられているシューベルトとマーラーという存在

シューベルトもマーラーもドイツリートにおいて非常に重要な存在ですね。

白井:リートの歴史はシューベルトで始まっていますし、マーラーになるとずっと発展し、また違う世界に行っています。だからこそ、この組み合わせがいいかなと思いました。シューベルトは本当にすごい作曲家です。演奏すればするほどそう感じます。これは彼の周りにすばらしい詩人の友人たちがいたからでしょうね。

シューベルトは様々な楽曲を集めていらっしゃいますが、どうやって選ばれたのですか?

白井:何しろたくさんありますから、選ぶのはすごく大変です。楽譜を全部手元に置いて、毎日のように色々と見て、"これはいい"と思うのですが、次の日になると、"こっちの方がよかったかな"と...その繰り返しです。せっかく演奏するのだから、見逃したらもったいないので、しょっちゅう全部の楽譜をめくっています。ですから、以前《告別》と組み合わせて歌った時の選曲とは違うものになっています。

様々な時期のシューベルトの作品が並んでいますね。

白井:シューベルトが自分で作品をまとめて"Op(作品番号)"をつけたものが108あります。それらはどれも違う時期に作曲したもので、何年も経ってから自分でまとめたものです。ものすごく色々なことを考えて作品をまとめたはずです。そこには彼の意志がたくさんつまっていますから、尊重しないといけません。その意思を尊重して選曲したものを歌います。

シューベルトとマーラーは時代が違うので当然ではあるのですが、かなり音楽の性質が異っていますよね。

白井:音楽は音符そのものだけではなく、音と音の間がどうなっているかを考えることが大切です。そしてそこにこの二人の大きな違いがあらわれています。マーラーの場合は音と音の間が長いですが、シューベルトは比較的短い。音楽は立体的に捉えるだけでなく、さらに"時間"の概念を加え、"4次元"で捉えなくてはなりません。シューベルトとマーラーでは、その"時間"が大きく違っているのです。

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解釈は人生と同じく、絶えず歩み続けるもの

久しぶりに取り組まれる作品が多く並ぶようですが、やはり解釈などは変わってくるのでしょうか。

白井:人生を歩み続けているのですから、同じ曲をやるにしても、歌うたびに解釈は変わっていきます。人生を見ていく視点が変わりますからね。考え方にしても、"もう少しこう考えてみたほうがいいかしら"と常に変化していきます。ですから毎回作品に取り組むときはすべての要素をバラバラにして、改めて組み立てていきます。一つ一つの要素を丹念に見ていくことで、"こんなの見つけた! "という発見があるんです。新しい解釈で歌える、というのはとても嬉しいことなんですよ。

生まれ変わっても歌手になりたい

お話を伺っていると、白井さんが本当に歌を愛していることが伝わってきます。

白井:生まれ変わったらもう一回歌手になりたいです。歌ってみたい曲がまだまだたくさん、数えきれないほどありますから。今度は男性でもいいなぁ。男性でないと歌えない作品もたくさんありますからね。

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白井光子さんとハルトムート・ヘルさんのデュオは、作曲家と作品に対してどこまでも深い愛情を注ぎ、言葉と音楽の関係性を探求し続けています。だからこそ、聞き手に作品のもたらす感動が鮮やかに、深く伝わってくるのです。今回もおふたりが心から愛する作品を大切に選んでくださりました。プログラムだけを見ると、大曲も並んでいますから、お聞きになる方は「難しいかも? 」と思われるかもしれません。しかし、お二人の演奏は仮にドイツ語がよくわからなくても、演奏を聴いているだけでイメージが鮮やかに目の前に広がってきます。ドイツリートをお好きな方はもちろんですが、ぜひドイツリートの世界に足を踏み入れてみたい、という方にもお聞きいただきたいリサイタルです。