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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

赤坂智子

赤坂智子(ヴィオラ)

アマリリス弦楽四重奏団

ドイツを拠点に活動する若手正統派アマリリス弦楽四重奏団(以下、アマリリスQ)のヴィオラに、3年前赤坂智子さんが加入。9月に新メンバーで凱旋する第一生命ホール公演について、帰国中の赤坂さんに伺いました。

アマリリス弦楽四重奏団、7年ぶりの凱旋公演!! 室内楽の名手、赤坂智子をむかえて。

アマリリス弦楽四重奏団に入ったきっかけ

共通の友達から私の連絡先を聞いたらしく、ある時突然アマリリス弦楽四重奏団(以下アマリリスQ)から電話がかかってきました。弦楽四重奏団(クァルテット)をやりませんかという話は、ヴィオラ奏者には時々あるものですから、その時も「ヴィオラを探しているんだけど、1回遊びに来ない?」と言われて、よく分からないまま「うん」と言ったのです。どうやら当時のヴィオラ奏者のレナ・エッケルスが、私のことをミュンヘン国際コンクール(注:赤坂さんは第53回第3位入賞)で見て知っていたようです。私はドイツに住んではいましたが、当時はドイツ語もあまりしゃべれなかったし、「ふーん、おもしろそう」と。それで、いっしょに演奏してみたらいい人たちだし、何度か誘われて演奏して、あれよあれよという間にそのまま入ることになった感じです。さすがに1回でいきなり誰かに決めるのではなく、それまでに色々と10人くらい試していたようですが。


クァルテットへの想いAmaryllis06_(C)TobiasWirth.jpg

その前からクァルテットをやりたいという思いはあったのですか。

小さい頃に、クァルテットを組んでいたんです。小学6年生から始めて、中学、高校時代は、月に2-3回ぐらい、土曜日に集まっては弾いていました。私以外は、アマチュアのおじさん3人。一人は公認会計士、一人は今新国立劇場で働いている方で、もう一人は大学教授で、なぜか私だけずっと年下なのですが。

そんなに小さい頃からクァルテットで定期的に弾いていらしたのですね。その時もヴィオラを弾かれていたのですか。

チェロ以外の3人は持ち替えだったので、私もおじさんたちもヴァイオリンもヴィオラも弾きました。
アマチュアだから音程なんてあってないようなものなんですけど、でも音楽が大好きで、おやつのケーキを食べながら、昔の録音のすごいコレクションを聴いてあーだこーだと言っていましたね。

じゃあ、レパートリーはたくさんお持ちなのですね。

クァルテットのレパートリーは知っています。ただ、当時はヤナーチェクやベートーヴェンの「ラズモフスキー」などを弾いて崩壊して、音程も誰が正しいのか分からなくなって(笑)「じゃあ録音を聴いてみよう」「......」「私たち全員音程悪いよ」って(笑)。そういうクァルテットを組んでいたので、夢が大きく、耳が肥えすぎてしまって、自分で組むとなると勇気がなかったのです。だから、やるんだったら、既成のクァルテットに新しいメンバーとして呼んでもらうのが一番なんだろうなとは思っていました。厳しい世界だというのは分かっていたし、そんなに協調性があるタイプでもなかったので、自分から絶対にこの団体に行きたいというのではなくて、タイミングとしか言いようがない。たまたまそういう気分だったときに、ふっと話がきて、色々とすべてがピタリとあったという感じです。


Amaryllis05_(C)TobiasWirth.jpg新生アマリリス弦楽四重奏団

そんなきっかけでしたが、すごく感謝しています。アマリリスQのメンバーにならなければ、ドイツという国と今のように繋がらなかったと思います。会社として活動しているので、会社としてメールのやりとりをしますし、リハーサルの調整、税金のことなど全部4人で仕事を分け合うんですよ。

アマリリス弦楽四重奏団という会社なのですね。

そうです。マネージャーはいますが。例えばマネージメントとのやり取りはグスタフ(・フリーリングハウス、第1ヴァイオリン)とか、学校関係はレナ(・サンドゥ、第2ヴァイオリン)と分担がありまして、訳が分からない状態でその中に放り込まれました。それで、強制されることは全くなかったのですが、やりとりが全部ドイツ語なので、だんだん上達して難しい言葉がわかるようになってきました。グスタフは北ドイツ出身、レナは南ドイツ出身で、イヴ(・サンドゥ、チェロ)がスイス人なので、同じドイツ語でも言葉が全然違います。彼らは両親に大事に育てられた人だから、彼らの両親とつきあう機会も多くて、方言も覚えました。家族の中に放り込まれた感じです。全部がドイツ語、思考回路もシステムも全部ドイツ。私は昔、スイスに住んでいたことがあるのですが、フランス語圏だったので、メンタリティはフランスでした。そんな中で、アマリリスQとしていきなりマスタークラスもやらなくてはならなくなり、今考えると、ドイツ語も分からないのに相当大変だったと思います。あと、ノリもフランス語とドイツ語で違うのです。ドイツ語では「すなわち」とか「つまり」という言葉を好む傾向にあるのですが、私はそういう言葉は使わなかったので、感覚で分かるだろうと思ったら全然ダメでした。

やはりドイツは論理的なんですね。

私はそういう技量を持ち合わせてなかったので、なんだかアマリリスQに不思議な生物がやってきた、という感じになりました。でもすごくいい人たちで「こういう時はこう言うんだよ」と色々教えてくれました。

ドイツに住むようになって10年、アマリリスに入って3年ということで、すっかり鍛えられて慣れたということですね。

まあ世界のどこに行っても、私は異星人扱いなんですけどね。「でもまあ悪い人じゃないから」という理由で、そこに置いてもらっている感じがすごくある(笑)。

どうして新メンバーを赤坂さんに決めたのか、他の3人に聞いたことはありますか。

聞いたことはないです!!なんでだろう?最初の練習の時に演奏したのは、ラヴェルの弦楽四重奏曲とベルクの弦楽四重奏曲Op.3、それからベートーヴェンの弦楽四重奏曲のどれかでした。アマリリスQはワルター・レヴィンやアルバンベルク四重奏団などからガッチガチに教育を受けている正統派で。全然正統派じゃない感じの私が来ておもしろかったんじゃないかなと。「私だけが場違いだよね」と聞いたら「うん」だって(笑)。
以前にチェロのイヴと「このクァルテットは喧嘩をしないよね」という話をした時に言われたのですが、私はみんなの予想どおりには演奏しないらしく、「予想がつかないから、喧嘩にならないんじゃないか」と言われたことがありました。それが良かったのかなと思ったことはあります。

クァルテットは、団体によっては、演奏以外は口もきかない、移動も食事も別々、という話を聞いたことがありますが、アマリリスQは喧嘩はないのですね。

みんな穏やかだから派手な喧嘩はないですね。私が一人でキレている時はあって、バーンって怒って、みんなが「えー」となっていることはありますね。

どんなことで怒るのですか?

私は、「バランスが完璧」ということはありえるけど、「この演奏が完璧」ということはないと思っています。この弾き方をすれば絶対に間違いない、ということはなくて、その場で起こっていることに対して、完璧な反応だけが存在するという考えです。演奏中に何かが起こった時に、自動音声のような対応をされてもダメで、何か違うことが起きた時には、「いつもやっているように演奏するのではなくて、こうならないとダメなのに」と思います。「私がこうきたら、こうじゃない!」みたいな感じになったりして。

演奏家によって、ここだけは譲れない点が少しずつ違うことがあるのですね。

そう、綿密に創ってその通り演奏するタイプと......私は綿密とは程遠いので。それから私は何だか分かりにくいことを言うらしいんです。一方でグスタフはきちんと、「ここは音を短く」「弓は少なく」「ここはピアノで」と言ったらその通りの判断はできるのですが、抽象的なことを言われたりすると、「??」となるらしくて。私はとんでもないコメントが多いみたいで、「野菜を切っているみたいには、弾かないでくれ」と言ったら、「どういう意味だ?意味が分からない」と。イヴが、私の意を汲んでくれて、「智子、その言い方じゃ絶対に通じないから、たぶんね、そういう時は、『弓を長く』って言うんだよ」って(笑)。

(笑)新しいアマリリスQを聴くのがますます楽しみになりました。本当にまっすぐ真摯に創っていく以前のアマリリスQも好きでしたが、赤坂さんが入られて、今おもしろい化学反応が起きているのですね。

「そんなところで拍を数えるんじゃないー!!」と、私がボーンって怒ったりして。こんな私を受け入れてくれて、懐の深い人たちだと思います。ほかの団体にゲストで呼ばれて演奏することがありますが、団体によってはリハーサルの険悪な雰囲気はすごいですよ。楽譜をバーンッと投げたりする団体もあります。アマリリスQは、「ここはね......」って、みんなで縁側でお茶している感じで(笑)


アマリリス弦楽四重奏団としての活動Amaryllis03_(C)TobiasWirth.jpg

今、アマリリスQとして年間どのくらいコンサートがあるのでしょう。

シーズンによりますが、35回くらいでしょうか。北ドイツのリューベック、ハンブルク、ブレーメンの3都市で、「3×3」というシリーズを持っているので、年に3回4月と6月と11月にツアーがあります。お客様もいつも来る定期メンバーで。

素晴らしいですね。固定のお客様が年に必ず3回来てくださるなんて。

私は「良くやるな」と(笑)。「減らした方がいいんじゃない? 大変だよ?」と言っているのですが、彼らは好きみたいです。

ドイツのお客様はクァルテット好きの方が多いのでしょうか。

クァルテットを聴きにくる方は、クァルテットばかり聴きに来る感じ。ドイツでは音楽会に行くことが日常の延長にあって、日本より気楽に行く文化ですね。東京だと、満員電車に揺られて、聴きにいって、また満員電車で帰ってくるみたいな。ドイツではたいてい徒歩で行って帰ってこられます。

自分の街のコンサートのような?

そういう感じが多いです。クラシックのコンサートを聴いたことがなくても、なんとなく聴いてみたいと思っている人が来ることがありますね。リューベックのコンサートは結構若い人も多い印象です。

それは良いお話ですね。

もちろん平均年齢は高いですが、チケット代も学生に対してはそんなに高くないように設定してある。

私たちの公演も25歳以下は1,500円です。

いいですね。でも東京は自分の街だと思うには大きすぎる、というのはあるかもしれませんね。ドイツは昔、26の国に分かれていたからでしょうけど、本当にコンサートの場所が多く、小さな都市にも行きます。街ごとに裁判所や、政治に関わるものや、教会がある。音楽学校も多いし、やはり国が分かれていた名残でしょうね。

ドイツの街は色々と回られたのですか。

レナとイヴ夫妻の家に、ドイツの地図があって、行った都市にピンを刺していって、同じ都市に3回以上行くと赤いピンになるのですが、もう西ドイツはびっしりで、東ドイツはドレスデン、ライプツィヒ、かろうじてハレ辺りと圧倒的に少ないのです。

アマリリスの拠点は、前はケルンだったと思いますが、今はどこですか?

みんなケルンで勉強していたのですが、その後、グスタフはシュトゥットガルトに住みながら、自分のオーケストラを持っているハンブルグにも小さなアパートがある状態。レナとイヴ夫妻がケルンに残って、私はベルリンなんです。だから、リハーサルはその都度コンサートのある場所でやっています。今回も明後日ヨーロッパに帰るんですけど、その次の日にはスイスに飛んで、スイスでリハーサルを3日間やった後に、オーストリアのリンツに飛んでコンサート、その後ボンに飛んで......という感じです。

ヨーロッパ諸国での公演も多いのですね。

ドイツが多いのですが、ロンドンのウィグモアホールでは毎年弾いていますし、あとオーストリア、スイス、イタリアなど。クァルテットを演奏したいという人は増えてきているみたいですよね。エベーヌ弦楽四重奏団が出たからでしょうか。

聴く人も増えるとうれしいですね。弾く方は、この充実した弦楽四重奏の作品群を極めたいという想いはありますよね。

絶対に。すばらしい作品が次から次へとありますからね。


Amaryllis01_(C)TobiasWirth.jpg今回のプログラムについて

今回演奏する作品ですが、これは今年のレパートリーですか?

そうですね。今年は、チャイコフスキーをよく弾いています。このモーツァルトの「不協和音」は、私が入ってすぐに、レコーディングをした曲で......。

CD「イエロー」に収録されている曲ですね。

そうです。私は「イエロー」では「不協和音」しか弾いていないんです。私が入ってすぐに、きちんと仕上げた曲が、この作品です。

では、赤坂さんが入って、日本で初めて演奏するにふさわしい曲ですね。最初に演奏した時の印象は残っていますか?

やはりモーツァルトはすごいなと思いました。冒頭は不協和音でミステリアスで、モーツァルトのこの雰囲気は、創りあげるものではなくて、そこに発生させるものというか......。自由さとか、子どもの乱暴さのようなものもあるんですよね。でもそれは創るとダメなんです。創り上げるのではなくて、創り上げる際に「発生する」ものがあって。アマリリスQで最初に演奏した時、それがやりやすかったですね。「発生させる」のが上手なんだなと。それはなんだか素敵だなと思った印象がありますね。
そして、次のルトスワフスキですが、私以外の3人はもともと弾いていたらしいのですが、まず楽譜が40ページぐらいあるんですよ。

パート譜が40ページ!?

スコアが書いてある部分もあるんですが、もともとはパート譜しかなかったそうです。ルトスワフスキが、パート譜だけを書いて、ワルター・レヴィン(ラサール弦楽四重奏団)が、スコアも書かなきゃダメだと言ったそうです。

ふつうはスコアから書くのかと思っていました。

スコアが存在していなかったから無理やり書いた、というスコアが今はあります。でもパート譜に情報が全部入っているのです。私は最初に「やるよ」と言われて演奏した時は、もう必死でした。非常に変わっていますが、これからの主要なレパートリーになるだろうというくらい良い曲。ただ普通の感覚で、楽譜に忠実に弾いていればなんとか形になるという曲ではなく、耳を使わないといけない、即興性の高い曲なんですよ。彼のこの音が終わって、この音が出たら、これを弾き始める、といったことが多くて。だから、いい耳がないと絶対ダメです。

数えていて、ここで入る、ではないんですか?

最初は自分でそうやって練習してみたのですが、やれどもやれども弾けないし、何がどうなっているのは分からなかったんです。でもみんなと弾いてみると、ここの瞬間にチェロがボボンって動いて、こっちがブオンときたら、このセンテンスを弾き終えて、次に行くとか、または、この人がこれを弾いた瞬間にこっちに飛ぶというのがある。普通ではない楽譜の読み方をしなくてはならないのです。

そういう指示が楽譜に書いてあるのですか。

そう。で、ここまで弾いて、サインを出す。サインをこの人に出したら、そのサインを出された本人は、その今弾いている状態から繰り返しまでを弾いてから次のセクションに移る、か、サインを出した瞬間にいきなりそっちに飛ばなきゃいけない、というようなことが、本当に多くて。それから、全員で弾くとタタタタタと聞こえるところが、実はそれぞれの楽譜に分けて書いてあって、4人で合わせるとやっとそのリズムになるというのもあって。それを最初知らなかったので、ひとりで譜読みしている時はノイローゼになりました。

ひとりで弾いても曲にならない......(笑)

曲にならないし、何をどうしていいか分からないというか。ただ、お聴きになれば分かると思うんですけど、おもしろいです。メロディではなく、音が鳴っているのを聴かなければならないから、根源的な、音楽とはなんぞや、ということをつきつけられる。たくさんの音が同時に鳴っている中でリズムが出来てきて、それがまたブワッとなってきて、また離れていく......というのが書いてある曲なんです。ありますよね? 雨が降ってきて激しくなるとザーッとすごい音になって、それがだんだん弱まってパラパラパラとなると、ひとつずつの音がばらばらに分かれて聴こえてくるみたいなこと。そういうことが描かれている曲というか。でなぜか、ものすごく自由にやっているのに、なぜかいつも同じ分数(時間)で終わるのも不思議だし。DNAによってあらかじめ決められていて、全然違うことをやっているつもりが、だいたいの中に入ってしまっているような、そういう感じがします。だいたい自由に弾いていいと書いてあって、色んな音を弾くのですが、そこにはたくさん音が並んでいて、その後、散っていくというというのが計算されて書かれているんですよね。不思議。どうしてそうなるのか分からないんですよね。

ルトスワフスキは、弦楽四重奏曲はこの1曲しか書いてないんですか?

そうです。ルトスワフスキは、現代の作曲家の中であまり有名ではないかもしれませんが、天才的だと思います。この曲は、リゲティなどと並んで、弦楽四重奏のレパートリーとして歴史に残ると思います。そういう曲ですね。

今、お話を伺うと録音で聴くより、絶対に見た方が......

絶対に見た方がいい!!始まりも、シーンとした中で始まるんじゃないんですよ。みんなが席について、なんだかざわざわしている中でファースト・ヴァイオリンが始めちゃうんですよ。お客様が静まる前に気づいたら始まっていると、そういう風に指示が書かれているんです。譜面もこんな形に(小さなページがあちこち開かれるジャスチャーをして)難しく作ってあるんですよ。ファースト・ヴァイオリンは普通に開けるようになっているのですが。

なんだかすごくおもしろそうじゃないですか!

虫の声もあるんですよ。パッ...パッ...とだんだん音が増えてきて、急に誰かがポンって叩くと、他の人がパラララララって、いきなり始めたり。虫が、何かを落としたら、こうワワワワワワッてなるっていう。そういうのとかが書かれている。変わった曲だと思います。これまでに知らないタイプの曲でした。

楽しみです。これはアマリリスQとしてはよく演奏しているのですね。

よくやりますね。で、私たちのクァルテットでは必ず、近現代の作品を入れることにしていて、委嘱することもあります。北ドイツの3つのコンサート「3×3」では新しいものを混ぜることはモットー。ですから、このプログラミングは典型的ですね。モーツァルト、チャイコフスキーはみなさんよく聴いているから、ちょっと異様なのを(笑)真ん中に入れるんです。

それは、現代の作品を演奏していかなくてはならない、受け継いでいかなければいけないという想いなのでしょうか。

私たちが作品の良し悪しを判断する立場ではないと思っています。きっと長い目で見て、それが好きな人もいれば、そうじゃない人もいるのでしょうが、演奏家が紹介して弾かない限りは日の目があたらないですよね。私たちは接点を作っているだけで、ラジオのように流している、あるいは、電話交換手みたいな役割に徹しているのです。もちろん私たちの中に好き嫌いはありますが、私たちが良い悪いを決める立場にはないと思っています。今の時代をきちんと取り込んでいかなければならない。それで結局、時代がそれを決めていくのだと思っています。

チャイコフスキーについてはいかがでしょう?

チャイコフスキーは、私が入ってすぐの頃にみんなにすすめて演奏していました。音質がグスタフに合うと思って。グスタフは、ちょっとノーブルというか、澄んだ音がするので。チャイコフスキーってわりとコテコテなイメージを持っている人も多いと思いますし、もともと私もなんだかお涙ちょうだいみたいで嫌いだったんです。でも、以前、クス・クァルテットと一緒に、チャイコフスキーが晩年住んだモスクワ郊外のクリンで行われたチャイコフスキー・フェスティバルに出たことがあって、そこで、チャイコフスキーの家に行って分かったことがあったんです。実際にロシアに行って印象がガラッと変わったんですよね。ロシアというのは、シンプル・イズ・ベストではなく、たくさん溢れるようにあって、でもノーブルなんだなと。コテコテに見えるんだけど、下品ではない。ヨーロッパとは違うスタイルの上品さがあります。それが分からないで演奏すると演歌のようになってしまう。そう思って聴くと、作りは単純なのですが、美しいなと思って。バレエ音楽が一番分かりやすいと思うんですが、キラキラキラとしている。キラキラが毛皮からきている、あるいは宝石からきているキラキラ。豊すぎる感じというか。それがグスタフの端正な音に合うと思います。第4楽章も弓をべったりつけて弾くのではなくて、少し浮かせてノーブルに弾くのがぴったりですね。


まだ聴いたことがないという方はもちろん、前回の来日でその若き正統派としての魅力にひかれた方も、赤坂さんが加入して新たな化学反応が起こっている新生アマリリス弦楽四重奏団の演奏を、ぜひお聴きのがしなく!