豊かな音楽を、愉しいお話と共に‥‥〈雄大と行く 昼の音楽さんぽ〉第18回は、世界的にも珍しい編成のアンサンブルをご紹介します。デンハーグピアノ五重奏団は、ふつうのピアノ五重奏(ピアノと弦楽四重奏)とはちょっと違い、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにコントラバスというユニークな五重奏。これは、作曲家シューベルトが(自作の歌曲《ます》からメロディを引用して耳なじみ抜群の)ピアノ五重奏曲《ます》で使った編成です。コントラバスが加わることで低音の豊かさが広がるわけですが、この編成で書かれた珍しくも素敵な作品たちの楽しみを世に広く伝えてくれるのがデンハーグピアノ五重奏団。
[聞き手・文/山野雄大(音楽ライター)]
オランダのデンハーグ王立音楽院で学んだメンバーを中心に結成したこのアンサンブル、現代楽器ではなくシューベルトなど19世紀以前の響きを再現する、オリジナル楽器による五重奏団です。弦楽器のしなやかなサウンドもモダン楽器とは印象が変わりますし、現代ピアノのご先祖にあたるフォルテピアノの音色も素敵。
公演で使用するフォルテピアノ。1835年頃、プラハでアントン・シュヴァルトリンクが製作。鍵盤が貝とべっ甲で出来ている。
「モダン・ピアノで《ます》を弾くと、ピアノだけ音の持続が長くなってしまい〈弦楽器とピアノとの闘い〉みたいになってしまうことがあります。ところが、フォルテピアノで弾くと弦楽器との対話もずっと自然に弾むのです」と語るのはフォルテピアノ奏者の小川加恵さん。
「19世紀初期にこの編成で書かれた作品は30曲以上あるんですが、その多くが華やかに活躍するピアノを弦楽器が効果的に支えるというタイプの作品です。18世紀後半以降、非常に人気の高かった<伴奏付きソナタ>というジャンルから派生したもので、実に素晴らしい作品ばかりです。その芸術性の高さに反して現在では演奏される機会が少ないのはとても惜しいことですね」というあたり、ぜひ魅力を実感していただきたいところ。
「その中でもシューベルトの《ます》はピアノと弦楽器を対等に扱っている、とてもユニークな作品なんです。また18世紀頃のウィーンで好んで使われていた、巨大な5弦のコントラバスの力強く、躍動感あふれる動きの面白さもみどころですね」
さらに、メンデルスゾーンのピアノ六重奏曲ニ長調は「ヴィオラがもう1本増えて内声がより充実していますし、全体に弦楽器がピアノを盛り上げながらもピアノの旋律に絡み込んでくるような書き方をしています。メンデルスゾーンが14歳の頃の作品なんですが、まさに天才です!」
世界の古楽コンクールを制し、ピアノ五重奏を軸に様々なレパートリーでオリジナル楽器アンサンブルの魅力を伝えてきた五重奏団も結成10周年、錬磨はいよいよ美しく‥‥発見の喜び溢れる時間が満ちることでしょう!