トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

上野由恵&曽根麻矢子

雄大と行く 昼の音楽さんぽ 第17回
上野由恵&曽根麻矢子インタビュー
フルート&チェンバロ・デュオ

山野雄大のプレトークとともに、平日朝11時15分からお楽しみいただく1時間のコンサートシリーズ「雄大と行く 昼の音楽さんぽ」、6月3日に登場するのは、フルートの上野由恵さんとチェンバロの曽根麻矢子さんです。おふたりにお話を伺いました。

初共演は昨年の12月ですね。

上野:私にとって曽根さんはずっとあこがれの存在で、昔からCDも聴いており、いつかごいっしょできたらと思っていました。

曽根:チェンバロが好きだったの?

上野:曽根さんが好きだった...。

(一同爆笑)

上野:(フラウト・トラヴェルソ奏者の)有田正広先生にレッスンに伺っていた時も、よく曽根さんの話が出ていて、「すてきなんだよ」と言われて「ふうう♡」と。それで共演をお願いしたところ実現しました。

曽根:光栄だと思ってお引き受けしました。これまで色々なフルートの方と共演していますが、上野さんのフルートへの愛情や表現への情熱を感じ、最初からフィーリングがピタッと合いました。

上野さんがバロック音楽を有田先生に師事されていたことも大きいのでしょうか。

曽根:すごく勉強されているので、(私たちバロック音楽を演奏する音楽家と)感覚が近いと思います。

上野:そう言っていただけるとうれしいです。曽根さんの演奏は、音楽が「生きている」ところがあこがれだったのですが、一緒に演奏して、それをより強く感じることができました。生命力がすごいのです。音楽ってこんなに生きているんだ、と感じて、自分も刺激を受けて演奏できて......本当に特別な時間でした。

バロックは昔の音楽、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、実はものすごく生き生きした音楽ですよね。

曽根:激しいですよね。その場で掛け合いながら創り上げていくライブが楽しめます。

上野:チェンバロの音色はストレートですね。ピアノの音の伝わり方とは全然違って、音がまわって来るのではなく、トーンとまっすぐ来る感じが快感です。お客様にもそれが感じられると思います。

今回使われるチェンバロは?

曽根:山梨県の野神チェンバロ工房のチェンバロをお借りします。チェンバロの音色を特徴づけるのは難しいかもしれませんが、どちらかというとデリケートな音がする楽器です。チェンバロという楽器は、まさに十人十色。ちなみに私自身が持っている楽器は、どちらかと言えばパワフルな楽器ですね。

チェンバロは、一般的には強弱がつきにくく全体的に音量が小さいというイメージがありますが、パワフルな楽器という表現は面白いですね。

曽根:強弱について、そのように訊かれることは本当に多いのですが、「強弱をつけよう」という意識はないのです。チェンバロが演奏するときの「強」というのは、「音をたくさん弾くこと」です。ですから「強い」音とはあまり言わず、「豊かな」音が欲しい時は、同じ和音でも音をたくさん弾きます。ここはディミヌエンド(だんだん弱く)したいと思ったら音を減らしていく。アルペジオ(分散和音)でも、使う音の数を変えることで、豊かさに変化がでます。ですから通奏低音を弾く場合は、楽譜が自由な分、奏者が自分でダイナミクス(強弱による表現)をつけられるわけです。

上野:ダイナミクスというのは、弱いか強いかだと私も思っていたのですが、曽根さんとのリハーサルで、例えば(チェンバロは上下に鍵盤が2段あるので)左手を下の鍵盤で、右手を上の鍵盤で弾いていたのを「これでもいいよ」とどちらも上の鍵盤で弾いたりして、パッとその場で色々な組み合わせを試してくださって、「むしろピアノより、たくさんパレットがある!」とびっくりしました。そういった調整は奏者にゆだねられているのですよね。それを曽根さんのセンスやこれまでのご経験で自由に選んで弾いてくださるのです。

★曽根さんIMG_9151 - コピー.JPG

今回のプログラムの中で、前回も共演したのは?

曽根:1曲目の、C.P.E. バッハ作曲《ハンブルガー・ソナタ》と、最後に演奏するJ.S.バッハ作曲の《フルートとチェンバロのためのソナタ イ長調》です。《ハンブルガー・ソナタ》では、私は通奏低音、いわゆる伴奏を弾いています。

上野:《ハンブルガー・ソナタ》の方はすごく明るくて、お昼のひととき、という感じです。この曲では、フルートが主にメロディーを担当しています。

曽根:チェンバロは、ひまだな~というのは冗談ですが(笑)、音は少ないのです。

上野:バロック時代の楽器は今ほどメカニズムのついていないフルートだったのに、「こんなことができたんだ!」という驚きの曲です。アクロバティックなことをやらなくてはならないので、本当におもしろいと思いながら演奏しています。

曽根:こういう曲を共演していると、私も客席に行って聴きたいなと思います(笑)。

通奏低音はご自分で作りながら弾いていくのですか?

曽根:楽譜を見て、その場で弾きます。だいたい決まってはきますけど、作って固定することはしません。通奏低音の楽譜は、右手は何も書いていなくて、左手だけ、音とその音に対しての数字が書いてあります。例えばソの音と6という数字が書いてあったら、ソから上に6番目の音、つまりミを含んだ和音なので、ミソシの和音なのです。何も書いていなかったら基本形という意味で、ソシレの和音です。それぞれの和声の性格というのがあって、ソシレを弾く時と、ソシミを弾く時の気持ちとは違います。6という数字を弾く時は、底がないというか、ふわっという感じになりますが、7の和音は、基本がドであればドミソシになるからその分広がりがある。バロック時代は和声が命ですから、それが大事な支えになっています。ソロを演奏する演奏家も、通奏低音の勉強をすることで、曲の見え方が変わって、ソロ演奏が全然違ってきます。

チェンバロが通奏低音の《ハンブルガー・ソナタ》に対して、最後に演奏するJ.S.バッハの《フルートとチェンバロのためのソナタ》は、チェンバロの右手も書かれています。この曲は、実は途中の部分が失われているんです。

上野:大好きな曲なのですが、その欠落部分が結構長いせいで、バッハのソナタシリーズの中に入れられなかったりと、悲しい運命をたどっている曲です。出版社によってそれぞれ誰かが補筆しているのですが、あまりいいと思えるものがなくて。失われた部分にくると急に、ここは誰か違う人が書いたと分かる。そして最後に、またバッハに戻った時も、ああ...と分かる。好きなのにあまり演奏できない、とずっともやもやしていたのですが......。

曽根:今回私たちが演奏するのは有田正広さんバージョンです。

上野:有田先生が書かれた補筆の部分は、本当にバッハそのままの流れで、もうバッハにしか聞こえない。

曽根:なんの違和感もないのです。

上野:有田先生は別に作曲はしていないそうで、バッハの他の作品の色々なところから取ってきているとおっしゃるのです。でもそれが正しいのだと思います。もう、「これは!」という感じで。たぶん、どこからが補筆なのか、当てられる人はいないと思います。それを前回演奏できたので、うれしくてうれしくて。

他では聞けないものなのですね。

上野:有田先生のCDでしか聞けません。楽譜は手書きのものをコピーさせていただきました。フルートとチェンバロの掛け合いを楽しんでいただけると思います。

曽根:明るく華やかで、お昼間のコンサートにぴったりです。

お客様には、それぞれのソロもお楽しみいただけます。チェンバロのソロは、ロワイエ作曲の《スキタイ人の行進》ですね。

曽根:フルートのインパクトがある《ハンブルガー・ソナタ》のあとに、あまり静かな曲だと、耳がついていきにくいので、こういう時はバーッとはじけて弾いてしまいます。「こんな曲があるんだ」と思っていただければ。

上野:楽器のことも知りたいですよね。ここでチェンバロについてもお話をしていただこうと思っています。

★上野さんIMG_9148 - コピー.JPG

そして《グリーンスリーブス変奏曲》ですね。

上野:ソロの演奏は、緊張感ある空間になるので、間にちょっとほっこりしているのがいいかなと。癒しの空間になればと思って入れました。

フルートのソロは、細川俊夫さん作曲の《線I》ですね。上野さんのホームページで演奏しているビデオを拝見して、あまりの迫力に驚きました。

曽根:すごいですよね。難しそう!

上野:書道の筆の動きとか、墨の音を、フルートの色々な技術を使って表現することを試みた曲です。声を出したりもします。ホームページに載せている画像は抜粋ですが、コンサートでは全部お聴きいただけます。「フルートって、こんなことができるんだ!」と思っていただけるだけでなく、音楽で日本の文化や、日本人が持つ精神性まで表現できる作品であり、日本人の魂を呼び起こすような時間になったらと思います。ぜひ生で聴いていただきたいですね。

そういうことを意識するようになったのは、フランスやアメリカなど海外に住まれたことも大きいですか?

上野:そうです。海外で「自分にしかできないものは何だろう」と思った時に、アジアや日本を表すようなものを、ひとつ自分の核として世界に向けてやっていきたいなと気持ちがむくむくと湧いてきました。

動画もワシントンでの演奏会のものでしたね。現地の方の反応はいかがでしたか。

上野:すごいです。お国柄もあるんでしょうけど、「ヒュー!」という感じになります。日本の文化は日本人が思っている以上に世界で人気があるんですよね。もっと日本人として胸をはって、世界に文化を紹介していきたいと思ってやっていますし、そういう意味でも、日本の方に聴いてもらいたいと思います。

曽根さんはもともとバッハが大好きで、ピアノで弾くのは何か違うと思われて、チェンバロを弾くようになったのですよね。

曽根:研究人間じゃなくて、感覚人間なので。なんだか納得いかないと思って。

上野:そうなんですか。それ、ぐっときますね。

曽根:バッハの時代の楽器はこのピアノじゃない、と思ったらチェンバロという楽器を知りたくなって。桐朋女子高校音楽科にいたので、チェンバロはあったのですが、部屋には鍵がかかっていて、副科に入れば触らせてもらえるということで始めたのです。触ってみたら、その瞬間にバッハはどこかに行ってしまって、「私はこの楽器だ」と。バッハさん、ありがとうございます。バッハさんが導いてくれたの(笑)。でも高校に古楽科がなかったので、ピアノ科を卒業して。そこで海外に行きたいと思って大学の古楽科には入りませんでした。正しかったのかは分からないんですけど。

上野:道なき道を行くんですね。

曽根:行っちゃうんですよね。親にチェンバロの説明をするところから入りました。

上野さんはフルートとの出会いは?

上野:私、ひとめ惚れです。

曽根:惚れやすいんじゃない?

上野:違いますよ。私、フルートと曽根さんにしか(笑)。

8歳の時にコンサートでモーツァルトのフルート協奏曲を聴いて、「これだー!私はこれやる人になる!」って、将来の夢が決まって。ピアノは習っていたんですけど、田舎で近くにフルートの先生もいなくて。2年間両親を説得し続けて、新聞を朝一で取ってきてフルートという文字を探して、赤でぐるぐる囲んで置いておいたり、フルートの番組を録画して、大音量で流し続けたりしているうちに、親が「これは本気だ」と。

曽根:伝わりますね。2年というのは長い根競べですね。

最初からプロになろうと思っていたのもすごいですね。

上野:フルート専門誌「ザ・フルート」を読むと、皆、東京藝術大学卒業って書いてある。「ここに行けばフルート奏者になれる!」と思って。「ここに行きたいです」と。

曽根:始めてもいないのに!

上野:一直線です。

★爆笑お二人IMG_9163 - コピー.JPG

上野さんと曽根さんは、似たものどうしですね。

上野:最初についた先生が、何を表現するか、を重点的にやらせてくださる先生で。技術のことは二の次で「表現したいー!」と思っていました。もう気合だけで、よく東京藝術大学に入れたなと思います。東京に出てきて、まわりの皆の話を聞いて「エチュードって何?」「基礎練習って何?」と。ブレスも持ち方も一からやり直したので大変でした。表現したいことが多すぎてついていけなくて。

曽根:今も、そのまず表現したいという最初の気持ちが残っていると思う?

上野:思います。

曽根:そうでしょう!今のお話を聞いてピンときた!

上野:お客さんの気持ちがずっと残っているという感じでしょうか。最初に「わあ、フルート!」と思った、その気持ちを感じてもらいたいと思ってずっとやっています。

曽根:プロになってしまうとフレッシュさをキープしづらいこともあると思うんですが、上野さんはいつもフレッシュで、表情豊か。フルートに対するラブがあって、すてきだなと思っていたんです。

上野:家宝にします、その言葉。

このおふたりのデュオは、音楽への愛が伝わって、聴いている方も楽しくなるでしょうね。

上野:そういう空間になればと思っています。

ありがとうございました。