
「レクイエム」弦楽四重奏版
「モーツァルトのレクイエムを弦楽四重奏で?」
スイスの最高峰クァルテット、カルミナ四重奏団が、「次回の日本公演にぜひ」と話してくれた時、最初は驚きました。2013年の第一生命ホール公演時のことです。
モーツァルトのレクイエムといえば、映画「アマデウス」でも有名な、モーツァルトが謎の依頼主の要請を受け、死の床で書き続けたあの曲。もとはオーケストラ、合唱、ソロの歌手で演奏される大曲です。
「つまりオーケストラではなく、4人で演奏する。しかも、歌もないということ?」「そう。シュテファン(チェロ)が主催するスイスの音楽祭で演奏したら、お客様にもとても好評だったので、ぜひ日本でもやりたいと思っているの」とフランク(第2ヴァイオリン)。もともとモーツァルトと同時代の作曲家が編曲した弦楽四重奏版は存在するのですが、演奏してみて納得できなかったカルミナ四重奏団は、教会音楽家を父に持つエンデルレ(第1ヴァイオリン)が編曲し直し、弦楽四重奏として4人が納得のいく形に仕上げたのだとか。「もちろん、普段聴いているレクイエムとは編成もまったく違うけれど、いったん頭を切り替えて弦楽四重奏ならではの親密さに耳を傾けると、作品の真価がよりクリアに見えてくる。何より私たち自身が演奏するたびに心を動かされるわ」とチャンプニー(ヴィオラ)。
最初は想像できなかった弦楽四重奏版「レクイエム」ですが、彼らの話を聞くうちに、これはぜひ日本でも紹介したいと思うようになりました。そこで2015年、モーツァルトの命日でもある12月5日に第一生命ホールで演奏することにしたのです。
2大クラリネット五重奏曲
~セバスティアン・マンツとの初共演
ところで、カルミナ四重奏団として最初に「レクイエム」を演奏したスイスの音楽祭で(その時はコントラバスも入った五重奏版だったそうですが)プログラミングされたのが、モーツァルトのクラリネット五重奏曲。クラリネットは、ザビーネ・マイヤーでした。カルミナ四重奏団は、ザビーネだけでなく、彼女の兄、ウォルフガング・マイヤーとも何度も共演やレコーディングをしており、兄妹と、ブラームスとモーツァルトの五重奏曲をそれぞれ録音したCDもリリースしています。この2曲は、モーツァルト、ブラームスともに晩年にクラリネットの名手と出会ったことから生まれた、室内楽曲史上の名曲中の名曲ですが、カルミナ四重奏団は、マイヤー兄妹との共演を通じて、これらの曲に特別な思いを持っているのです。
そこで、第一生命ホールでこの秋からシリーズ「室内楽の魅力~ブラームス」を始めるにあたって、この2曲を知り尽くしているカルミナ四重奏団に演奏してもらうことにしました。クラリネットは、セバスティアン・マンツ。ザビーネ・マイヤーの弟子でもあり、若くしてシュトゥットガルト放送交響楽団のソロ・クラリネット奏者を務める逸材です。ブラームスとモーツァルト、それぞれの晩年の境地がしのばれる傑作を、最高の組み合わせでお楽しみください。