現代ヨーロッパの弦楽四重奏の最先端を自然体で突っ走るスイスの4人組、カルミナ四重奏団(以下Q)が初夏の第一生命ホールに帰ってくる。今回は「どんな方でも思いっきり楽しめる、フレッシュで魅力タップリの曲を選びました(チャンプニー)」と自信満々だ。その前に、エンデルレとチャンプニー夫妻から、うれしい報告が。
夫妻 日本のみなさんにもお知らせしたい、我が家の大ニュースがあります。2009年に第一生命ホールを初めて訪れた時、私たちの娘でチェロをシュテファン・ゲルナーに習っているキアーラと中央区の小学校と知的障害者生活支援施設「レインボーハウス明石」で演奏させていただきました。キアーラとすれば、あれが日本デビュー(笑)。その彼女が、9月にチューリッヒのトーンハレ管弦楽団に招かれシューマンの協奏曲を弾くことになりました。地元最高のオーケストラとのプロ・デビューです。
キアーラさんは、みなさんとシューベルトの五重奏の一部を弾いたのですよね。
夫妻 ええ、ああいう場所で弾けたのは、彼女にも私たちにも、素晴らしい想い出です。地域のみなさんには感謝しています。
それは私たちにもうれしいニュースです。ところで、今回の演目、ショスタコーヴィチはむずかしいとお思いの方もいらっしゃるでしょうが。
エンデルレ いえ、ショスタコーヴィチの音楽はとても素直ですよ。ただ、ソヴィエトの歴史や創作の背景から、いろいろなことが言われる。でも私たちは、音楽をして語らせたいと思います。ショスタコーヴィチが裏にあるものを隠したかったのですから、聴衆が自分のストーリーや経験を読み取ればいいのです。とてもストレートに多くが伝わる音楽ですよ。ベルクやバルトークみたいなむずかしい音楽ではありません。
ベートーヴェンの「ハープ」は、みなさんとすれば日本では初お披露ですよね。
チャンプニー ええ、私たちはいつも、まだ日本で弾いていない曲を調べていますから(笑)。
エンデルレ 終楽章の演奏がむずかしいのです。素晴らしいけど、ちょっと素朴でお人好しな感じがしてしまう。「え、終わったの」と思うかもしれない終わり方ですが、弾き終えた瞬間に客席から笑い声が漏れれば成功。
ドヴォルザークの「アメリカ」はもうお得意で、また録音なさったそうですね。
チャンプニー 3度目の録音です。テンポはとても違ってきています。でも、どれを聴いてもこれはカルミナQとわかるでしょう。変えようと思ったわけではないのですが、人間というのは、変わってしまうものなのです(笑)。
エンデルレ 私たちはもうすぐ結成30年です。ですから、演奏の瞬間瞬間に、ある種の自由な感覚が出てきています。"即興"という言葉はちょっと強すぎるかもしれませんが...。
チャンプニー "自発性"かしらね。
[取材/文 渡辺和(音楽ジャーナリスト)]