この秋から、モーツァルトの弦楽四重奏曲全23曲を、2年間6回にわたって演奏する古典四重奏団。
チェロの田崎瑞博さんにお話をうかがいました。
モーツァルトの弦楽四重奏曲全曲に取り組むのは初めてですか。
1991年に古典四重奏団が現在のメンバーになった時、最初に取り組んだのが、実はモーツァルトです。暗譜での演奏、まとまった作曲家のプログラム、という今の古典四重奏団のスタイルを始めた年でした。ただし全曲ではなく、後期の作品を中心に15曲でしたが。
今、ハイドンの全曲演奏もしていらっしゃる古典四重奏団だからこそ、モーツァルトの演奏においても、見えてくるものがあるのかもしれませんね。
モーツァルトのすごいところは、幼い頃から素晴らしい音楽を吸収して、すぐに真似できてしまうところです。初期の「ミラノ四重奏曲」「ヴィーン四重奏曲」は、10代の半ばに父親と演奏旅行をしながら得たものを試したり実験したりしていて、まだ個性が出てくる前の時代に書かれ始めたもの。現在演奏される機会が少ない曲も多いので、おもしろいと思います。モーツァルトは、そうした中であっという間に自分のものにした形を、ついには憧れであったハイドンも舌を巻くような完成度の高い「ハイドン・セット(ハイドン四重奏曲)」に結実させるのです。
「ハイドン・セット」は、モーツァルトがハイドンに対する尊敬の気持ちを表した、感動的な献辞をつけてハイドンに献呈されています。
当時の常識では、弦楽四重奏曲はどんどん書いては消費されるものでした。まずは弾いて楽しむためのものですから、いかにハイドン・セットが難しいとは言っても、本来はアマチュアが弾ける範囲のものです。ところが現在はプロもなかなか手を付けられない状態というのが、逆に言うとすごいし、おもしろいところですね。ハイドンもモーツァルトも、簡単に消費して楽しんでもらうために書きながら、そう簡単に演奏できないようなものを競い合った。
モーツァルトは、こと弦楽四重奏においては、究極の美を追い求めていたのではないかと思います。徹底した均整美を追求し続けているのが「ハイドン・セット」の6曲に表れていますね。ですので、この全6回のモーツァルトの演奏会は、最後はすべて「ハイドン・セット」の1曲で締めました。
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6回の公演の前には、古典四重奏団の演奏とともにおくるレクチャーも。モーツァルトが少年時代から、亡くなる前年の「プロイセン王四重奏曲」まで、生涯にわたって書き続けた弦楽四重奏曲。この機会に、ぜひ全23曲を聴いていただきたい。
[聞き手/文 田中玲子]