トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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レポート

アウトリーチ
室内楽アウトリーチセミナー
室内楽アウトリーチセミナー

基本情報

日時 [1回目]2014年10月31日(金)
[2回目]2014年12月8日(月)
[3回目]2015年2月9日(月)
出演 室内楽アウトリーチセミナー 
ヴァイオリン:松原勝也 *講師
ヴァイオリン:藤代優意
ヴィオラ:柴 恵
チェロ:印田陽介
概要 実施会場:江東区立有明小学校
[1回目]ランチルーム [2回目]音楽室 [3回目]ランチルーム
対象者:4年3組、4組
人数:31名、33名
助成等:平成26年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業

プロフィール

松原勝也  (ヴァイオリン)
 東京藝術大学在学中に安宅賞受賞。クライスラー国際コンクール等で上位入賞。1989年から98年まで新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを務める。バッハから現代までを俯瞰的視野でとらえた無伴奏リサイタルシリーズ、即興や、ジャズミュージシャンとのコラボレーション、現代作品の初演、ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏など、多彩な演奏活動は極めて高い評価を受けている。2001年よりNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール主催の若い演奏家のための弦楽セミナー《アドヴェントセミナー&クリスマスコンサート》を、2011年より《室内楽アウトリーチセミナー》をプロデュース。第17回中島健蔵音楽賞、第55回文化庁芸術祭新人賞受賞。長崎OMURA室内合奏団アーティスティック・アドヴァイザー、静岡AOIレジデンスクヮルテットメンバー、霧島国際音楽祭講師、東京藝術大学音楽学部教授。
藤代優意  (ヴァイオリン)
東京音楽大学、同大学大学院を経て、英国王立音楽院修了。東京音大短期留学奨学生としてモーツァルテウム国際サマーアカデミーを修了。第4回全日本芸術コンクール第3位。(財)地域創造・公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム事業派遣アーティスト。マルシェ弦楽四重奏団メンバー。
柴 恵  (ヴィオラ)
横浜市出身。3歳からヴァイオリンを、15歳からヴィオラを始める。東京音楽大学卒業。ヴィオラスペースの公開マスタークラスにて菅沼準二氏のクラスを受講。アジアユースオーケストラ2011に参加。ヴィオラを増茂和美、兎束俊之、河合訓子、店村眞積の各氏に、室内楽を百武由紀、荒井英治、店村眞積の各氏に師事。
印田陽介  (チェロ)
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部卒業後、チェコ国立プラハ音楽院に留学、更なる研鑽を積む。蓼科音楽コンクール室内楽部門第1位、ユースプラハ国際音楽コンクール弦楽アンサンブル部門金賞を受賞。Bienen Quartet、「ハリーのしっぽ」メンバー。劇団東京イボンヌ所属。

レポート

■1回目レポート■

この日は明るく眺めの良いランチルームでアウトリーチが行われました。テーマは「音楽から自由に気分・場面を感じ取り、想像しながら音楽を聴く」。弦楽四重奏曲の生演奏を聴きながら、児童達は一体何を感じ取り、想像するのでしょう?

児童が座って待つ中、演奏者たちが入場してきました。まずは自己紹介と、そして楽器紹介。「生演奏を聴いたことがある人?」という質問には、10人ほどが手を挙げ、各楽器の名前も良く知っていました。そして4人の演奏者は座っている児童に近づき、周りを囲むように立ちながら楽器の音を聴かせました。

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それから、弦楽四重奏曲の一部を第一ヴァイオリンのみが演奏→第二ヴァイオリンが加わる→ヴィオラが加わる→最後にチェロが加わる、というパフォーマンスをやってみせました。これは、児童がクラシック音楽を理解する手助けのひとつになったのではないかと思います。演奏者のそれぞれの響き・メロディが重なり合うことを視覚的にも聴覚的にも理解できて、豊かな響きを感じ取ることが出来たのではないでしょうか。

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そして、弦楽四重奏曲「アメリカ」(ドヴォルザーク)第一楽章を演奏した後、まず演奏者がそれぞれどんなイメージを持って演奏したのかを、事前に描いたものを掲げて説明しましたが、具体的な場面を描いている人や、抽象的な色を描いている人などで、同じものはひとつもありませんでした。私は音楽の場面から、様々な色をイメージしていたので、松原先生の描いた絵に近かったのが驚きでした。その後児童らは演奏を再度聴きながら、思い思いに絵を描きました。描いた絵について尋ねると「いいお天気で、お日様が照っていてイルカが泳いでいる」(男子)「楽しくて音符が踊っている感じ」(女子)「1回優しくなったり、強くなったり、荒々しくなったり・・・。」(男子)などの意見が出ました。児童たちは一生懸命にイメージしようとして、集中している様子が窺えました。

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この日は音楽の中から何かを感じようとしている児童の姿と、何かを伝えようとしている演奏者の姿勢を見ることができました。最後に「思ったことや感じたこと、演奏者への質問」を書いてもらう冊子を児童に配布して、次回へつなげることとなりました。この体験が児童たちのクラシック音楽への興味を深めることができるのか、期待したいと思います。 (サポーター/鈴木香代子)


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■2回目レポート■

この日は、児童たちにとって2回目のアウトリーチです。前回は自由なイメージを想像しながら演奏を聴いて、それを絵に表してみるという活動を行いました。今回も始まる前から、アウトリーチに期待を膨らませている様子が児童の表情から読み取れました。

控え室から調弦の音が聞こえてくると、皆静かに耳を澄まして聴いています。演奏者が現れて、「前回はドヴォルザークの弦楽四重奏『アメリカ』の1曲目を聴いてもらいましたが、今日は2曲目を聴いてもらいます。」と言って演奏が始まりました。誰ひとりとして身体が揺れたりせずに集中して聴いている様子は、小学4年生にしてはすごい事です。

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この日のテーマは、「アンサンブルってなんだろう?一緒に演奏するってどういうこと?体験してみよう」。CDを聴いている時には認識することが出来ない、演奏者の動きや表情、息遣いなどが、この日は目の前で確認することが出来ます。チェロの印田さんが「指揮者はいないけれど、どうやって音を合わせていたのかわかるかな?」と児童に質問を投げかけます。「合図みたいなのしてた。」「目を合わせてた。」という意見が出て、「じゃあ、もう一回やってみるね。」と言って、頭の部分を演奏すると、今度は「息を一回吸っている。」と言う意見も出ました。ヴァイオリンの松原さんは、「演奏する前に曲の早さや雰囲気を想像しながら他の演奏者に合図を出したり、常に他の演奏者を意識しながら、微妙な雰囲気を感じ取ったり考えたりしながら演奏しているんだよ。」と話しました。

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次は第3楽章の演奏です。リズミカな部分は児童にも手拍子で演奏に参加してもらう、という事で、まず「手拍子を皆で合わせる」と言う事を、速さや強弱を変えたりしながら練習してみました。それから演奏者4人の周りを囲むように児童たちが立ち、第3楽章の一部分を演奏しながら、手拍子のアンサンブルにトライしました。一回では思うように合わず、気持ちを合わせることの難しさが分かりました。

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そして最後にヴィオラの柴さんが「まわりの人を良く観察して演奏することをアンサンブルと言います。私たちはいつもそうやって、どんな風に演奏したいのかな、と観察しながらアンサンブルしています。」と言ってから、もう一度改めて第3楽章を初めから演奏しました。

私はこの日、アウトリーチの役割を良く考えてみました。すると次のことに思い至りました。「演奏者を間近で見た映像とか奏でられた音楽が子どもの脳裏に深く残り、子どもはいつでもそれを引き出して再生し、味わい、活用することが出来る」ということです。

アウトリーチの経験は、音楽への気づきだけではなく、音楽でのコミュニケーションから音楽活動へのファクターとなりうるものであり、やはりアウトリーチは音楽教育としても意味があり、とても魅力的なものです。次回が楽しみです。 (サポーター/鈴木香代子)


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■3回目レポート■

この日は3回目で最後のアウトリーチです。演奏者の後ろには、パネルが立っていて、そこに児童たちが1回目に描いた絵が貼ってあります。
まず、ヴァイオリンの藤代さんが児童たちに語りかけます。「アウトリーチの1回目は、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲の1曲目を聴いてもらって、みんなには絵を描いてもらいました。その絵が後ろに貼ってあるけど、自分の絵はある?その時にどんな気持ちで描いたか覚えてる?そう、はげしい曲だったね。ちょっと弾いてみます。」と言って、1楽章の冒頭部分を演奏しました。

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次に、「2回目はどんな事をしたか覚えてる?」と問いかけると、児童からは「手を叩いた」という声があがりました。「そう、一緒に演奏に参加してもらったね。じゃあ、どんなお話をしたか覚えてる?」と聞くと、「合図したり…」などの声が児童からあがりました。「そう、私たちがどんな風にして音楽を合わせていたか、のお話をしたね。息をしたりとか、目で合図したりとかね。じゃあ、2楽章をちょっと弾いてみます。」と言って、2楽章の冒頭部分を演奏しました。

そして、「次の3楽章では私たちの演奏に参加して一緒に手を叩いてもらいました。みんなでアンサンブルした曲です。では3楽章をちょっと聴いてみましょう。」と言って3楽章の冒頭部分を演奏しました。

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「みんなでアンサンブルした気持ち、思い出したかな?音楽を感じながら一緒に合わせる事をアンサンブルと言うんだったね。みんなで言ってみよう。せーの、アンサンブル!」・・・・ここまでの導入で、前回までのアウトリーチを思い起こし、児童の気持ちを演奏に向けています。

「今日は演奏会みたいに1曲目から4曲目まで全部演奏してみます。実はこの曲には『アメリカ』と言う名前がついています。」チェロの印田さんは、ドヴォルザークがこの曲を作曲した背景を簡単に説明してから、「4曲目は今日初めて聴く曲だけど、どんな感じの曲か、楽しみに聴いてください。」と話し、全楽章の演奏が始まりました。全部で30分ほどの長さですが、児童たちは飽きる様子もなく、興味を持って演奏者たちを見つめて聴いていました。ヴァイオリンの松原さんは演奏しながら体全体で音楽を表し、息を吸う様子も児童に分かるように見せていました。演奏が終わると松原さんは「音楽は気持ちの変化を表しています。みんな言葉に出来ない何かをいろいろ考えてくれたね。」と話し、印田さんも「いろんな気持ちを音楽が表しています。みんながもっともっと音楽を好きになる手助けになったら嬉しいです。」と話しました。

3回のアウトリーチが終わって、私も色々な事を考えました。弦楽四重奏は4人の演奏者の気持ちの重なり合いで、音楽をツールとした精神の共同作業でもあり、そこから生まれる音楽の空間を感じ、目には見えないけれども集中して聴くことで心の中に見えてくるものや、それをアウトプットするための自己対話などは、物事を分析的に考える思考力が鍛えられると思います。また小学4年生という年齢は、発達的に頭の働きが変わってくる年齢でもあるので、そんな時期に音楽を生で聴いて自分の内面と向き合う体験は、とても重要な事だと思います。そして目に見えないものの価値観に気づき、演奏者の真剣勝負に触れ、クラシック音楽という文化の財産に出会うことは、とても意味のあることだと思います。彼らが今後成長していく中で、その楽しみを生活の中で味わうことができるなら、人生が豊かになるのではないでしょうか。ここにアウトリーチの意味があります。

最後に弦楽四重奏の伴奏で校歌をみんなで歌いましたが、ピアノ伴奏とは違う弦楽の素晴らしい響きが児童たちを満足させたことは間違いありません。表面的な格好良さに憧れる時期の子どもたちだけれど、ビジュアルは二の次の格好良さに気がついてくれたかもしれません。(サポーター/鈴木香代子)

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有明小学校でのアウトリーチは、シリーズの3回目を迎えました。4年生の2クラスが参加する今回の音楽会では、締めくくりとしてドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」を、1曲通して聴くプログラムとなっています。

子供たちは会場へ入るやいなや、絵が展示されているパネルの方へ集まってきました。この60枚ほどの絵は、以前のアウトリーチの際に、子どもたちが「アメリカ」の1楽章を聴いて抱いたイメージを表現してもらったものです。自分の絵がどこにあるかを探したり、クラスメイトが何を描いているのかを話し合ったりしていました。

間もなく演奏者の4人が登場してご挨拶があったあと、まず曲を通しで聴く前に、これまでのおさらいとして1~3楽章の冒頭を演奏してくれました。曲を思い出せたか聞かれると、「なんとなく覚えている」という返事をした子がいたように、皆記憶に残っているようでした。

そして、「この曲の題名は、実は『アメリカ』って言うんだよ」と、作品のタイトルと、作曲家がアメリカの新しい音楽に出会った経験から作った曲だということが明かされると、皆興味深い表情でうなずいていました。

いよいよ演奏が始まると、子どもたちは真剣そのもので聴き入っていて、会場であるランチルームが一瞬にしてコンサートホールになったようでした。30分弱の弦楽四重奏曲という、傑作でありながらも、大人でも興味のない人は長く集中できないかもしれない音楽を、時折身を乗り出しながら熱心に耳をかたむけている様子でした。

素晴らしい演奏が終わってから感想を聞かれると、「テンポの変化がドヴォルザークの気持ちを表していると思った」という意見が出たほか、今日初めて聴いた4楽章については「鋭い感じ」や「お祭りみたい」、また「草原のよう」という声があがりました。音楽の感想を言葉にするのは難しそうでしたが、がんばって発言してくれたことで、いろいろな感じ方をしていることがわかりました。

感想を受けて演奏者の方が「それぞれの感じ方で聴けるのがいいんだよ」とおっしゃっていましたが、今回はステージの背景に飾られた皆の絵を見ながら演奏を聴くことで、同じ曲を聴く時でも人によっていろいろな感じ方があること、一人ひとりが自由に感じ取れることの面白さについて深く学べたのではないかと思いました。

最後に、校歌を豪華な弦楽伴奏で歌いました。前回習ったという「アンサンブル」を意識しているのか、伴奏の動きや呼吸にとても上手く合わせて合唱していました。

今回のアウトリーチで印象深かったのは、やはり食い入るように鑑賞していた子どもたちの姿です。また終了後には、「演奏者が本気を出せば、子どもたちはしっかり受け止めてくれる」と、演奏者の側でも新たな発見をされていたようでした。このような成功度が音楽の送り手と受け手双方の能動性にかけられている生演奏というものに、小学生の時からふれることの貴重さに気づかされました。 (インターン/笠間瑞雄)