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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

ARCUS(アルクス) 松田拓之(ヴァイオリン)・市川哲郎(コントラバス)

子どもといっしょにクラシック
クリスマス・オーケストラ・コンサート

 華やかな気分になるクリスマス・シーズン、お子さんと一緒にオーケストラ・コンサートを体験してみませんか?

 毎年恒例の『クリスマス・オーケストラ・コンサート』は、NHK交響楽団など全国のオーケストラの奏者たちを中心に結成されたARCUS(アルクス)が、4歳以上のお子さんたちに贈る約60分のコンサート。今年で結成20周年を迎えるARCUSの創設メンバー、松田拓之さん(ヴァイオリン)と市川哲郎さん(コントラバス)にお話を伺いました。

[聞き手/文:原 典子(音楽ジャーナリスト)]

今年のコンサートは、例年にもまして盛りだくさんのプログラムですね。

松田:「物語の音楽」をひとつのコンセプトにプログラムを考えてみました。チャイコフスキーのバレエ音楽『くるみ割り人形』より数曲、グリーグの『ペール・ギュント』組曲より「アニトラの踊り」、そしてモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』と『ドン・ジョヴァンニ』の序曲は、いずれも背景に物語がある音楽です。長いオペラを全曲聴いていただくことはできませんが、物語のなかにちょっとだけ入って、楽しんでいただけたら。「この音楽は、こんな物語の一場面なんですよ」といったお話も交えながら演奏したいと思っています。


いつも松田さんがお話をなさっていますが、演奏家みずからが語りかけるスタイルがアットホームで素敵です。

松田:プロの司会者と違ってたどたどしくて申し訳ない限りなんですが、「今から演奏するから聴いてね」と言うと、子どもたちの反応も違うような気がして、自分で話しています。でも60分のプログラムにたくさんの曲を詰め込んでいるので、お話のタイム管理がとにかく大変で。演奏より難しいかも(笑)。

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楽器紹介のコーナーも楽しみです。

市川:『くるみ割り人形』は木管五重奏(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン)で演奏するので、楽器紹介も交えながら、木管楽器が活躍する曲を取り上げようと思っています。いっぽう、『ペール・ギュント』組曲より「アニトラの踊り」では、弦楽器の音色をたっぷりお聴きいただきます。


『ドン・ジョヴァンニ』序曲では、ステージに上がって、オーケストラの間近で聴いていただく体験コーナー*もありますね(小学生限定)。

市川:悪行を重ねても反省しないドン・ジョヴァンニが、地獄に落とされてしまう物語の序曲は、冒頭から迫力たっぷり。楽器から発せられる振動も、ステージ上では身体で感じることができます。


さらに後半のメインは、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」より第1楽章。この曲の聴きどころは?

松田:ヴァイオリンはメロディを歌い上げるように弾いているので、とにかく気持ちがいいです。

市川:でもその間、木管楽器はずっと細かい音を刻んでいて、息継ぎのタイミングもないほど大変なんです。華やかなメロディの裏で、じつは重労働をしている楽器にも注目して聴いてみると面白いかもしれません。

松田:ARCUSは指揮者がいないので、ヴァイオリンが好きなテンポで弾いてしまうと、管楽器の人たちから「そんなテンポじゃ吹けないよ」と怒られてしまいます。速すぎても遅すぎてもいけないし、最初に出るときの合図も大事です。


指揮者を置かないことは、ARCUSの大きな特徴ですね。オーケストラをまとめる指揮者なしで、どうやって合わせているのでしょう?

市川:コンサートマスター(ヴァイオリン)が弾いている姿を見ながら、出るタイミングや間合いを掴んだりするのですが、本当にちょっとした動きや雰囲気をキャッチしなくてはいけないので、すごく集中力が必要になります。

松田:指揮者がいるときより集中しているかも(笑)。コンサートマスターだけでなく、管楽器やチェロ、ヴィオラなどが合図する場合もあります。

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そういったひとりひとりの集中力が、自発性に満ちた、生き生きとした音楽につながっているのだと思います。

松田:ARCUSは結成当初から、それぞれ違う音楽性をもったメンバーたちが、互いに意見を出し合いながら、みんなで音楽に対して責任をもつということをいちばん大切にしてきました。たとえば弦楽器が管楽器に対して「ここはこういうふうにしてみたら?」と提案して、「じゃあちょっと試してみようか」といった感じで音楽をつくっていく。指揮者がいるオーケストラでは、まず見ない光景ですね。

市川:当然ながらメンバー同士で意見が異なることもあります。そういうときも、ちゃんと意見を言い合うことが大事。それでもARCUSを結成した20年前と比べると、衝突しないでうまく伝える方法や言い方が工夫できるようになりました。
不思議なのは、言葉だけのやり取りだと納得できないことも、実際に音を出してみると、「ああ、これもありだな」と思えたりすることもあって。それが音楽のすごいところだなと思います。


なるほど。お話を伺っていると、オーケストラは人間社会の縮図のようにも思えてきます。

松田:本当にそうですね。指揮者が交通整理をしてくれるオーケストラと違って、効率は決して良くない。時間がかかりますが、そうやって大人たちが一生懸命やっている姿を、子どもたちはキャッチしてくれるのではないでしょうか。


クリスマスを楽しみにしています!

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