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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

成田達輝(ヴァイオリン)&萩原麻未(ピアノ)

ごほうびクラシック 第15回

 11月の「ごほうびクラシック」には、ヴァイオリニストの成田達輝さんとピアニストの萩原麻未さんによるデュオが登場。公私にわたるパートナーでもあるおふたりは、ただいま4歳と0歳のお子さんの育児に奮闘中。そんな毎日の生活のなかで聴いてリラックスできるような小品を中心に組んだという今回のプログラムについて、お話を伺いました。
[文:原典子(音楽ジャーナリスト)]

20251101_interview01.jpg今日はおふたり揃ってインタビューにお越しいただきましたが、小さなお子さんの育児中だと、こういう時間も貴重なのでは?

 萩原:そうですね。最近やっと下の子の保育園が見つかって、預けられるようになりました。子どもたちが保育園に行っている間に、「いまだ!」という感じでふたりで練習したりしています。

 成田:生活のすべてが子どもたちを中心に回っていますね。

 今回のプログラムは、そんなおふたりの日々の暮らしに寄り添う曲たちということでしょうか?

 成田:メロディが美しくて、パッと聴いていいなと思える曲を直感的に選びました。ソファに寝転びながら、料理をしながら、こんな曲を聴いたら幸せになるよね、というような。クラシックでありながら、感覚的にはポップスに近いかもしれません。

萩原:子どもを産んでから、産婦人科の先生や保育園の先生、近所のパン屋さんなど、自分が生活している地域の方々との接点が増えて、そういった方々に音楽をお届けしたいと思うようになりました。クラシックに親しみのないお客さまにも楽しく聴いていただくにはどんな曲がいいんだろう? と考えながら組んだプログラムです。

20251101_NaritaTatsuki05(c)MarcoBorggreve_interview.jpg「ポップスに近い」という成田さんの感覚は面白いですね。

 成田:たとえばブラームスのソナタや、マーラーのシンフォニーとかって、食事しながらは聴けないんです。作品がもつ力があまりに大きすぎて、演奏家に求められるものが果てしなくて、人生をかけて取り組むべきもの。演奏家も聴き手も、作品そのものに意識が向くと思います。
それに比べて今回のような小品は、演奏家自身のキャラクターがにじみ出るという意味においても、ポップスに近いと言えるのではないかと。どんな生活をして、どんなことを考えているのか、私たちのありのままが投影される。小品の面白さって、そういうところですよね。

プログラムを見ていくと、ヴィエニャフスキの「華麗なるポロネーズ」第1番ではじまり、エルガーの「愛のあいさつ」、クライスラーの「シンコペーション」「美しきロスマリン」とキャッチーなメロディが続きます。

 成田:「華麗なるポロネーズ」は15年以上前からコンクールや受賞コンサートなど、いろいろなところで弾いてきました。ありとあらゆるヴァイオリンの技巧が詰め込まれていて、とても映える曲なのでオープニングにふさわしいと思って。

萩原:クライスラーはピアノパートも充実しているんですよ。今回のプログラムのようにヴァイオリンが主体となった小品を演奏するとき、ヴァイオリニストから「ソナタとかじゃなくてごめんなさい」と言われることがあるのですが、私はこういった小品をピアノで弾くのが大好きなんです。やはりピアニストのあり方によって、ヴァイオリニストの自由度も変わってきますから、やりがいを感じます。

20251101_MamiHagiwara01(c)MarcoBorggreve_interview.jpgフランスで学んだおふたりのデュオで、ラヴェルの「ツィガーヌ」を聴けるのも楽しみです。

 成田:僕の場合、はじめてフランスの地に降り立ったのがパリではなく、ラヴェルの生家があるバスク地方の小さな港町でした。ラヴェルの遺品として譲り受けた知恵の輪を練習室に飾ってありますし、自分にとって特別な思い入れのある作曲家です。麻未さんの師匠もラヴェルの孫弟子ですし、ふたりのありのままが出る曲ですね。

渋谷慶一郎さんの「On the Edge for Violin and Piano」はNHKスペシャル『臨界世界 - ON THE EDGE』のメインテーマ曲ですね。

 成田:渋谷さんご自身が、今回のためにヴァイオリンとピアノ版に編曲してくださいました。終末論的なダークさがあって、エッジがきいていて、プログラムのなかで唯一、心がざわざわするような曲です。

萩原:でもそれが番組の主題にはすごく合っていますよね。病院や保育園の皆さんも「いつも番組見ています」と言ってくださるので、生活のなかの音楽とも言えるのかもしれません。

エイミー・ビーチの「ロマンス」は、女性作曲家という側面からも近年注目度が上がっているように思います。

 成田:よく行くパン屋さんでかかっていたので入れました(笑)。ビーチは優れたピアニストでもあったのですが、作曲家としてはブラームスに憧れていたそうです。「ロマンス」でもブラームス的な書法で重厚感を出そうとしているものの、情熱が爆発しちゃっているような印象があって。愛を言葉で伝えたいけど、伝わらなかったというような。そういう未完成なところがこの曲の魅力だと思います。

では最後に、「ごほうびクラシック」恒例の質問になりますが、おふたりにとってどんな時間が自分へのごほうびになっていますか?

 成田:家族4人でドーナッツ屋さんでドーナッツをいただいて、コーヒーを飲んでいるときが幸せかなあ。

萩原:仕事が早く終わったときなどは、保育園に早めにお迎えに行くのですが、夕方に4人揃ってドーナッツ屋さんにいられるなんて、いいですよね。お休みの日なども、公園でのんびりできたりすると、すごくぜいたくな時間だなと思います。

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アットホームなコンサートを楽しみにしています!