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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

左より、イヴ・サンドゥ、マライケ・ヘフティ、レナ・サンドゥ、グスタフ・フリーリングハウス

【公演中止】アマリリス弦楽四重奏団[グスタフ・フリーリングハウス/レナ・サンドゥ(ヴァイオリン) マライケ・ヘフティ(ヴィオラ) イヴ・サンドゥ(チェロ)]

結成20年目の節目、6年ぶりの来日
古典と新作を対比させる真骨頂プログラム

 バーゼルで元ラサール弦楽四重奏団(以下Q)のレヴィン、マドリードで元アルバン・ベルクQのピヒラーに学ぶなど、20世紀末に欧州で確立した弦楽四重奏団育成システムの王道を歩んだアマリリスQは、メイジャー国際弦楽四重奏専門コンクールで入賞を重ね、メルボルン大会で優勝。以降、時流に流されぬ音楽を展開し堅実なキャリアを重ねてきた。

[聞き手/文:渡辺 和(音楽ジャーナリスト)]

今年で結成20周年とのことですが、特別な企画はあるのでしょうか。

20251018GustavFrielinghaus(c)TobiasWirth.jpgグスタフ:ふたつの柱があります。ひとつは新しいCDシリーズ。ベルリン・クラシックスと共同作業を始めました。もうひとつは、ダヴィッド・フィリップ・ヘフティが新作を書いてくれたこと。それと、東京でも演奏するハインツ・ホリガーの作品をスイスで初演したこと。


20周年に新作を演奏する理由は?

レナ:新作の演奏は私たちのミッションのひとつです。モーツァルトやブラームスなどを最新の作品と一緒に演奏するのは、両方の作品にとっても大事だと考えています。

イヴ:CDはベートーヴェン全曲録音を予定しており、その間にそれぞれに新しい作品を入れるつもりです。シリーズは「face 2 face」というタイトルで、ベートーヴェンと新しい作曲家が顔をつき合わせています。

グスタフ:最初の1枚として、ベートーヴェンの最初と最後の弦楽四重奏曲の間にバルトークの6番を挟みました。ホリガー作品もこのシリーズに収録する予定です。


ホリガーさんに委嘱した経緯をお話ください。

20251018LenaSandoz(c)TobiasWirth.jpgレナ:「最高の現代の作曲家は誰だろう、そんなの分からないよね」って、よく議論になります。あと100年経てば判断は簡単なんでしょうが。とても数学的だけど感情的側面が欠けている作曲家もいれば、突飛で感覚面ばかりの人もいる。ベートーヴェンは両面を備えていました。より深く理解していっても、感情面を見失うことはありません。良い作曲家は常に、組織化されたものと感情的なものとを求めています。ホリガーさんはそんな作家のひとりですね。

イヴ:ホリガーさんの中には何種類もの天才がいるのです。オーボエを吹きますし、ピアノもとても上手。ほぼあらゆる楽器が扱えます。そして音楽史のあらゆることをご存じ。4声部の曲でもひとりで全部歌え、四分音だって歌える。自分が書いた音の全てが聞こえ、どう響くべきか判ってる。驚異ですね。

ヘフティ:それで、まずは候補ナンバーワンのホリガーさんに頼んでみよう、ということになりました。以前に彼のオーボエ五重奏曲を初演したことがあるので秘書さんを通じて連絡をとり、「私たちのために新作を書いていただけませんか」って尋ねたんです。1、2週間して、書く意向があると連絡がありました。10曲の連作のアカペラ合唱作品があり、そこから6曲を弦楽四重奏にすることになると思うけど、ということでした。暫くしてメールが来て、「10曲全部をアレンジすることにしたよ」って。

レナ:実は、委嘱したときには、どんなに難曲になるか心配してました(笑)。だって、普通は作品を貰っても初演までに時間がないじゃないですか。ラッキーだったのは、取り上げた彼にとって特別で素晴らしい声楽作品が、ものすごく複雑ではなかったこと。耳に難解ではなく、彼の以前のクァルテットに比べると直接的な感情表現に溢れていました。


特別な曲、というのはどういうことでしょう。

レナ:前述のように、彼はまず声楽曲として書きました。作曲の最中は病院にいて、人生でも最も重い病に罹っていたそうです。シレジウス瞑想詩集という短い中世の神秘主義の詩があります。日本の俳句のような象徴的で、読む人がいろいろに考えられる。毎日、彼はそんな詩のひとつを取り上げ、それに音楽にしていった。そして回復なされ、今もご健在です。この作品が、彼が室内楽のために書いた他の作品と全く異なるのは、それが理由なのです。


楽譜には、その詩の言葉が譜面に書かれてますね。これを皆さんが歌うのですか?

20251018MareikeHefti(c)TobiasWirth.jpgヘフティ:いいえ。私たちもホリガーさんに尋ねましたよ。彼によれば、自分とすればとても重要だとのこと。弦楽四重奏ですけど、そこにテキストがある。

レナ:ホリガーさんの前で演奏しいろいろ学んだとき、彼はずっと歌っていて、言葉を用いていました。作品に関わるのに言葉を用いていました。感情的なインパクトをより明快にするためです。

ヘフティ:実際のところ、最後の第10番では私たちは歌うのですよ! 言葉とはいえハミングのようなもの。聴衆の皆さんは、ホールでその空気感を察する。


小節線がありませんが、練習ではどうするんですか。

20251018YvesSandoz(c)TobiasWirth.jpgイヴ:彼が小節線を書かなかったのは、重いダウンビートが欲しくなかったからです。浮かんでいるようで、でもリズムは正確でなければならない。

レナ:そこでまた、音符の下に書かれた言葉なんですよ。小節線がないので、言葉が私たちの手助けになるのです。

ヘフティ:あらゆる要素は雰囲気作りです。そして、いくらかの黙想。この曲は、静かに目を閉じて聴くだけでいいのです。特に最後の曲は黙想的です。

イヴ:どの曲もとても短く、大きな展開はありませんが、それぞれの明快なキャラクターがあります。


初演での反応はいかがでしたか。

ヘフティ:現代音楽には怖がりな人たちで、ああホリガーかぁ、という感じでしたけど、終演後はワォって。みんな気に入ってくれましたよ。そんな風には想定してなかったんですけどね(笑)。


第一生命ホールでも期待してます。

20251018AmaryllisQ_07(c)TobiasWirth.jpg