その他特別コンサート等 > 2010.1
モーツァルトのニューイヤー
協奏曲の午後
9割方は埋め尽くされた観客席から,曲が終わるたびに熱のこもった拍手が送られる----本日はTAN主催では初めて行ったガラコンサートであったが,その試みはおおむね好評を得たと言えるのではないだろうか。
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N響メンバーによる室内オーケストラ(コンサートマスター:山口裕之さん)と,日本を代表するソリストとの競演。演奏される曲はすべてモーツァルト。そして年末年始の慌ただしさが一段落した土曜日の午後のコンサート。なんともゆったりとした時間が流れる中,セーターなどの普段着姿の観客が数多く見られた。20代とおぼしき若者から年配の方まで,年齢層も幅広い。
プログラムの1曲目は,ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219「トルコ風」。ヴァイオリンは川久保賜紀さん。音の流れに安心して身を委ねておける,心地よい快演。そして音に華やかさが感じられる。
2曲目は,フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299(297c)。吉野直子さんのきらびやかでもあり奥行きのあるハープの表現力に,小山裕幾さんのフルートがからむ。小山さんは台頭著しい若手アーティスト。体全体でリズムをとるその姿は一瞬ポップスやロックのミュージシャンを思わせるが,ベテランの吉野さんに一歩もひけをとらない堂々たる演奏。スピード感のあるサウンドだ。
休憩をはさみ最後の3曲目は,クラリネット協奏曲イ長調K.622。赤坂達三さんのクラリネットは,あたかも一流の調理人が素材のもつ良さをそのまま引き出しているかのような,極めてピュアな音づくりだった。
一方のN響室内オーケストラは,特に中低音がとても魅力的である。横綱相撲とでも言えようか,きわめて安定感に満ちあふれている。
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このように,プログラム自体は極めて良質で楽しめるものではあったが,それでも多少の違和感がぬぐえなかった点もある。
なぜなら,TANの主催コンサートといえば,SQWのような弦楽四重奏のイメージが強く,また,積極的に新進気鋭のアーティストを紹介している印象もあるからである。それがこのホールのオリジナリティであり,たとえ少数ながらも室内楽の熱心な観客をつかんできたのではないだろうか。
そのイメージがある中で,なぜ小編成ながらもオーケストラなのか,なぜビッグネームのアーティストによるプログラムなのか,また,なぜ他の作曲家ではなくモーツァルトなのか----,残念ながら,こうした疑問を解消してくれる情報は手に入らなかった。
それでも,新しい試みは絶えず行われるべきではないだろうか。前例踏襲は衰退を生む。
新春に,「この第一生命ホールでしか聴くことのできない」ガラコンサートを,来年は期待して,やまない。初めての主催ガラコンサートにもかかわらず,多数の観客動員を果たしたのだから。
公演に関する情報
モーツァルトのニューイヤー
協奏曲の午後
日時: 2010年1月23日(土)14:00開演
出演者:川久保賜紀(ヴァイオリン)、小山裕幾(フルート)、
吉野直子(ハープ)、赤坂達三(クラリネット)、
管弦楽=N響メンバーによる室内オーケストラ(コンサートマスター:山口裕之)
演奏曲:
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219「トルコ風」
フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299 (297c)
クラリネット協奏曲イ長調K.622