630コンサート~充電の1時間~
カルミナ四重奏団と巡る音楽紀行
カルミナ四重奏団の演奏は、各奏者が弓を動かすと弦から美しい音がはじけるように出てくるのを、お互い楽しみながら聴き、弾いているようです。
630コンサートは,仕事帰りに合わせて6時半から始まるのに,少し遅れてしまいました。ホールの少し後ろ側の席に案内していただき座ると,丁度ビオラ奏者の女性演奏家が自分たちスイス人の作曲家ミュラーの曲の解説をしていました。歯切れのよいリズムに乗って演奏が始まると、ヴァイオリン、ビオラ、チェロの弦が重なり合ってホールに鳴り響き、その音の美しさにまず驚きました。シューベルトやブラームスの室内楽の曲は大好きなので、普段からよくFM放送やCDで聴いていますし、小さい室内楽向きのホールで、直ぐ近くで聴くこともありましたが、第一生命ホールのような広いホールで聴くのは久しぶりでした。弦楽四重奏の音は、シンフォニーのような色彩感でなく、モノトーンの墨絵にたとえられるようですが、艶やかで厚みのあるカラフルな音は本当に美しく感じました。
カルミナ四重奏団の演奏は、各奏者が弓を動かすと弦から美しい音がはじけるように出てくるのを、お互い楽しみながら聴き、弾いているようです。ヴァイオリンの艶やかな音も、ビオラのいぶし銀のような音も、チェロの柔らかいバスも、ホールの中で重なり合って響き渡り、自分の周りが美しい音で包み込まれているようでした。ステージからずいぶん離れていたのですが、演奏者の息づかいが伝わってくるように感じたのは、演奏の素晴らしさもさることながら、このホールの音響設計の素晴らしさによるものでしょうか。
ボロディンの曲は、いつも聴いているNHKのテーマ音楽で好きな旋律ですが、こんなにヴァイオリンの音が力強く艶やかに輝くのは新鮮な驚きでした。ヴァイオリン、ビオラ、チェロがおしゃべりしているように、互いに次から次へと引き継ぎながら、重ね合わせて進んでいくようで、その推進力が独奏では聞けないような音の輝きを感じさせるのかと思いました。
旅先で演奏会に行くのは海外旅行の大きな楽しみですが、疲れている時などつい居眠りして気がついたら拍手というのが一番の心配です。今回の世界音楽紀行は、そんな心配は無用で、スペインのトゥリーナはまぶしい光の中のトレドの街並み、ラヴェルはフランスの印象派の世界、プッチーニはヴェネチアやソレントで流れてくるイタリアの歌の記憶をまざまざと蘇らせるもので、居眠りの暇などありません。いろいろの国を鮮烈な印象を持って一時間余りで巡るというのは、何とも贅沢なことです。このコンサートを聴いた人はちょっとリフレッシュどころか、とても得した気分になって帰途についたのではないかと思いました。少し残念だったのは、もう少し聴いていたいと思ったことで、次の機会を楽しみにしたいと思います。
最後にこの演奏会のカルミナ四重奏団の出演料は全額、東日本大震災の被災地復興のために寄付されたということです。被災された方への慰めと復興支援の励ましの心が、演奏者からホールの人にも共有され、音楽で世界の人の心を繋ぐシンパシーの力を感じさせた素晴らしい演奏会でした。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート#66〉第一生命ホール10周年の10days第7日
630コンサート~充電の1時間~
カルミナ四重奏団と巡る音楽紀行
日時:2011年11月16日(水)18:30開演
出演:カルミナ四重奏団
マティーアス・エンデルレ/スザンヌ・フランク(ヴァイオリン)
ウェンディ・チャンプニー(ヴィオラ) シュテファン・ゲルナー(チェロ)