活動動画 公開中!

トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
Menu

アーティスト・インタビュー

(C)Kazumi Kiuchi

村治佳織 ギター・リサイタル/村治佳織&村治奏一 ギター・デュオ

ごほうびクラシック 第5回

 コロナ禍でこわばった心と身体をほぐして、ととのえる。開演前に客席でストレッチを行なうことでもおなじみのコンサート・シリーズ『ごほうびクラシック』も、5月でスタートから1年を迎えます。今回は、第1回にご出演いただいたギタリストの村治佳織さんがふたたび登場。【昼の部】ではソロを、【夜の部】では弟の村治奏一さんとともにギター・デュオを聴かせてくださいます。

[聞き手・文/原典子(音楽ライター)]

佳織2010年に実家のある台東区で奏一さんと演奏して以来、コンスタントにデュオでコンサートをしています。子どもの頃は父(村治昇さん)も含めて3人のファミリー・トリオで弾いたりもしましたが、大人になってからはそれぞれの活動になって。でも、もう一度フラットな気持ちでデュオに向き合うのもすごくいいなと思いました。

互いを「奏一さん」「佳織さん」と呼び合い、リスペクトし合う姉弟。お互いについてコメントを求めると、次のような答えが返ってきました。 

佳織:奏一さんは、突進型の私よりマイルドな性格(笑)。ひとつひとつを突き詰めていくタイプで、その探究心が音にも表われていると思います。魔法で包み込むような音楽というよりも、細部に神を宿らせるような求心力に満ちた音楽というのでしょうか。

20230505MurajiKaori_profile_(C)KazumiKiuchi.jpg奏一:佳織さんから"魔法"という言葉が出ましたが、僕からしたら佳織さんは本当にマジシャンそのもの。本番になると舞台全体を味方につけて、その場にいる人すべてを魅了してしまうんです。音だけでなく佇まいも含めて、"村治佳織"というひとつの世界ができ上がっているんですね。

このように性格も音楽性も対照的なふたりですが、一緒に演奏していて、なにも言葉を交わさなくてもぴたりと合うとき、「やっぱり姉弟なんだな」と感じるとのこと。【夜の部】では、これぞギターの名曲《アルハンブラの思い出》から、『ニュー・シネマ・パラダイス』より《愛のテーマ》などの映画音楽、ピアソラやトロイロのアルゼンチン・タンゴ、日本民謡のメロディが織り込まれた《ラプソディー・ジャパン》まで、多彩なプログラムでデュオならではの醍醐味を味わえます。

20230505MurajiSoichi_profile_(C)SatoshiOono.jpg奏一:ギターはメロディから伴奏まですべてを1台で表現できてしまうので、ひとりで完結しようと思えばできるのですが、ふたりで弾くときはメロディと伴奏に分かれますから、メロディを歌わせることだけに集中できるのが楽しいですね。途中で役割をスイッチしながら弾くこともできますし。

佳織:私もデュオで映画音楽を弾くときは、とくに単音の美しさを意識して弾いています。

いっぽう、【昼の部】のソロ・リサイタルには、今年デビュー30周年を迎える村治佳織さんの原点から今までを振り返るような曲たちが並びます。

 佳織:デビュー前後に弾いていた曲をピックアップしてみました。たとえばソル《ラルゴ・ノン・タント》とメルツ《ハンガリー幻想曲》は14歳のときに受けた東京国際ギター・コンクールの本選で弾いた曲。コスト《秋の木の葉Op.41-3》は時間的にちょうどいいのでテレビ出演の際によく弾いていました。30年前と同じジェイコブソンのギターで弾いているんですよ。楽器を持つと、学校から帰ってすぐ練習していたなとか、当時の情景を思い出しますね。

村治佳織さんにとって、プライヴェートでも仕事のうえでも大切な存在である「旅」と「映画」にまつわる曲たちも。

佳織:《バガモヨ~タンザニアの港町にて~》はタンザニアの思い出を綴った名刺がわりの自作曲です。人類の起源と言われているアフリカ大陸を訪れてみたくて。港町バガモヨで見た夕日の美しさと、現地の人々の優しさをすべて音に入れ込んで作りました。また、映画『ディア・ハンター』より《カヴァティーナ》は、私が映画音楽を自分の大切なレパートリーにしていくきっかけとなった曲です。クラシックに軸を置きながら、より多くの方々にギターの魅力をお伝えできるのが映画音楽だなと。

最後に、おふたりに忙しい毎日の生活のなかでのリフレッシュ法、リラックス法を聞いてみました。

奏一:仕事以外はひたすら子育てと家事の日々なので、今はリフレッシュできるような趣味がないのですが、コンサートの入っていない週末など、ギターから離れる日は必ず設けるようにしています。昔から会社勤めのサラリーマンへの憧れがあって、一時期は何時から何時までと決めて、自宅から離れた練習場所に"通勤"していました。ネクタイもちゃんと締めて(笑)。1日のなか、1週間のなかで、オンとオフはしっかりつけて生活するタイプです。OR220621_(C)OkuboMichiharu.JPG

佳織:私は逆で、その日の気分や雰囲気で、弾きたいときに弾くタイプ(笑)。でも唯一、コンサートの本番前にいつも実践しているリラックス法があって。あらかじめ数日前に、本番の日と同じタイムスケジュールで過ごしてみるんです。朝はこの時間に起きると、家を出るまでにこのぐらい余裕があるとか、ちょうど今はメイクをしている時間だなとか、事前にシミュレーションして時間の感覚を身につけておくと、本番当日も非常にリラックスして過ごすことができます。大事な試験やプレゼンの日などにも使えますから、ぜひやってみてください。

 

【昼の部】と【夜の部】の間には、ホールの近くを散策したり、アフタヌーンティーをしたり、美術館に行ったりして過ごすのもおすすめ。ギターの音色に満たされた、素敵な休日になることでしょう。