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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

林美智子(メゾソプラノ)

林美智子プロデュースの人気シリーズがついに帰ってくる!
アンサンブルで味わうモーツァルトの醍醐味

2022年3月19日・21日に第一生命ホールで行われる「室内楽ホールdeオペラ~林美智子の『ドン・ジョヴァンニ』!」にご出演頂く林美智子さんに、オペラキュレーターの井内美香さんよりインタビューして頂きました。

これまで第一生命ホールでは、林さんが日本語の台詞を書いて演出もなさるモーツァルトのオペラ《コジ・ファン・トゥッテ》《フィガロの結婚》が上演され好評を博しています。モーツァルトのイタリア語で書かれた3大オペラのうち、残る《ドン・ジョヴァンニ》は2020年3月に上演予定でしたがコロナで延期となっていました。この作品がついに、2022年3月19日(土)と21日(月・祝)に上演されます。上演にあたっての抱負をお聞かせください。どのように舞台を作っていきたいですか?

林:何よりもまず、お客さまに喜んでいただける舞台を作りたいという気持ちがあります。こんな時代でもあり、舞台や音楽が、元気になるための妙薬、生活していく上での何らかのスパイスになれば一番嬉しいんです。モーツァルトの音楽を素晴らしい会場で味わっていただきたいと思っています。願わくばお客さまが、自分たちも一緒に歌っているように感じて、《ドン・ジョヴァンニ》を"体感"していただけますように。そして私たち歌手の身体という楽器で発している生の声を聴いて、その空間を一緒に生きていただけたらと思います。

林さんプロデュースの《ドン・ジョヴァンニ》は、歌手のソロの歌(アリア)をほぼ全てカットして、日本語のお芝居と、二人以上で歌う重唱が中心になっています(イタリア語歌唱には字幕が出る)。その意図はどこにありますか?

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林:モーツァルトのオペラは何よりもアンサンブルを重視して書かれています。本当に美しいアンサンブルの曲がたくさんあるんです。日本語の台詞とアンサンブルで構成することによって、モーツァルトのドラマの世界に集中できるメリットがあります。そしてこれは、日本人が長けているアンサンブルの能力、ハーモニーの美しさを活かせる形でもあると思うのです。出演する歌手の方たちはモーツァルトのオペラを得意としている一流の方ばかり。音楽にも芝居にも経験と実績を重ねてきた皆さんで、彼らにしか出せない迫力と、無限の豊かさと楽しさが堪能できると思っています。

林さんの書かれる日本語台本は、分かりやすくて毎回とても面白いです。

林:ありがとうございます。私の台本が元になってはいますが、リハーサルの期間中にそれが立体的になってくるんです。「こうしたらいいかな?」ということがあれば、それを短時間で形にしていける人ばかりですから。

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ドン・ジョヴァンニ役の黒田博さんは役にふさわしく舞台での色気がある方ですし、その他の皆さんも適材適所ですね。

林:これは人ありきの企画なんです。《コジ・ファン・トゥッテ》の時から主要メンバーは同じで、皆さんが引き受けてくださっているのが本当にありがたいです。黒田さんはこれまでモーツァルトのオペラの様々な役を演じてこられて、《ドン・ジョヴァンニ》に関してもレポレッロやマゼット役も経験されています。私もこのオペラを初めて歌った時はツェルリーナ役でしたが今回はドンナ・エルヴィーラを歌いますし、他の方もそういう場合が多いのです。皆さん、自分が主役にもなれるし、脇にも立てる人ばかりです。レポレッロの池田直樹さんは演劇の舞台もたくさん踏まれて、声も存在感も素晴らしいです。アーティストの心の成長や、人生を歩んできた視野の広がりや変化などは、音楽や声そのものにも反映されると思います。ですから皆の、今だからこその充実した響きを聴いていただきたいですし、演出する時にもそれを引き出せたらなと思います。

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ご自身が歌うドンナ・エルヴィーラはどのような女性だと思いますか?

林:ドンナ・エルヴィーラは最後まで諦めずに、ドン・ジョヴァンニを改心させようとします。でもドン・ジョヴァンニも自分の信念を曲げません。このオペラは悲劇性と喜劇性の両方が色濃く出ているのが特徴で、ドン・ジョヴァンニにも二面性がありますが、彼がどんな人であろうとドンナ・エルヴィーラは諦めません。自分を貫き通して譲らないドン・ジョヴァンニに対してドンナ・エルヴィーラは同意や賛成、共感はなくても、自分を貫く精神性という意味では、実はドン・ジョヴァンニにすごく近いんです。だからドンナ・エルヴィーラは彼に惹かれるのだと思います。

今回の《ドン・ジョヴァンニ》では騎士長役を歌う歌手の方が3人いるのが特徴です。日本のバス歌手の第一人者である妻屋秀和さんと若手の後藤春馬さん、山田大智さんが出演します。なぜ一つの役を歌うのに3人の歌手の方が?

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林:これは第一生命ホールで上演させていただけるということで思いついたんです。妻屋さんを中心に素晴らしい若手のお二人にも出演していただくという贅沢が実現しました!騎士長は〈正義としての神〉のような絶対的な存在として、様々な方向からドン・ジョヴァンニの前に出現します。結局どこにいても何をしていてもお天道様は見ているというか、その人の言ったこと、やったことは消せないし、ドン・ジョヴァンニの中にも、自分が犯してしまったことへの意識が常にあるのではないでしょうか。

オーケストラの代わりにピアノを奏でるのはオペラ演奏のエキスパート、河原忠之さんです。

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林:河原さんは唯一無二の存在と言ってもいい方です。まず歌が大好き。とにかく歌を愛してくださる。良い伴奏者、素晴らしいピアニストは他にもたくさんいらっしゃいますが、何よりも歌が好きという方だからこそなし得る演奏といっていいと思います。もう長くお世話になっています。

皆さんの一丸となった素晴らしい演奏を聴かせていただけそうです。公演を楽しみにしております!

※ステージ写真は、2018年3月「林美智子の『フィガロ』!」より