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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

©Caroline Doutre TRANSART LIVE

ネマニャ・ラドゥロヴィチ

音楽のある週末 第15回
ネマニャ・ラドゥロヴィチ無伴奏ヴァイオリン・リサイタル

長年バッハとイザイの無伴奏作品とともに歩んでいる
ネマニャの“いま”を聴く

セルビア出身で、現在はフランスを拠点に国際舞台で幅広い活動を展開しているネマニャ・ラドゥロヴィチは、7歳のときに恩師から絶対音感があるといわれ、ヴァイオリンを始めます。これまで3人の先生に師事していますが、それぞれの先生からその時期に適した教えを受け、音楽を熟成させてきました。

「先生たちは技術と音楽性に関してていねいに教えてくれたけど、もっとも印象に残っているのは音楽する心、演奏する喜びを教えられたこと。人生で何が大切か、人生をどう切り開いていくべきかを教えてくれたんです」

セルビアは長年戦争に巻き込まれ、音楽教育が困難な時期もありましたが、ネマニャはその中でも勉強を続け、家族とフランスに移ってから本格的な演奏活動を開始します。

「僕の祖国は音楽が大好きな人ばかり。特有のリズムに彩られた民族音楽も盛んに演奏されています。僕のネマニャという名前は、11世紀の王族の名に由来しているんですよ」

そんな彼は8歳のころからJ.S.バッハとイザイの無伴奏作品を愛奏してきました。いまでは完全に音楽が身体の中に入っているため楽譜を持ち歩くことなく、自分の中で熟成させ、新たな音楽として蘇らせています。

「モットーは音楽に命を吹き込むこと。作曲家がひとつひとつの音に託した思いを彫刻のように掘り下げていき、美しい彫像を作り上げる。楽譜に書かれた音符を立体的な音楽として構築させていきたいんです」

ここ数年、ネマニャはバッハとイザイの無伴奏作品の演奏に集中し、各地で演奏にかけ、そのつど聴衆の反応を見てさらに磨きをかけ、肉厚で深遠な音楽として奏でています。

「これらの作品は弾けば弾くほど味わいが深くなり、その探求は終わりがないように感じられます。いまは両作曲家の音楽が自分に語りかけ、僕の身体の中を貫いていくような感覚を抱いています。それを全身全霊を傾けてステージで演奏し、聴衆のもとへと届けたい。僕が自分のすべてを音楽に捧げることで、聴いてくれる方たちもそのすばらしさを自然に受け取ることができるのです」

彼はロングヘアと皮のパンツという個性的な姿で登場し、身体をしなやかに反らしながら演奏します。そして天使のような純粋無垢な音から悪魔的な情熱で劇的な音まで、変幻自在な音楽を自由闊達に奏でます。長年磨き上げてきたバッハとイザイ、ネマニャが創造する新たな響きを全身で受け止めましょう。

[聞き手・文/音楽ジャーナリスト 伊熊よし子]