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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

Hiroshi Takaoka

中村紘子

音楽のある週末 第7回
中村紘子 ピアノ・リサイタル

第一生命ホール10周年記念オープニング公演は、中村紘子ピアノ・リサイタル。
デビューから50年以上にわたって第一線で活躍を続ける中村紘子さんにお話を伺いました。

ピアノをよくご存じの方にも、あまり聴かない方にもご満足いただけるように

晴海に移った新しい第一生命ホールは、今年おかげさまで10周年を迎えます。以前、日比谷の第一生命本社ビルにあった旧第一生命ホールでも演奏してくださっていますが、覚えていらっしゃいますか。

中村:ええ、1960~70年代当時は、約600席というあのくらいのサイズのホールは少なかったので、貴重でしたね。社屋の中にあったので、楽屋口が少し分かりにくくて、独りで帰ろうとして迷ったこともありました(笑)。今の第一生命ホールは、コンクールの審査などで伺ったことはありますが、演奏するのは初めてです。昔のホールと雰囲気が違いますけど、とてもいいホールですね。

今回のプログラムはどうしましょう? (実はインタビュー時まだ決まっておらず、その場で実際にピアノに向かい、楽譜を見ながら、色々と弾いて決めていただきました)

中村:第1部、まずはバッハのパルティータ第2番でドラマティックに始まるのはどうでしょう。ちょっと瞑想的だから、次は活気のあるもので、ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」を。休憩をはさんで第2部は、シューベルトの4つの即興曲。ここまでは非常にオーソドックスで、後半はラフマニノフでいきましょう。チャイコフスキーの子守歌をラフマニノフが編曲したこの曲は、複雑な曲であまり弾かれないのだけど、すごくいい曲なの。それからラフマニノフの舟歌。ちょっとロマンチックでいいでしょう? 2曲とも高級なアンコールピースです。最後はダイナミックに「音の絵」作品39-9で。難しいけどいい曲ですよね。ラフマニノフをこんな風にまとめて弾いたことはないので、いいプログラムかもしれません。もっと色々と演奏したいものもあるのですが、自分が余裕をもって弾けるものでないとね。やはり場数を踏んでいる方がいい演奏ができるものなのです。若いころに弾きこんでいて、しばらく弾いていない、フレッシュな気持ちで向かい合えることも大事です。

ピアノを習っているお子さんやピアニストを目指す方にアドヴァイスをお願いします。    

中村:とにかく第一級の生の演奏に触れることが、何よりも音楽を好きになる一歩。反対につまらない演奏をいくら聞いても好きにはなりませんから。手を鍛えることよりも、耳を鍛えること。小さい時ほど、ピアノに限らず、オーケストラなど色々な生の音楽をたくさん聴いて、音楽の豊かな表現をじかに体感することですね。
例えば、多くの素晴らしいピアニストを輩出したソ連時代のモスクワなどでは、いい演奏をする同世代の子どもたちや先輩がまわりに大勢いたので、その中で耳を養っていたのですね。本当にいい音楽を聴くということが、ピアノ上達の一番の近道かもしれません。(プロを目指す方は)1曲でも多くレパートリーを増やして、「若いのに良く弾くな」と思われているうちに、早く世界に出ることですね。それからどう成長するのかというのは、また問題ですが。やはり最終的には物思いの深さが聴き手に感動を与えるのです。

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話題が豊富で、ユーモア溢れるおしゃべりには思わず聴き入ってしまいます。一方、プログラムを決めるために一旦ピアノに向われると、短いフレーズを弾くためにも真剣勝負。「ピアノをよくご存じの方にも、あまり聴かない方にもご満足いただけるように」と第一生命ホールのために考え抜かれたプログラムにどうぞご期待ください。
[聞き手/文 田中玲子]