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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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レポート

基本情報

日時 2018年2月2日(金)9:40~10:25/10:45~11:30
出演 弦楽四重奏【松原勝也/今高友香(ヴァイオリン)、岩下恵美(ヴィオラ)、福原明音(チェロ)】
概要 実施会場:中央区立中央小学校 音楽室
対象者:小学校4年生1クラス、5年生1クラス
人数:4年生25名、5年生20名  計45名
助成等:文化庁「平成29年度劇場・音楽堂等活性化事業」

レポート

【プログラム】
・村井邦彦:翼をください(弦楽四重奏版 編曲:松原幸広)
☆楽器紹介 
☆4つの楽器の音が重なるハーモニーを聴いてみよう

・ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調 より1楽章
☆4つの楽器の音が重なるハーモニーを聴いてみよう
☆音楽の中に「気持ち」を感じてみよう
☆音楽の中に「景色」を感じてみよう
☆音楽の中に「天気」を感じてみよう
☆ラヴェル: 弦楽四重奏曲 ヘ長調 より1楽章 を自由に想像して聴いてみよう

【レポート】 

◇1曲目『翼をください』
 
●自分たちの知っている曲が弦楽四重奏という形で響き渡り、みな聴き入っていた。 この1曲で、音楽室の雰囲気が一変したのを体感した。
●演奏者の息遣いまでが伝わってくるような近さでの演奏は、子どもたちの心を一瞬でつかんでいた。
●特に5年生は、引き込まれて聴き入っているのが伝わってきた。そして、演奏家の方もその雰囲気に呼応して演奏しているのが伝わってきた。聴く側、演奏する側両方がいい反応を作り出していた気がする。

◇楽器紹介

●(4年生)ヴァイオリンは知っている子が多かった。チェロ、ヴィオラも楽器の名前はすぐに挙がった。
●(5年生)昨年もアウトリーチで弦楽四重奏を聴いていたということで、楽器の名前はもちろん、弦の本数、ヴァイオリンの弓に馬のしっぽの毛が使われていることもしっかり覚えていた。楽器の大きさによる音の高低の違いも、よく理解していた。5年生は、昨年に続いてのアウトリーチということで、楽器のことをよく覚えていた。アウトリーチが根付いているのを感じられる場面だった。
●第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、4つの楽器が順々に重なっていくパートは、次第に音に厚みが出てハーモニーが生まれるのを体感できた。子供たちも「ハモっていた!」、「最初はヴァイオリンの高い音だけだったのが、ヴィオラとチェロの低音が入って支えになっていた」、「ピースが集まっていく感じだった」など、それぞれ感じ取っていた。

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◇ラヴェル『弦楽四重奏曲 ヘ長調より第1楽章』

◎まずは、曲の一部を、そのままの状態で聴き、続いて、目を閉じて聴いた。

●そのままの状態での感想は、4年生は「映画に出てくる音楽みたいだった」、「早くて怖かった」、5年生は曲を聴いての感想だけでなく、「第1ヴァイオリンがメインを弾いているときは第2ヴァイオリンがリズムを刻んでいた」など、各楽器の役割をよく観察していた。
●次に、目を閉じて聴くと、各人が自分なりのイメージを描きながら聴けていた。かなり具体的なシーンや風景を思い描いている子もいた。
●目を開けたまま演奏を聴くと、楽器や演奏者が目に入ってきて、目からのその情報が曲に反映されて聴いている。一方、目を閉じて聴くと、そこから解放されて、自分なりのイメージを描いて自由に聴くことができると、自分も実際にやってみて感じた。また、子どもたちの自由な発想がおもしろかった。

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◎曲のある部分を聴いて、音楽の中に「気持ち」/「風景」/「天気」を感じてみよう

● 「気持ち」は、4年生のみ。音楽を聴いて何らかの気持ち・感情は生まれていたと思うが、言葉で表現するのは難しかったようだ。
●「風景」も、4年生は少しイメージしにくかったようだ。「ギリシャ神話みたい」、「陽が沈んだ海」、「お花畑が暗くなっていく」などの意見が出た。
●5年生は、バラエティ豊かな風景の描写が出てきた。「ジブリ映画のワンシーン」、「美女と野獣に出てくるお城」、「お姫様と身分違いの恋の物語」、などなど。一人一人がオリジナリティあふれる風景を頭に描き、さらにストーリー仕立てにしている子もいてその発想力の豊かさに驚かされた。同じ曲を聴いているはずなのに、二十人いたら感じ方は二十通りあるんだな、と実感した。
●「天気」は、4年生は「台風」、「激しい雷雨」、「ヒョウ」、「大嵐」など激しい天候を挙げる子が多かった。ちょうど窓の外から雪が降っているのが見えたせいか、「雪」という意見も出た。5年生も「嵐」という意見もあったが、全く逆の「太陽がギラギラ照りつけている感じ」や、「暗闇から光が差し込んでくる感じ」という、太陽・光を感じた子もいた。また、「心の天気の移り変わり」という意見も出て、一同「そう来たか!」とはっとさせられた。
●「気持ち」や「風景」を感じながら聴いてみるという体験をして、子どもたちの顔つきが変わった。身を乗り出して、体全体で音楽を感じようとする姿も見受けられた。うまく言葉では表現できなくても、どの子も“何か”は感じてくれていたと思う。5年生は、個性あふれる意見がたくさん出て、感性の豊かさに驚かされた。
コンサート会場ではなく非常に近い距離で演奏が聴けたので、目を閉じて聴いていても、迫力や息遣いがひしひしと伝わってきて、だからこそ、いろいろなものを感じながら聴くことができたのだと思う。

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◎第1楽章全部を通して聴いてみよう

●約8分の曲だったので、4年生は最後少し飽きてしまっていた子もいたようだ。
ちょうど当日雪が降っていてその様子が窓から見えたが、曲が激しくなるところで雪の降りも激しくなり、穏やかな曲調の場面は雪も穏やかになることに気づいた子がいて、途中からみんな雪も様子が気になっていたようだ。「音楽が雪を操っていた」という名言(⁈)も最後に飛び出した。まさかラヴェルは雪をイメージしながらこの曲を書いたわけではないと思うが、雪の日に聴くと雪が曲とマッチしてくる気がするから不思議。子どもたちにも、“雪”の印象が強く残ったのでは?
●5年生は雪が止んでいて“雪”に引っ張られることもなかったし、非常に集中して聴いていた。長い、難しい、よくわからない、などのネガティブな感想は全くなく、一人一人が自分の世界に没頭して真剣に聴いていた。その想いが演奏者にも伝わって、演奏者側もさらに情熱を持って弾いているのがよくわかった。
5年生は、みんなが「自分だけの世界」に入って聴き入っていた印象。目を閉じて聴いている子が多かった。
●音楽は、作曲家やその曲の背景や意図などを知らないまま、自由に自分が感じたように聴いていいんだ、こんな楽しみ方があるんだと、実感できたと思う。

◇(全体を通して)

●リハーサル時は、進行の部分で若干苦戦している様子が見受けられたが、本番では子どもたちの反応がたくさんあり、また臨機応変な対応もできていて非常によい流れになっていたと思う。

●「翼をください」はなじみ深い曲だが、「弦楽四重奏 ヘ長調」は、長いし、初めて聴く曲だろうから飽きてしまうのでは?もう1曲も、子どもたちが知っていて、リズムに乗れるような曲の方がよいのでは?と思ったが、知らない曲を先入観を持たずに聴くことによって、自由なイメージで聴くことができたんだと思う。これも音楽の楽しみ方の一つなんだと子どもたちも実感できたと思うので、とてもよいプログラム構成だったと思う。45分があっという間だった。

サポーター水野 美紀子 観察レポートより

プロフィール

松原勝也  Matsubara Katsuya(ヴァイオリン)
東京藝術大学在学中に安宅賞受賞。ティボール・ヴァルガ国際コンクール、クライスラー国際コンクール等で上位入賞。1989年~98年まで新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを務める。ソリストとして新日本フィル、東京フィル、東響などと共演。2001年よりNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール主催の若い演奏家のための弦楽セミナー《アドヴェントセミナー&クリスマスコンサート》を、2011年より《室内楽アウトリーチセミナー》をプロデュース。第17回中島健蔵音楽賞、第55回文化庁芸術祭新人賞受賞。静岡AOIレジデンスクヮルテットメンバー、長崎OMURA室内合奏団アーティステックアドヴァイサー、霧島国際音楽祭講師、東京藝術大学音楽学部教授。
今高友香  Imataka Yuka(ヴァイオリン)
桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部卒業。現在同大学院音楽研究科修士課程1年在籍。第64回全日本学生音楽コンクール東京大会第2位。第16回大阪国際音楽コンクールリサイタルコース第2位。第20回日本モーツァルトコンクール奨励賞。第17回平和堂財団芸術奨励賞受賞。第36回草津国際音楽アカデミー音楽監督賞受賞。サントリーホール室内楽アカデミー第4期生。これまでに、木村恭子、室内楽を磯村和英、漆原朝子、徳永二男、銅銀久弥、藤井一興、毛利伯郎、山崎伸子の各氏に師事。現在、辰巳明子氏に師事。
岩下恵美  Iwashita Emi(ヴィオラ)
桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学を卒業。現在、桐朋オーケストラ アカデミーに在籍。洗足学園音楽大学演奏補助要員。第59回東京国際芸術協会新人演奏会出演。第11回ルーマニア国際音楽コンクール入選。別府アルゲリッチ音楽祭、ヴィオラスペース、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンにオーケストラメンバーで出演。ジュニアフィルハーモニック・オーケストラ卒団。これまでにヴァイオリンを久保良治、齋藤真知亜、玉井菜採、ヴィオラを江戸純子、佐々木亮、室内楽を徳永二男、藤原浜雄、バロックヴァイオリンを若松夏美各氏に師事。
福原明音  Fukuhara Akane(チェロ)
桐朋学園大学音楽学部チェロ専攻卒業。同大学研究科修了。
2001-02年ドイツ、ハノーファーに滞在中deutscher musikrat jugend musizirt室内楽部門第1位受賞。第32回鹿児島県高等音楽コンクール金賞、並びに最優秀賞を受賞。第59回南日本音楽コンクール弦楽部門優秀賞及び、準グランプリ受賞。 2012-13年いしかわミュージックにてジャン・ワン氏のマスタークラス受講。洗足学園音楽大学演奏補助要員。