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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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レポート

基本情報

日時 2018年1月15日(月)10:40~11:25/11:35~12:20/13:35~14:20
出演 田村緑(ピアノ)
概要 実施会場:月島第二小学校 第二音楽室
対象者:4年生3クラス
人数:89名
助成等:文化庁「平成29年度劇場・音楽堂等活性化事業」

レポート

【プログラム】

~アウトリーチ導入~

モーツァルト(木下牧子編曲):きらきら星

~折紙ワークショップ~

組曲「展覧会の絵」より<プロムナード(1)><プロムナード(4)>

<死者とともに死者の言葉をもって(プロムナード6)>を聴きながら、折紙ワークショップ

~コンサート~

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」より

♪ プロムナード(1)

♪ こ び と

♪ プロムナード(4)

♪ 卵の殻をつけたひなどりの踊り

♪ 死者とともに死者の言葉をもって(プロムナード6)

♪ バーバ=ヤガーの小屋

♪ キエフの大門

*お昼休みに3クラス合同で、絵本「スイミー」の音楽と朗読付きコンサートを実施

【レポート】 

コンサートが始まり、最初に田村さんが「きらきら星(木下牧子編曲)」を演奏しましたが、児童たちは何の曲か少々分かりにくいようでしたが、その後、きらきら星の音階で演奏すると直ぐに分かったようです。そしてこの曲が240年前パリで流行したヒットソングであることも教えた所、皆は歴史的な背景を初めて知ったようでした。こうしたやり取りで田村さんは「クラシック音楽」の概念を児童たちに教えました。意外と今でも良く歌い、聴いている音楽の中にも「クラシック音楽」がベースにあることを知ることが出来て、「クラシック音楽」を身近に感じ興味を持つことが出来たと思います。

次にムソルグスキーと友人の画家ハルトマンの人物画を見せましたが、皆はほとんど知りませんでした。両人とも売れない作曲家と画家であったことや、後にハルトマンが亡くなって残された400点の絵画の展覧会が開催され、ムソルグスキーは悲しみの中10点を選び2週間で絵画に対して作曲したことを話しました。これらの曲の作曲背景は無論皆は知らず、またその作曲期間の短さに一様に驚いていましたが、但し多くの児童たちは「展覧会の絵」の曲名もほとんど知らない様子でした。そこで、田村さんは先ずこの組曲の冒頭の「プロムナード」を演奏してみると半数位がその旋律を聴いたことのある顔をして頷いていました。皆はその作曲背景を知って、さらにCM等で聴いている旋律を聴いたことでこの曲への興味がより湧いたのではないかと思います。

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次に、絵のない「プロムナード」6曲を加えた全16曲の「展覧会の絵」の組曲全体の題名を一覧表で見せました。しかしながらこの全曲を演奏すると約34分位もかかるので、この中から田村さんが7曲を選び今日は「月島第二小学校バージョン 音楽美術館」として演奏するので、その中の絵のない「プロムナード」3曲を聴いて皆で一緒に「音楽を聴いて折紙で作品を作るワークショップをしましょう」と話しました。皆は絵のない曲に自分達の色紙で作品を作ることを聞き、吃驚するとともに期待も膨らんだと思います。私が体験した今までのアウトリーチでは、演奏家の方から曲想の話、色や鳴き声、風景等を見せるなど、聴き手側は受動型でしたが、逆に聴いた側から直感で色を選び音楽を表現するような能動型は初めての試みなので、私自身その新鮮な方法に非常な興味を覚えました。

早速、長調の「プロムナード(1)」の勢いのある明るい演奏を聴きながら、先生も加わり配られた15色の折り紙の中から直感で1色を選ぶ作業が始まりました。田村さんに促されて皆も迷いながら1色を選び、真ん中のテーブルの上のマス目のあるボードへ各自置いていました。中々決まらない児童やさっさと決める児童等各自の行動が見られました。3クラスともこの演奏に対しては明るい色のピンク・オレンジ・黄色が多かったです。1色を直観で選択することはやさしいようにも見えますが、意外と迷うと思っていましたが、児童たちは決めるのは割合早かったです。

次に、短調の「プロムナード(4)」の1曲目に比べて少し沈んだ曲想の演奏に対して2色の折り紙を使っての作業です。こちらは全体には暗い感じの演奏でしたので、黒色・灰色・紫色等が多かったです。

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最後は短調の「プロムナード(6)」で題名通り「死者とともに死者の言葉をもって」はムソルグスキーと死後の友人とが語り合う、全体の曲の中での鍵となる曲です。低音は段々沈んで行き、高音はきらきら光る星の様なプロムナードをベースにしたこの2音が交わるような曲想で幻想的な演奏です。今度は3色以上、好きな色を好きなように貼ってくださいと説明があると、みんな「わ~」「え~」と声をあげて真剣に取り組んでいました。

後で考えると本当に短時間での作業でしたが、その出来上がりの作品を見ると、音で感じたことを各自が折り紙へ込めているのが良く分かりました。各作業の終了後、トリトンアーツのスタッフやサポーターによって各色紙作品がボードへ糊付けされました。

ワークショップが終了し、スペシャルコンサートの為、ピアノの前に3列に椅子を移動し座り、「展覧会の絵・月島第二小学校バージョン」の4枚のハルトマンの絵画と3つの折紙作品を交えて7曲の演奏を聴きました。「プロムナード(1)」~「こびと」~「プロムナード(2)」~「卵の殻をつけたひなどりの踊り」~「プロムナード(6)」~「バーバ=ヤガーの小屋」~「キエフの大門」

最初に田村さんから各絵画の(例えば、卵の殻をつけたのはバレエをイメージしてとか、バーバは魔女で子供を食べるとか)説明を聞いていましたので、児童たちがとても興味深く絵画も見たりしながら、聴き入っていました。折紙のワークショップをしたり、ハルトマンの絵画の説明を聞いた後なので、より絵画にも興味を持って真剣に演奏に聴き入っていたと思います。私には田村さんのクリアーな音での渾身の演奏は、聴いていると時空を超えてムソルグスキーの時代にいるような感じに襲われました。この感覚は児童たちも同様だったのではと思います。

そして、最後の「キエフの大門」での田村さんの激しく渾身の熱演に呼応して、ワークショップで作業した「プロムナード(1)・(4)」が左右の門柱となり「プロムナード(6)」が門頭となる見事な壁門として、クライマックスの演奏に合わせてスタッフによって門が徐々に立ち上がって行き完成しました。ダイナミックなこの曲の醍醐味を聴覚、視覚の両面から訴え、各クラスのワークショップでの「音が色へ」の表現が見事に集大成されて行くさまを見ることができました。児童たちは「音から色の想像」の達成感の喜びと、音楽美術館の意味も理解したと思います。各自の創作作品を見ると、同じ曲を聴いてもみな感じ方の違いがあることを知ることも出来たと思います。

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各自の音の感じは夫々に違っていますから、それを感じた色での表現(ミクロ)も違って当然ですが、最後に出来上がった集大成としての壁門(マクロ)を見ると個々(ミクロ)が統一され収斂されていく不思議なメカニズムを私は感じました。しかし、このバラバラを統一したのは田村さんの綺麗な音と迫力のある演奏が直接皆の心に響いたからです。

昼休み中には、音楽の先生の朗読と田村さんの演奏で「スイミー」の絵本を鑑賞しました。

また、アウトリーチ後にはこの素晴らしい「音を色で想像する」創作壁門3クラス分を音楽室の出入口廊下の壁に合うように制作しつりさげました。

1クラスずつの壁門がさらに3クラス合同の壁門になりました。

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<まとめ>

・この能動型アウトリーチは①田村さんのしっかりした目標に基づく企画、②音楽の先生そしてトリトンアーツスタッフ及びサポーターのサポート、③真剣で真摯に取り組んだ各クラスの児童たちと担任の先生、の三拍子そろった素晴らしいワークショップを通じて、児童たちに聴覚と視覚でこの曲を知ってもらえる成果が得られました。

・今回は最後の壁門の完成はそれまでの受動的参加型から進んで、「クラシック音楽」を聴くことから自ら感じたことを折り紙を通じて表現する能動的参加型でした。更に創作作品として完成品を目の当たりにすることでこの曲をより身近に感じ、知ることができたと思います。

・この壁門を見るたびにこれを創作した児童たちは心の中に深くこの曲が印象として残ると思います。

・私は曲の伝え方や知ることの手段として曲想を話すこと、聴くこと、歌うことを双方で参加することだけでなく、「クラシック音楽」の特に聴き手側が楽しみ、知るための双方向の方法がまだまだあるのではないかと、初めて今回の様なアウトリーチをサポートすることで勉強になりました。

サポーター柴崎康久 観察レポートより

プロフィール

田村緑(ピアノ)  Tamura Midori,piano
東京都出身。桐朋女子高校音楽科を卒業後、英国財団の奨学金を受け渡英。ギルドホール音楽院ピアノ科首席卒業、シティ大学院音楽部演奏学科修士課程修了。パフォーマンスフェロー(特別研究員)としてギルドホール音楽院に勤務。インターカレッジ・ベートーヴェン・ピアノコンクール第1位ほか、数々の賞を受賞。BBCテレビ・ラジオ出演、ヨーロッパや中近東への演奏活動を行う。
帰国後、その躍動感に満ち、情感あふれる演奏スタイルと、在英経験を活かした独創的プログラムが注目され、全国各地でコンサート活動を行う。2007年度トリトン・アーツ・ネットワーク(第一生命ホール)と共に日本音楽財団助成による画期的モデル事業を実践。2009年度~10年度(一財)地域創造公共ホール音楽活性化事業・応用プログラムにて、福岡県直方市のユメニティのおがたと“ピアノコンサートに繋げる連続ワークショップ・連続アウトリーチ”を共同プロデュース。2015年度 三重県文化会館 アーティスト・イン・レジデンスとして三重県内に35日間滞在し多彩なプログラムを展開。
音楽を楽しめる体験とするために、様々な手法を生み出すピアニストとして貴重な存在である。アウトリーチの分野では先駆者的存在。後進の育成にも力を注いでいる。
第34回ステージラボ奈良セッション・自主事業音楽コース・コーディネーター。
平成26・27年度アウトリーチフォーラム岐阜セッション・コーディネーター。
(一財)地域創造・公共ホール音楽活性化事業・協力アーティスト。
いわき芸術文化交流館アソシエイトアーティスト。NHK-BS「ぴあのピア」出演。
CD「田村緑 魅惑のピアノ名曲集」「展覧会の絵」ほか。