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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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レポート

基本情報

日時 2017年1月18日(水)10:40~11:25/11:30~12:15/13:35~14:20
出演 中川賢一(ピアノ)
概要 実施会場:中央区立有馬小学校音楽室
対象者:小学4年生(1組:28人、2組:28人、3組:27人)
人数:合計83名
助成等:文化庁「平成28年度劇場・音楽堂等活性化事業」

レポート

今回のプログラムはピアニスト中川賢一さんが企画した、各組約45分間のアウトリーチコンサート。クラシック音楽のピアノ演奏を身近に聴いてもらい、そして、中川さんの歯切れのよいトークとわかり易い演出で普段知ることができない「ピアノの仕組み」を楽しく実感し、一層クラシック音楽に興味と親しみを持てるように緻密で充実した45分間のプログラムです。

有馬小学校は日本橋箱崎町の東京シティバスターミナルの近くの高速道路の真横にありますが、外部の車両の行き交う騒音は二重窓の十分な防音でほぼ皆無の響きの良い音楽室でコンサートは行われました。
4年生は全3組で、1組28名、2組28名、3組27名と各クラス毎に3回実施します。

まず教室に入って来た4年3組の児童達はピアノの方に向かって床に座りました。
ピアノは大屋根も譜面台も外して音楽室の中央に用意されていました。

中川さんが入場し、先ず1曲目*ムソルグスキー:「展覧会の絵」よりプロムナード* を演奏をしました。
多くの児童がこの曲を聴いたことがありましたが、作曲者名はほとんどが知りませんでした。そこで、中川さんがチャイコフスキー「白鳥の湖」の冒頭メロディーを演奏すると、児童達はよく知っていました。作曲者のムソルグスキーはチャイコフスキーより1歳年上でこの曲は友人画家が描いた絵を観てそれぞれに合わせて10曲を作曲し、まとめて組曲になっていることを説明しました。

次に、ロシアからフランスのパリに移り100年前の音楽 2曲目*ドビュッシー:アラベスク第1番* を紹介します。この曲名は「アラビア風の」という意味で、当時はアラビアから多くの唐草模様の絨毯(カーペット)が輸入されていて、そのもにょもにょとした模様と同じようなイメージで作曲されたことを説明しました。さらに1曲目とは違いメロディーがはっきりしない混沌としている点を説明し、そこで、中川さんがこの演奏を皆で自由に色々な場所で聴いてみましょうと言いました。このころになると児童達は最初の緊張からもほぐれリラックスしてきました。
男子は先を争ってピアノの下に潜ったり、ピアノの周りに立ったり、一部の女子はそのままの場所に座ったりして聴いていました。演奏終了後、中川さんが皆にどんなように感じたかと尋ねました。中川さんは演奏する時はピアノには歌詞がありませんから、一音ごとに「この音は緑色」とか、「この音はレモンの香りがする」とか、「森にいるような」など色々なことを一音一音に意味を込めて弾いていることを話しました。
でも、「それぞれが音を聴いて全く違った感じを受けて構わないのですから、自由に音を感じて聴いていい」ということの大切さを教えました。弾く方は作曲家の意図や曲想を自分の解釈で考えながら音に意味を込めて打鍵しますが、それに対して児童達は伝わって来る音を聴いて自分で考えるので感じ方が違って当然です。このことは弾く方の曲に対する意図が児童達には同じように感じるとは限りません。

さらに、3曲目*ドビュッシー;月の光* の演奏に入る前に、この曲想は湖面に写しだされる月の形は真丸ですが、風が吹き湖面が波立つと形が壊れて、そして風が止むともとに戻るというイメージで作曲されたことを話しました。
そこで、月夜の雰囲気を出すために蛍光灯を消灯しカーテンを閉め暗くし、そして中川さんはこの雰囲気に合わせて問題がなければ床に寝転んで目をつぶって皆さん聴きましょうと言いました。全員は、仰向けやうつ伏せで、人気のあるピアノの下に潜り寝転がり聴いていました。

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演奏後、中川さんが本当にウトウトとして、一瞬でも寝入った人と尋ねたところ3~4名ほど手を挙げたので、それは演奏家にとってとっても「うれしい」と言われ、曲の楽しさ、美しさや悲しみを自分の思うように感じ身をゆだねて音を感じることも教えました。
特にピアノは弾く方の指で打鍵された音は音楽空間の振動となってしまいますので、弾く方が空間に振動した音色と響きをコントロールすることは不可能です。だから中川さんが「うれしい」と言ったのは、演奏家と寝入った児童については意図が合致し心から感じたことにお礼されたのだと思います。

児童達に2つの正反対のメロディーや本当に浸れる美しいピアノ演奏を聴いた後、ピアノがコンサートホールいっぱいにでも響く音の作り出す仕組みを教えるコーナーへ移りました。

ここからは *ピアノ紹介コーナー* の始まりです。
先ず、児童達に中川さんを囲むように集まってもらい、中川さんがピアノにはコンピューターが入って音を出しているのではありませんよと言いながら、手品をするように布を外し「アクションモデル」を見せました。それは鍵盤を打鍵するとシーソーとテコの原理の応用でハンマーのフェルトを叩き弦を振動させる模型で、興味津々で説明を聞き、その動きを食い入るように見て全員が複雑な仕組みを知り、さらに、鍵盤の側面に模型を裏向けてみせると児童達はピアノの中にこの仕組みがあることを理解しました。

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次いで、ハンマーが何でできているか質問すると、プラステックとかアルミ等々色々な答えが出ましたが、最後に一人の男子児童が羊毛と答え当てました。
そしてピアノは88の鍵盤があるので、この構造が88個ピアノの中に入っていることを教えました。

さらに、ここから先は普段見ることがないピアノの内部を見せる為、調律師さんに手伝ってもらいます。調律師さんは、前面のブロックや支えの木々を実際に取り外し88鍵のアクション部分を取り出し机に置きました。その手際の良さに児童達は驚きで目を見張っていました。

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そして中川さんが机の上の取り出したアクション部分の鍵盤を流れるように打鍵するとそれに合わせてハンマーがきれいにウエーブすることを見せると、その見事さと綺麗さに思わず児童達から「おー」驚きと喚声が上がりました。さらに、フェルトの大きいハンマーは低音で、小さいハンマーは高音であることも教えました。

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次に、アクションを戻し、ピアノの本来の姿に戻した後、弦が見えるように児童達をピアノの周りへ呼び寄せ、弦の振動を説明し低弦の1本に傷のつかないピンポン玉を1つ置き、打鍵すると大きくピンポン玉が飛び跳ねました。児童達は一斉にその弦の振動の凄さに先ず驚きました。次に弦の振動を実感する為に直接触れることにしましたが、弦が錆たり傷つく恐れがあるので、弦の上にラップを置き、最初にクラス担当の先生が触れて振動を感じてもらうとその凄い衝撃による先生の反応を見て児童達も驚きました。その後、全員が一順し弦に触れ衝撃を実感し、児童自身が初めて知るその衝撃の凄さに一層驚いていました。ただ、弦の振動だけは大きい音にはなりません。
それぞれの弦を固定している木を「駒」と呼ぶこと、それによって弦の振動を下の「響板」に伝えていることを説明しました。
そこで、弦の振動を伝えられた「響板の威力」を教えるため、通常は小さい音で鳴っているオルゴールを「響板」の上に置くと、オルゴールの音が驚くほど大きくなり、先生と児童達も「響板の威力」にまたまた驚嘆の声を発しました。中川さんがさらに「響板」でなくてもピアノの側板や足、大屋根の支え棒に置いても同様な効果がありますが、「響板」が一番大きな音であることを教えました。
2,000人の大ホールでも後方の端まで届けるのが「響板の威力」であることを説明しました。そして中川さんは「自由にピアノを触れて良いよ」と言って演奏を始め、児童が自由に潜って下から、上から「響板」を直接触るだけでなく、他にも側面、足や支え棒に触れてその凄い振動を実体感し、また驚きの声を発していました。
そして、先生と児童全員でピアノの周りに集まり一斉に「あ」と響板に向かって叫ぶとそれに大きく響く残存音の響きが空間へ立体的に振動し響くことを知り、これにも一層驚いていました。
最後に大量のピンポン玉を弦の上にまき「キエフの大門」終わりの部分を力強く打鍵すると一斉にピンポン玉が大きく跳ねピアノ外まで出る玉もあり、まるでポップコーンが跳ねるような様子に児童達は改めて弦の振動の凄さを楽しく実感し、驚きと興奮の連続でこのコーナーが終わりました。(児童達だけでなく大人も「ピアノの仕組み」の説明はなかなか聞けないので、次々起こる仕掛けによる体験には興味が尽きませんでした)。

最後に4曲目*ムソルグスキー:「展覧会の絵」より キエフの大門* の演奏です。
「キエフの大門」は友人である画家が亡くなった後、展覧会で絵を見て、そこから作曲したこの組曲の最後の曲であることを教えました。自分自身が自由に感じること、そして「ピアノの仕組み」と「響板」による音が上部の空間とピアノの足を通して床に振動が伝わって音楽室一杯広がることが分かって、今回のコンサートの始まりのように単に聴くのではなく、全員が集中して聴いているのがよく分かりました。

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音楽の先生によればピアノを習っている女子児童は本当に興味津々で、とても勉強になったと言っていましたよと話されていました。
このコンサート終演後各組で児童達にアンケートへ記入をお願いしましたので、皆がどのように感じたのか知りたいです。

児童達にクラシック音楽を聴くことを難しく考えずに各自が気軽に自由に自分のイメージで好きな場所や姿勢で楽しんで良いことや、普段は本当に知りえない「ピアノの仕組み」と「響板の威力」でホール一杯に響く音の過程を楽しく実感することで児童達が身近にクラシック音楽を感じ、尚一層興味や関心を持ったのではないかと思います。
特に、今回は児童達が普段の音楽の時間では学べない、調律師にも同席していただき「ピアノの仕組み」と「響板の威力」をより楽しくわかり易く教え、実感することでより児童達に興味を沸かせ、インパクトを与えるアウトリーチコンサートでした。是非、児童達には今日の学習、実体感をしたことを大切にして、今後よりクラシック音楽を楽しく聴いてその作曲された時代背景や曲想そして演奏される楽器に興味や関心を持って頂きたいです。

(サポーター 柴﨑康久)

プロフィール

中川賢一  Nakagawa Ken'ichi(ピアニスト・指揮者)
桐朋学園大学音楽学部でピアノと指揮を学び、卒業後、ベルギーのアントワープ音楽院ピアノ科首席修了。97年オランダのガウデアムス国際現代音楽コンクール第3位。98年帰国後は、ソロ、室内楽、指揮で幅広く活躍する他、国内の様々な音楽祭に出演。NHK-FMに度々出演、新作初演も多い。夏木マリの「印象派」シリーズ連続出演や、故・頼近美津子、伊藤ひろ子、平野文等との朗読と音楽や、ダンスと音楽など他分野とのコラボレーションも活発。「Just Composed in Yokohama」、「超難解音楽祭」(仙台)音楽監督・プロデュースなども行った。サントリーサマーフェスティバル、東京の夏音楽祭、武生国際音楽祭に数多く出演。指揮では、東京室内歌劇場、東京フィル、広響、仙台フィル他と共演。NHKテレビ「名曲探偵アマデウス」、東京フィル、札響、水戸室内管等でピアノ演奏とトークを交えたアナリーゼ等を展開。現代音楽アンサンブル「アンサンブル・ノマド」メンバー。お茶の水女子大学、桐朋学園大学非常勤講師。
オフィシャルサイト http://www.nakagawakenichi.jp