活動動画 公開中!

トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
Menu

レポート

第一生命ホール ロビーコンサート
昨年の様子

~アウトリーチセミナー講師と受講生による

子どもと音楽との出会いをつくる「アウトリーチセミナー」は「コミュニティの中で音楽家がどう生きていくか」を実践を通して考えるためのセミナーです。
受講生は講師と共に弦楽四重奏を組み、トリトンアーツ主催の幼稚園や小学校でのアウトリーチを実践しながらノウハウを学びます。プログラム作りからコミュニティ活動の実践の場を通して、アンサンブル能力を磨き、作品への深い理解と表現力の向上を目指すと共に、演奏家としての今後の活動に役立つスキルを身につけることを目的としています。

セミナー終了の3月には第一生命ホールロビーを開放して、「ロビーコンサート」を開催いたします。若手演奏家と講師による室内楽の演奏をお楽しみください。

基本情報

日時 2017年3月30日(木)11:45開場 12:15開演 13:45終演予定
出演 講師:松原勝也(ヴァイオリン)
セミナー受講生:大庭絃子(ヴァイオリン) 市川友佳子(ヴィオラ) 松本亜優(チェロ)
ゲスト:柳瀬省太(ヴィオラ) 伊藤七生(チェロ)
概要 会場:第一生命ホール ロビー

[プログラム]
スメタナ: 弦楽四重奏曲第1番 ホ短調「わが生涯より」
ブラームス:弦楽六重奏曲第2番 ト長調 Op.36

■ 入場無料/未就学児の入場はご遠慮ください。
* 来場者多数の場合は、入場をお断りさせて頂く場合がございます。


[お問い合わせ]
トリトンアーツ・チケットデスク
TEL:03-3532-5702(平日11:00~18:00)

文化庁「平成28年度劇場・音楽堂等活性化事業」

レポート

< 2016年度アウトリーチセミナー 1年間の活動レポート >

文責:岡本悠(インターン)

2016年度のアウトリーチセミナーの第1回目の本番が10月20日に豊洲西小学校で行われました。この日のために、セミナー受講生たちは打ち合わせを重ね、練習に励んできました。


最初にセミナー受講生たちと松原先生、そしてトリトンアーツのスタッフが具体的なプログラム作成のための打ち合わせを行ったのは、8月29日でした。この日は、事前にセミナー受講生たちが作ってきたアウトリーチの「提案書」をもとに打ち合わせが行われました。この「提案書」とは、アウトリーチの流れをまとめたものです。これを見ながら、何をテーマとするか、またそのためにどのような方法を用いるのかが確認され、それらが本当に適切なのかということが議論されました。

セミナー受講生たちは、生徒たちに音楽を自由に聴き自由に表現する体験してもらうことをテーマに掲げていました。その方法として、過去の体験や単語、あるいは物語などと結びつけて、音楽を聴いて抱いた気持ちを表現してもらうことを想定していました。また、生徒たちに一番聴いてほしい曲として、スメタナ作曲の弦楽四重奏曲《わが生涯より》の第1楽章をあげていました。そして、《わが生涯より》を聴く時により自由に発想をしてもらうため、音楽の構造が複雑なこの曲を演奏する前に、構造がよりシンプルな曲を演奏することも視野に入れていました。

29日の打ち合わせでは、この提案書への懸念がいくつか議論され、最後に次の2つの課題が提示されました。すなわち、子どもたちが音楽を聴いて抱いた気持ちを、言葉を用いずに表出する方法を探すこと、そして《わが生涯より》の前に演奏するシンプルな音楽を探すことです。セミナー受講生たちは提案書を考え直すことになりました。


メールでのやり取りなどを経て、提案書の改訂版が作られました。その提案書は次のような流れでした。まず、生徒たちに《わが生涯より》の抜粋を聴いて感じたことを絵で表現してもらう。そのことを通して、音楽を聴いて抱く気持ちに意識を向けてもらう。そして、《わが生涯より》の第1楽章全体を自由な気持ちで聴いてもらう。

この提案書を携えて豊洲西小学校との打ち合わせが行われ、そこで先生の意見と要望を伺いました。その後、再度アウトリーチの内容と流れを検討した結果、10月4日に行われた第2回プログラム作成のための打ち合わせで、「弦楽四重奏で≪わが生涯より≫を聴く」というゴールは変えず、そのゴールに至る方法を変えることになりました。すなわち、生徒たちに絵で表現してもらうのではなく、セミナー受講生たちが《わが生涯より》に対して抱く気持ちを絵や写真で表現し、その絵や写真を生徒たちに見せる方法を用いることになりました。音楽を聴いて抱いた気持ちが表現された絵を見ることを通して、当初のテーマであった「様々な気持ちを抱いて自由に聴いていいと感じてもらう」ことが達成できると考えたからです。また、生徒たちが今学んでいるエーデルワイスを演奏することが決まっていたことから、前回の打ち合わせで課題に挙がった「《わが生涯より》の前に演奏する曲」をエーデルワイスにすることが決まりました。けれども、エーデルワイスはとても構造がシンプルであり、構造が複雑な《わが生涯より》との間には音楽的隔たりがあります。そこで、その音楽的隔たりが段階的に埋まるよう、松原先生がエーデルワイスをいくつか編曲することになりました。最後に、もう一つの課題であった「言葉を用いずに、抱いた感覚を表出する方法」として、セミナー受講生が気持ちを表現した絵や写真を一人2枚ずつ用意し、それらのなかで生徒自身が抱く気持ちに近いものを探してもらうことが決まりました。

アウトリーチ本番まであと少し。セミナー受講生たちはこの提案書をもとに練習とブラッシュアップをしていきました。


アウトリーチ当日、豊洲西小学校の音楽室にお邪魔しました。そこはとてもきれいで解放感に溢れた学校・音楽室でした。演奏場所や絵と写真の配置場所を決め、リハーサルを行い、あとは生徒たちの到着を待つのみ。セミナー受講生たちは緊張しつつもとても集中した様子でした。

豊洲西小学校のアウトリーチは4年1組と2組の2回行われました。

1回目の生徒たちは少し緊張した様子で教室に入ってきましたが、アウトリーチが始まると、普段耳にしない弦楽器の音と弦楽四重奏の音色に惹きつけられていきました。1回目の生徒たちはとても集中力があるようで、じっくり音楽を聴き、そして奏者たちを食い入るように見ていました。弦楽四重奏の響き、そしてセミナー受講生たちが音楽に対して抱いた気持ちを表した絵と写真を、身を乗り出して眺めていました。最後の「わが生涯」の演奏まで集中して、身体ごと音楽を聴いていました。

2016seminar_reportA.png

2回目が始まるころにはセミナー受講生たちも大分リラックスした様子でした。2回目の生徒たちは、よく発言し周りを見て行動する子が多かったので、時間を追うごとによりインタラクティブなやりとりがなされていきました。2回目の生徒たちも、普段耳にしない弦楽四重奏の響きに目をみはったり、馴染みのあるエーデルワイスに歓声をあげたりしていました。絵と写真が提示されると、周りの子とそれがなんの絵か、何にみえるかなど、賑やかにお話していました。1回目とはまた違った良さのある、終始楽しい雰囲気のアウトリーチとなりました。

2016seminar_reportB.png
今回のアウトリーチでは、生徒たちが授業で演奏しているエーデルワイスを取り上げたことで生徒たちの心をうまくつかんだようでした。また、普段聴いているリコーダーや合唱ではなく、弦楽四重奏による少し複雑な構造に編曲されたエーデルワイスを聴いて、弦楽四重奏の音色の魅力と音楽の多様性に驚いているように感じられました。そして、セミナー受講生たちがそれぞれ違った絵を見せたことで、生徒たちは音楽の感じ方が人によって異なることを強く感じ取っているようでした。

とても魅力的な演奏による、とても魅力的なアウトリーチのプログラムに、筆者自身も終始強く惹きつけられていました。生徒たちにとっても、新たな見方や新たな世界を垣間見る機会となったのではないでしょうか。

(以上 インターン 岡本悠)



「アウトリーチセミナー」その後について

トリトンアーツスタッフより補筆

その後、アウトリーチセミナーの本番第2回を江東区内の認定こども園で、第3回を中央区立中央小学校で行いました。

中央小学校は、昨年もアウトリーチセミナーで伺ったお届けした学校です。1学年1クラスという少人数校ですので、4年生と5年生に1回ずつアウトリーチを行ったのですが、今年も、4・5年生対象とすることにしましたので、今年の5年生は、4年生だった昨年に続いて2回目のアウトリーチということになります。そのため、5年生には、少し発展的なことに取り組んでも大丈夫だろうと、当初セミナー受講生が考えていたように、聴くだけでなく「子どもたちが音楽を聴いて感じたことを、何らかの方法で表現してみる」ことに挑戦してみようとなりました。


スメタナの弦楽四重奏曲《わが生涯より》第1楽章の一部を聴いて、セミナー受講生たちが自分たちが書いたり選んだりした絵や写真を子どもたちに見せて説明するところまでは、4年生と同じプログラムですが、5年生にはその後に絵を描いてもらうことに。何もないところに描くのは難しいのでは、と描線のみで円が描かれた白いA5サイズの紙を配布し、音楽を聴きながら、色鉛筆で好きなように色を塗ったり描いたりして、感じたことを表現してもらうことにしました。

最初は何を書けばいいのか戸惑っているように見えた子どもたちでしたが、何回か同じ個所を繰り返し演奏するうち、集中して鉛筆を動かし始めました。10分くらい時間を取ったところで、まだまだ書き足りなさそうにしている子もいましたが、何人かに絵を見せながら発表してもらうことに。「戦車がだんだん前に進んでいて、途中で激しくなるところはバラードの歌になっている」「雷とか雨とか嵐とか激しいことが起こっている」「もう暗くなったので、数羽の鳥が飛び立って海の上を飛んでいる」「何か変なものを封印していて、それを壊そうとしている」などそれぞれが抱いた豊かなイメージに、へえー、なるほど、と声が上がりました。

2016seminar_reportC.png

みんなの絵を回収して黒板に貼り、授業の最後に第1楽章をとおして聴いてもらいました。クラスメイトの様々な絵があることで、子どもたちもまた色々なことを想像しながら聴いていたようです。

2016seminar_reportD.png

音楽を聴いて感じることは人それぞれで、ただ一つの正解というものはないこと、それぞれが豊かな世界を膨らませることができることが実感できたアウトリーチになりました。


今年度セミナーの最後の催しとして、2017年3月30日に第一生命ホールロビーで、室内楽のコンサートを行いました。小学校でも紹介した絵や写真をロビーに掲示したところ、多くのお客さまが興味深そうにご覧になっていました。

終演後に行ったセミナーの振り返りでは、1年間アウトリーチに取り組んだセミナー生から「演奏と違って、子どもたちの前で話すのは難しかったが、やりがいがあった」「自分が心を開かないと子どもたちも心を開いてくれないなど、アウトリーチに向き合うほどに課題が見えてくる」「子どもたちが、心に浮かんだイメージを話してくれた時に、こちらの伝えたいことが伝わったのだなと実感した」といった感想が出ました。


トリトンアーツは、今後もセミナーを修了した若手演奏家に、アウトリーチなどでの演奏の機会をつくって活動を支援していきます。

プロフィール

松原勝也  Matsubara Katsuya(ヴァイオリン/講師)
東京藝術大学在学中に安宅賞受賞。ティボール・ヴァルガ国際コンクール、クライスラー国際コンクール等で上位入賞。1989年~98年まで新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを務める。ソリストとして新日本フィル、東京フィル、東響などと共演。2001年よりNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール主催の若い演奏家のための弦楽セミナー《アドヴェントセミナー&クリスマスコンサート》を、2011年より《室内楽アウトリーチセミナー》をプロデュース。第17回中島健蔵音楽賞、第55回文化庁芸術祭新人賞受賞。静岡AOIレジデンスクヮルテットメンバー、長崎OMURA室内合奏団アーティステックアドヴァイサー、霧島国際音楽祭講師、東京藝術大学音楽学部教授。
大庭絃子  Oba Itoko (ヴァイオリン)
4歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学 卒業。同大学研究科1年 在籍中。第4回日本イタリア協会コンコルソ 金賞。第59回東京国際芸術協会 新人演奏会出演。草津夏期国際音楽アカデミーにてP.アモイヤル、P.フランチェスキーニ各氏のマスタークラス修了し、第35、36回 ファイナルコンサート出演。フランス ロレーヌ夏期国際アカデミーに参加し、Jr.ソリスト選抜、ロレーヌ地方で演奏。同年、於駐日セルビア大使館で行われたミシュコ・プラーヴィ来日記念コンサートにてリベルタンゴを共演。ヴァイオリンを加藤知子、漆原啓子各氏に師事。室内楽を徳永二男、ジラール・エマニュエル各氏に師事。高嶋ちさ子12人のヴァイオリニスト メンバー。
市川友佳子  Ichikawa Yukako(ヴィオラ)
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学ヴァイオリン専攻卒業。同大学院音楽研究科音楽教育ヴィオラ専攻修了。ヴァイオリンにおいて、第12回みえ音楽コンクール第1位、併せて岡田文化財団賞受賞。第12回JILA音楽コンクール第3位。室内楽において、第4回ブルクハルト国際音楽コンクール第2位(最高位)。第5回蓼科音楽コンクール(現・セシリア国際音楽コンクール)第1位。ヴィオラにおいて、第22回市川市新人演奏家コンクール優秀賞。ザルツブルクモーツァルト国際室内楽コンクール2016第3位。現在、浦安施設利用振興公社主催による音楽アウトリーチ「ミュージックデリバリー」第2期生、トリトンアーツ主催室内楽アウトリーチセミナー2015 & 2016 ヴィオラ奏者として研鑽を積む。
松本亜優  Matsumoto Ayu(チェロ)
9歳よりチェロを始める。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部卒業。第5回日本演奏家コンクール弦楽器部門第3位。第51回鎌倉市小中高学生音楽コンクールチェロ部門第1位。第5回多摩フレッシュ音楽コンサート弦楽器部門優秀賞。第11回いしかわミュージックアカデミー奨励賞。第20回日本クラシック音楽コンクール弦楽器部門第3位。桐朋学園大学室内楽演奏会、ヤマハ主催音楽大学フェスティバル、日本工業倶楽部コンサート、IMAライジングコンサート、Joy of Chamber Music、蓼科クロイツェル音楽祭、サントリーホールチェンバーミュージック・ガーデン等に出演。平成27年度公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム事業(財.地域創造)アーティスト。サントリーホール室内楽アカデミー第3、4期フェロー。アンネ=ゾフィー・ムター、チョーリャン・リン等と共演。
柳瀬省太  Yanase Shota (ヴィオラ)
東京藝術大学音楽学部、桐朋学園ソリスト・ディプロマコースに学ぶ。第52回ジュネーヴ国際音楽コンクールディプロマ賞。第1回淡路島しづかホールヴィオラコンクール第1位。2002年、文化庁芸術家在外派遣研修生としてイタリア・パドヴァに留学。マリオ・ブルネオ主宰のオーケストラ・ダルキ・イタリアーナで活躍。04年シュトゥットガルト州立歌劇場管弦楽団に入団。09年帰国、神奈川フィル首席奏者を経て、14年4月、読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者に就任。ストリングクァルテットARCO、アルカスクァルテット、サイトウキネンオーケストラのメンバー。室内楽シリーズ、コンチェルトの共演、リサイタルなどで活躍。
伊藤七生  Ito Nanami(チェロ)
桐朋女子高校音楽科(共学)、桐朋学園大学卒業、同大学院音楽研究科(修士課程)修了。チェロを堤剛、岩崎洸、G.Riviniusの各氏に師事。2011年NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク主催室内楽アウトリーチセミナー修了。(財)地域創造平成24年度公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム事業鹿児島セッション参加。現在、フェリス女学院大学音楽学部講座副手、洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団チェロ奏者。
© S.Imura