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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

ラデク・バボラーク(ホルン)

ラデク・バボラーク

室内楽の魅力 モーツァルト
バボラーク・アンサンブル ホルンの室内楽 II

2016年の初来日時は、モーツァルトのホルン協奏曲全曲演奏で満席の第一生命ホール公演を沸かせた「バボラーク・アンサンブル」が、アンコールにお応えして待望の再来日。世界最高峰のホルン奏者ラデク・バボラークが、自身の親友たち(奥様含む)と組むアンサンブルで、ホルンと弦の響きが溶け合う「ホルンの室内楽」をたっぷりとお楽しみいただきます。演奏するのは、なんとモーツァルトのホルン協奏曲の第5番と第6番!? バボラークさんにお話を伺いました。

2年前「バボラーク・アンサンブル」で演奏した時の、第一生命ホールの印象はいかがでしたか。

バボラーク:素晴らしいホールです。聴衆の皆さんは聴き方というものをよくご存じで、ここで質の高いコンサートを聴くのに慣れているように感じました。ホールのサイズも、大きすぎず小さすぎず、室内楽にぴったりです。ホルンに完璧な音響ですね。

2年前にモーツァルトのホルン協奏曲全4曲とホルン五重奏曲を演奏していただいた時、とあるインタビューですでに、次回はモーツァルトのホルン協奏曲第5番を持ってくるかもしれない、とおっしゃっていましたね。

バボラーク:え、本当ですか? では、約束どおりですね(笑)。

モーツァルトの番号つきのホルン協奏曲は、第1番から第4番までしかないわけですが、この第5番や第6番を創ろうというアイディアは、かなり前から温めていたということでしょうか。

バボラーク:そうです。もう覚えていないほど、ずっと昔から考えていました。例えば、モーツァルトのホルン協奏曲第1番とされている作品ですら、出版社か誰かが、別々に書かれたニ長調の曲を2曲持ってきて、調が同じなので1つの曲にしてしまおうと考えて第1番にしたわけで、それと同じようなことをやってみただけです。第6番の場合は、もともとモーツァルトが書いたホルン協奏曲の断章K370bを第1楽章にし、ホルンのために書かれたロンド・コンチェルタンテK371を、狩の音楽にぴったりなので第3楽章として使い、緩徐楽章としてはアダージョ変ロ長調 K580aを持ってきました。 ホルン協奏曲第5番も同じことです。第1楽章がホルン協奏曲の断章のアレグロK494aで、他のオリジナルのホルン協奏曲と同じように、第2楽章に緩徐楽章、第3楽章にはモーツァルトの作品のプレストの中から、狩のキャラクターを持ったものを選びました。ですから、モーツァルトの協奏曲とまったくかけ離れたものにはなっていないはずです。この試みが、モーツァルトの意に沿うといいなと思います(笑)。

リサイズ小_RADEK BABORAK_IMG_4434 - コピー.jpgモーツァルトが完成させたホルン協奏曲についても、以前、第1楽章はソナタ形式、第2楽章は歌、3楽章はもともと狩で使われていた楽器であるホルンらしく、狩の音楽が楽しめる、とおっしゃっていましたね。それをこの第5番、第6番でも実現したわけですね。

バボラーク:そのとおりです。これは、ホルン奏者にも喜ばれると思うのです。例えば、私がバッハの作品などで、とても難しい編曲をした時、ホルンを学んでいる学生には難しすぎて演奏できないということも起こるのですが、これはテクニックが最高に難しいというレベルではないし、モーツァルトは分かりやすい。モーツァルトのホルン協奏曲全4曲といくつかの断章というよりも、ホルン協奏曲全6曲と呼べるようになればと思います。知られていない曲からも選んでいるので、有名すぎないのもいいと思うのです。

ホルン奏者にとっては新しいレパートリーができますね。

バボラーク:そうです。もう第1番から第4番はどこでも演奏しつくされてしまっていて、誰もがよく知っている。でもモーツァルトは、もっとホルン協奏曲を書こうとしていたのです。理由は分かりませんが、なぜか作曲するのをやめてしまい、また、いくつかの作品は失われてしまいました。ですから、この第5番、第6番を作ることで、ではこれで終わり、と初めて言えると思います。

日本で初めて演奏するのでしょうか。

バボラーク:いえ、これからレコーディングをしますので、9月にはCDを聴いていただけると思います。夏の終わりにはチェコやヨーロッパで公演もします。

★_0KU3466_(C)大窪道治.JPG前回はオール・モーツァルト・プログラムでしたが、今回はライヒャとボウエンがプログラムに入っています。この2曲について少しお話しいただけますか。

バボラーク:ライヒャはチェコの作曲家で、ベートーヴェンの良き友人でした。現在は作曲家としてはあまり知られていません。パリのコンセルヴァトワールで教えていた教師で、リストやフランクなど多くの有名な弟子がいます。ハーモニーやフーガなどの理論についても本を書いています。多くの作品を残した作曲家で、ホルンという楽器についてもよく知っていました。3つのホルンのための作品やホルンとピアノのための作品があります。このホルン五重奏曲は、まるで小さな短い交響曲のようです。ですから協奏曲とはまた違った形をお楽しみいただけると思います。技術的にはモーツァルトの作品よりも、ずっと複雑です。 ボウエンは、20世紀の作曲家です。20世紀前半の作曲家は、道がふたつに分かれましたよね。ひとつは新ウィーン楽派で、伝統にとらわれない実験的な道です。でもヨーク・ボウエンは異なる道、エルガーのような、古き良き伝統的なイギリス音楽を継承することを選びました。この作品は、20世紀に書かれたホルンと弦楽四重奏のための最もすぐれた作品のひとつです。モーツァルトのホルン協奏曲は、室内楽で演奏できるようにアレンジしたものですから、組み合わせとして、このボウエンのホルンと弦楽四重奏のためのオリジナル作品を最後に持ってくるのは良いと考えたのです。

2年前もホルンを勉強中の学生がたくさん聴きに来てくれましたが、より音楽を楽しむためにメッセージのようなものをいただけますでしょうか。

バボラーク:学生へのメッセージは常に同じでシンプルです。「音楽を楽しんで」。そうは言っても、音楽を楽しむのはそんなに簡単なことではありませんよね。私自身も学生の時は、人生を楽しんで、音楽を楽しんでというのは難しかったものですから(笑)。多くの学生にとっては、モーツァルトのホルン協奏曲をソリストとしてオーケストラと共演するというのは夢ですよね。でも、友だちをホールや、例えば庭などにまねいて、少人数で演奏したらどうでしょう。それはまさに、モーツァルトの時代に、モーツァルトやその仲間たちがやっていたことなのです。その時代にはラジオもiTunesもなかったので、音楽を聴きたかったらコンサートに行くしかなかったわけです。今はもっと色々な可能性がありますが、もし誰かが目の前で演奏してくれたら、何か考え方が変わると思うのです。うわあ、なんて速い! なんて高い音! なんて難しそう! など色々気づくことがあるでしょう。オーケストラでなくてもいいのです。4人とか、2、3人の友人と、家族のために、何かお祝いごとの席など、ちょっとした所で聴いてもらうために演奏すればいい。これこそ、モーツァルトたちがやっていたことなのですから。

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気心知れた仲間たちとの「バボラーク・アンサンブル」は、まさにこのモーツァルトの時代の音楽の楽しみ方を思い起こさせるもの。指揮者としての活動も著しいバボラークさんの、極上のホルンによる室内楽を楽しめる数少ない機会、どうぞお聴き逃しなく!